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可惜夜(あたらよ)の魔法使い  作者: 常に移動する点P
第1章・女神

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第9話・女神降ろし

 出城の鋼鉄の門がギギと音を立てる。地の底に響くような尖った音だ。土くれとなった魔物たちと一緒に伏せる、ゴードとジャンヌ。


「ジャンヌだけ蘇生させましょう」

 そう言うと、セイレンは蘇生魔法を唱えた。エルフが確かに勇者となっていたのだ、私は歓喜の声をあげた。セイレンに私を人間にしてもらえる。そして私はやっと死ねるのだ。


「セイレン、つかぬことを聞くけど、それって私を人間にできる魔法も習得したってことだよね」

 私は下手に出ながら、セイレンの顔色をうかがう。

「そうですよ。でも、オワツを人間にするのは、まだ先です」

「どうして?」

「女神との一戦が控えているからですよ」


 セイレンはそう言いながらも器用に、ジャンヌを蘇生した。ジャンヌは私との出会いを忘れているのか、わからなかったが杞憂に終わった。


「オワツ、ありがとうございます。うまくいきましたね。あ、バルス!」

 ジャンヌはバルス(セイレン)に飛びついた。セイレンは、ごにょごにょとなにやらジャンヌに語り掛けた。


「何をしたの?」私の問いにバルスは

「面倒なんで、理由は聞かず、私のことをセイレンと呼ぶように言いました」と。

 確かにややこしい。それでジャンヌは納得したのか、とにかくセイレンを抱きしめたままだった。


「で、どうやって女神を」

 重い口をリヒトが開いた。魔王らしからぬ出で立ち、身体の大きな青年にしか見えない。左手には逆さ盾を軽々と持っていた。

「コイツです」

 リヒトは逆さ盾を高く掲げた。


「この中に、セイレンの魂が閉じ込めらえていたってことだよね」

「はい、ゴードに背中から襲われて死にましたから私」

 私はじっとセイレンを見て

「わざとでしょ、そんなマヌケじゃないよ。私の一番弟子は」

「そうでもしないと、ジャンヌが私を倒すことはできませんから」

 リヒトは冷静に言った。


*

 この時代にまで巻き戻しで私を連れてくること、これが、セイレンとリヒトの狙いだった。そのためには女神を欺かねばならない。だからこそ、ジャンヌにはシナリオを伝えない。本気で勇者ではない“ジャンヌ”に、魔王ゾルグ(現リヒト)を倒させる必要があつたのだ。勇者でないものが、魔王を倒すと、女神が描いた勇者・魔王の再生サイクルが狂う。魔王も勇者も、命を亡くした後、さまよう魂となるだけだ。勇者バルス(現セイレン)は逆さ盾に、魔王ゾルグ(現リヒト)は鋼鉄の門に潜む魂、となって息を凝らしていたのだ。私が女神のもとから人間界へと降りるタイミングを見計らって。あとは、ジャンヌが私と出会うだけ。それは、逆さ盾に魂を移したセイレンが密かに導くだけだった。

*


「ということは、セイレンはジャンヌの恋心を利用したってこと?」

 野暮な質問を大き目の声でしてみた。だってジャンヌが可哀そうだろに。

「いいえ、私はジャンヌを愛していますよ。エルフと人間、種族は関係ありません」

 ジャンヌは照れくさそうに、セイレンの金髪に触れる。リヒトが掲げる逆さ盾がガタガタと揺れる。

「あの、いいですか。お取込み中」

 リヒトは続けた。


「この逆さ盾で女神をおびき寄せます」

 リヒトとセイレンの考えはこうだった。女神と人間は同じ階層で交わらない。人間界で起こる神の御業は、全て神託や福音、祝福を得たものだけだ。僧侶は回復系魔法を、賢者は世界を束ねる知恵を、勇者は神器とも言える蘇生・即死・無機物を有機物に変質する、といった魔法を賜る。


 このことが意味するのは、神は人間界で直接的に影響を及ぼせないということだ。神の意志は誰かの意思を介して、下される。


 神の意志を純度高く下すのは、勇者だということだ。だからこそ、人間界の理を覆す魔法の使用を赦したのだ。


 一方、女神は巻き戻しの魔法の存在は知らない。詠唱できるのは、オワツだけだからだ。時間に関する魔法は、神管轄ではない。原理原則がわからない魔法、それはオワツが長い年月のなか自ら魔法同士の合成によって編み出した魔法だからだ。


 セイレンがオワツのもとで修業をしていたのは、この時間に関する魔法を探していたからだ。図らずも、強固な師弟関係となったのは、オワツの懐の深い人間性・人徳によるものだろうと。皮肉にも、アンドロイドが人類の中で最も人間性や愛を知るということなのだと、セイレンは感じていた。


 この巻き戻しの魔法によって、密かにリヒトとセイレンが同じ時間軸で出会い、オワツの最強弟子が二人、さらに孫弟子にあたるジャンヌも加えて、四人パーティーとなった。人類史上最強となる四人だ。だがそんな四人が集まったところで、女神のもとへと今の身体のままで行くことはできない。神と人間とでは生きる次元が違うのだ。


 リヒトは逆さ盾を掲げながら、言った。

「壽念ですよ」

「壽念って、本当にあるの?」

 ジャンヌが目を丸くして言った。

「ありますよ、壽念は。 魔王は現在11体現存しています。それらをすべて、倒せば、それまでに魔王たち倒された命たちが、魔王所有の具物に集まります」


 リヒトは続けた。

「そして、それはこの男の一族の手にかかっています」

 セイレンは蘇生魔法を詠唱していた。ゴード・スーが蘇った。

「いててて、あ、セイレンじゃないか。遅いんだよ。いつまで死なせておくつもりだよ」

 ゴード・スー、陽気な男だ。私が思っていたのと違う。


「ゴード・スーは、スー派と呼ばれる暗殺者の一族です。彼らは勇者とは程遠い、女神からの祝福など一切得られない穢れとも言われています。彼らがいま11体の魔王を暗殺に向かっています」

「魔王の暗殺って、私とセイレンでもなかなか手がかかったぞ。これまでの魔王は」

「ええ、だからこそです。全地の魔王たちには、私から事情を説明済みです。女神討伐で意思統一できています」

 セイレンは答えた。


 魔王をすべて倒す、11体の魔王たちの魂は勇者ではない者に倒されたせいで彷徨う。ここで魔王から勇者への転生ルートが阻害される。同時に魔王に倒されたものたちの壽念が強固な具物を目指す。それが、逆さ盾だ。遠隔地にあったとしても、その力の強大さに念は惹かれるのだ。


 彷徨う魔王たちの魂、転生ルート異常、強大な壽念を得た具物、これらは神託や福音、祝福を得たもの程度には任せられない重大異常事態だ。女神とはいえ、神々の序列のなかでは中位。神々からの神罰により、女神の地位をはく奪されれば、人間界いやそれ以下の世界に堕とされる。それを阻止すべく、女神は密かに人間界に降り、原因を取り除きに来るはずだということだった。


 誰もが女神に命を弄ばれている。だが女神と戦う術がない、そのなかで、私の弟子二人が策を凝らしたということだ。


「女神が人間界に降りてくるためには?」

 私がそう言うと、リヒトとセイレンが示し合わせたように、

「受肉です」

 と言った。


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