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可惜夜(あたらよ)のアンドロイド魔法使いは、人間になって死にたいから、勇者を探す  作者: 常に移動する点P


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第六話・魔王討伐の真相

 ともかく、私の勇者探しは振り出しに戻った。これほど勇者に出会うのが困難だとは。女神は勇者に祝福を与えている。それは、回復魔法を与える祝福とは少し違うらしい。女神の気まぐれ、そう言えばいいのだろうか。女神が目をかけた人物が、勇者となる。勇者起源はここから発生し、もとからいる魔王を討伐したものは、いずれ死して魔王に転生。


 一方、討たれた魔王は勇者に転生するというものだ。私が知る限り、この世では十二体の魔王がいたはずだ。うち八体は私とセイレンで倒した。私もセイレンも勇者ではないから、倒した魔王は、勇者に転生することもできず、この世とあの世のはざまを彷徨う。世界に飢饉や天災といった、予測不可能な不幸はこの彷徨う魂たちの業が成したものだ。なぜそれを知り得るか?それらは、セイレンらエルフが種族を挙げて研究していたからだ。

 

セイレンが私のもとで共に戦ったのは、魔王と勇者の質量保存の法則を解明するためだ。長年の研究の結果、エルフたちが導いた結論、魔王と勇者の転生関係は、悪と正義を一定量で維持するためのものだと。それは必要悪を必要正義で抑え込むという相互補完関係だ。

 

私はその理論の正しさを証明するために、セイレンに敢えて利用されたというわけだ。

 

 魔王が勇者に転生できないことを知った女神は、新たなる勇者を生み出す。その一人がバルスだったのだと思うのだ。

 

 だが、この男は勇者バルスではない。道中無口で私たちは、リム王国へと向かった。遠い、果てしなく遠い。ワイバーンを捕獲して餌付けして飛行するほうが、遠回りのようで近いのではと、思う。

 

 そんなことよりも、この老人いや、若者は誰なのだ。察しがいいのか、自ら名乗り始めた。

「オワツ、僕の本当の名は、ジャンヌ・ガーディクスだ。職業は、召喚士。主に精霊召喚だ」

「ほほぉ、剣の腕は立つのかな?」

 意地悪な問いと思われるかもしれないが、重要だ。私は近接戦闘には長けてない。盾も剣も使いこなせない。

「魔法剣士を志したことはありますから、前衛でも多少の力にはなれるかと」


 意外と殊勝さをもってして、返答する。


 リム王国へはここから一週間はかかる。空間移動、転移するには遠すぎるし、この距離で二人とも転移したとなれば、時間を撒き戻す魔法はしばらく唱えられない。魔力が空っぽになるのは目に見えている。一日も寝れば回復できるだろうが、魔力切れなんてもう何千年も起こしていない。手持ちの貯金をすべて使い切って、明日を生きるような真似だ。意外にも私は堅実なのだ。


「バルスはどうなったの?ジャンヌとともにパーティーメンバーだったんじゃないの?」

 バルス・テイト、確かに勇者として馳せた名だ。世情に疎い私にも耳にしたことがある。

「バルスは、見習いのようなもので。ただ、勇者がパーティーにいると、旅の道中はラクになります。宿、武器・防具、道具、金のかかるところには、王の勅令が働きますから」

 なるほど、こういうところに税金がつかわれているのか、勅令の効力は羨ましくもある。


「バルスを利用したというわけだね。バルスは死んだということなの?」

 私の問いは常に忖度がない。間合いがない、距離ゼロで尋ねた。

「バルスは僕たちに代わって。死んだんです」


 ジャンヌが肩を落とす。急に歩みが遅くなった。背中に背負った逆さ盾は目が縫い付けらえれている文様だ。真一文字に閉じられた口からは、蘇生か即死か、勇者専用の魔法を軽く唱える。

「まさか、それが?」


 私の嫌な勘は当たる。


「気づかれましたか?と言うよりその方が合理的に説明できますからね。そうです、この盾はバルス・テイトの魂が乗り移ったものです」


 説明がつく。魔王に返り討ちにされた勇者の魂は、再び女神の祝福を受けて勇者に転生する。何度も繰り返し、魔王を倒すためだ。魔王を討伐した勇者が、魔王に転生するという過程は、女神の悪趣味とも言えるところがあるが。


「転生しそこない、か」


 私の言葉にジャンヌは深く頷いた。寿念なんてものじゃなかったってことだ。どおりで聞いたことがないと思った。


 手持ちの魔具―逆さ盾にバルスの魂が乗り移ったということではあるが、意思疎通は図れないとのことだった。


「なんとも、厄介だな」


 私は続けた。


「ならば、ジャンヌが勇者ではないことなら、次の勇者に引き継ぐこともできないでしょうに」

 ジャンヌはぬかるんだ湿地に足をとられながら、返事した。

「無機物を有機物に変える魔法、この魔法は口伝だから」


 私の足もとに、フロッギーたちが群がる。毒蛙だ。毒をもって毒を制す、の格言のとおり、湿地全体に強毒の魔法を詠唱するのが正しい討伐法だ。が、それではジャンヌの身が危うい。おそらく即死となるだろう。


 ジャンヌは自分の足元のフロッギーたちを見るなり、私に断りもなく強毒の魔法を詠唱した。

「ちょっと、毒を盛るときは一声かけてよ」


 私のクレームに

「強毒耐性ぐらいあるでしょう、オワツなら」

と。何ともふてぶてしい。


 フロッギーたちは狂ったように、暴れた。湿地から何千匹ものフロッギーが跳ねる。強毒耐性があるのか、少々厄介な展開に、ジャンヌは炎の精霊たちを召喚した。小さい火炎玉のような精霊たちは統率がとれている。


 ジャンヌの呼吸、吸うタイミングで体制を整え、深く吐き出すと同時に、フロッギーたちを炎で包む。あたり一面が焦げ臭い。

「ずいぶんと、乱暴だね」

 私の言葉に、ジャンヌは

「精霊魔法もすべて、バルスからの口伝です」

「弟子だったってこと?」

「いえ、恋人です」


 すっかりとしっかりと、思い込んでいた。私自身、性別がないし、セイレンだってエルフで性別もない。三千年一緒だった女神に至っては、女の神と称しながらも、性別はないらしい。つまり、私は何千年も性別無関係の世界で生きてきたわけだ。


 バルス・テイトは女性だった。


 みんな男だと思っているぞ。湿地にめり込む足に苦労しながら、ポツリポツリとジャンヌは語り出した。バルスは女性であることを隠した勇者、魔王戦では、魔力切れを覚悟しながらも、蘇生魔法を詠唱したせいで魔力暴走を引き起こしたということだ。それなら説明がつく。今時魔法学校の生徒でも、魔力暴走なんて起こさない。


 パーティーメンバーは他にいたのか、私の問いに、ジャンヌは口ごもりながらも、語った。ゴードと言う戦士がいたと。


 三人パーティー、多数決、民主主義の反映にはもってこいの人数編成だ。


「で、そのゴードとやらは、どこに?」

「寝返りました」


 魔王側に寝返る、よくある話だが、蘇生までしてもらってというのは、前代未聞では。魔力切れを起こしたバルスは、魔力暴走に陥り、そのわずかな時間で、口伝でジャンヌに無機物を有機物に変える魔法を継承させたということだ。


 理論的には成り立つが、勇者固有の魔法を口伝とはいえ、継承させることができるのか。だが、ジャンヌはその証明をすることはできない。詠唱すれば、死んでしまうから。


 バルスは魔力暴走のさなか、ゴードに討たれた。背中から斬られたらしい。ジャンヌが精霊魔法のすべて、炎・水・雷を召喚し、魔王とゴードを倒した。これが、リム王国で起きたすべてだ。


 勇者ではないジャンヌに討たれた魔王は彷徨う魂となり果て、裏切ったゴードは形すら残らなかったと。バルスは魔王討伐叶わず死したため、本来は女神のもとへと還るはずだが、ジャンヌへの想いが現世にとどまらせたのか、逆さ盾に魂が入り込んだという。


 なおさら、時を巻戻さなければならない。


 魔王討伐の直前まで。私が魔王を討伐する、セイレンなしというのも未経験だが。

 ジャンヌとバルスは人間として結ばれて欲しい。ゴードという戦士にはお仕置きして、精神を根本から鍛え直したい。


 メラメラと燃え上がる謎の執念めいた感情。ジャンヌとバルスに肩入れする理由などないが、愛がそこにあると思えばこそ、正しく見届けたいものだ。

「ところで、魔王ってのは、なんという名だった?」

 ちょうど湿地を抜けたあたりだった。日が落ち始める前、背後にはフロッギーたちの焼け焦げた骸が浮かんでいる。


「ゾルグ・リグレットです」


 くぁー、私アイツ苦手。セイレンと後回しにした魔王だ。


「ゾルグかぁ、強いよねぇ」

「ええ、強い。とてつもなく」

 仕方ない、一万歳越えの本気を出してみよう。七千歳の頃とはちと違うからね。


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