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可惜夜(あたらよ)の魔法使い  作者: 常に移動する点P
第2章・勇者

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第11話・女神戦顛末


 リヒトが不意打ちに近い形で、その命を絶やした瞬間、禁忌の術が発動した。タダでは死なない元勇者にして現魔王。なんどこの輪廻を繰り返したのだろうと、オワツはリヒトの最後の燃える命を左目で追いながら想った。


 ジャンヌがその禁忌の術を見極めた。女神に必中のその打撃は、弱点を強制的にあぶり出す。可視化された弱点は、刻印となりそこに壽念が集まる。この場合の壽念は、ゴード一派によってその命を託された勇者と魔王たちの魂である。ジャンヌが勝ちを確信したその瞬間に、ジャンヌの上半身が吹き飛んだ。


 予想外の展開はある。戦闘と言うものに予定調和はない。強いモノが勝つばかりではないし、ふとした油断でもなく、いわゆるジャンケンの三角関係の如く、あちらで強いものはこちらでは弱く、そういった強弱の関係が矛盾する輪のごとく表裏でつながっている。


 オワツはセイレンを見た。覚悟ができている顔だった。誰一人死なせない、死なないというのは無理筋だ。オワツは魔法に魔法を重ねる重層化魔法・八式を詠唱していた。八重に重ねた魔法、二重の二式でさえ顕現化するのは困難とされている。二式の四倍の八式は物理上の限界点まで、沸点の上限はないとされているが宇宙開闢の際まで、高温を極める。


 詠唱時間を稼ぐために、リヒトとジャンヌはフロントに立ったのだ。その二人が瞬く間に死んだ。セイレンは勇者固有魔法の蘇生魔法を試みる「フリ」をした。蘇生魔法は魔力上限まで使い切る。つまり、枯渇した魔力が暴走する、魔力暴走を誘発する。かつてのバルス(現セイレン)による魔力暴走は、リム王国の国土の約半分を壊滅させた。それゆえ、女神は魔力暴走を抑えるべく、蘇生魔法を詠唱した後のセイレンに魔力を付与する、というのがセイレンの見立てだった。


 リヒトとジャンヌが半ば特攻のごとく命を顧みない攻撃に特化。女神による自動防御により、二人ともほぼ即死に。ここまでは筋書き通り。女神は、セイレンが蘇生魔法を打つと踏んでいた。オワツの不気味な八式は、女神には悟られてはいない、女神の上位にあたる神々でも二式がやっとのことだからだ。そもそも、二重に魔法を重ね掛けするだけで、魔力が底をつく、神々でも同様だ。理論的に二式以上の実装は不可だった。


 まず、セイレンは蘇生魔法に模した即死魔法を詠唱することとしていた。それはリヒトやジャンヌはおろか、オワツさえも欺いた。敵を欺くには味方から、それも狡猾に静粛に。


 オワツの教えを最後まで守ったセイレンは即死魔法を女神に向けて、直列詠唱した。一度詠唱した即死魔法を続けて詠唱するというものだ。エンドレスの術式とも呼ばれる直列詠唱は、魔力切れを起こさないという盟約のもと果たすことができる。


 四度目の詠唱、即死魔法を漫然と受ける女神は攻撃の一手を熟考していた。どうやって殺そう、その方法を楽しみ尽くしていたのだろうか、セイレンの脳裏に女神の邪悪さが映し出される。


 神々が人間の味方というわけではないし、人間が盲目的に神々を信仰しているわけでもない。お互いギブアンドテイクの関係、狩猟民族ならば、男が狩猟に女が子を育てるかのごとく、お互いが共生する関係。神と人間は互いに依存するがゆえ、お互いを憎む。


 女神の一撃は魔法によるものであった。それも回復魔法。セイレンに施された超強回復魔法は、同じく直列詠唱によるもので、セイレンの細胞が高速で再生と破壊を繰り返す。ものの一分程度、セイレンは塵と化した。


 オワツが最後に見たセイレンは微笑んでいた。いつもの優しい親友の顔だった。満足した顔に見えたのは、時間稼ぎという目的を十二分にも達成したという、最後の勇者としての誇りがあったのか、オワツは集中する。最後の一式、七式目からの八式目。


 女神がオワツに語り掛けた。自身に生と死のすべての理を知るかのように、言葉の一つ一つが傲慢であり、醜悪であった。


「取引をしよう、オワツ」

 八式の詠唱を止められないと悟ったのか、オワツは詠唱を止めない。死んでいった仲間たちを、命を賭した勇者たち、魔王たち。輪廻の渦から生きて出ようとした命たち。


 オワツは死ぬために、人間の身体を手に入れたかった。リヒトやセイレン、ジャンヌ、勇者たちや魔王たちは、生きるために、生物の基本条件・ルール・背景・意味・定理・理由にただ、本能として向かう。死ぬために生きる生物はいない。


 オワツは八式の詠唱を終えた。女神の弱点強化が杭のように八式の魔法を内・外へと囲い込む。身体の内側と外側に魔法結界がほどこされている複雑な術式に、女神自身も魔力の強大さに驚嘆する。


 オワツの耳にこびりつく、「取引をしよう」の声。女神の真意が掴めない。形成有利にあるのはオワツ自身だというのに。取引とは。


 返事を拒むオワツに、女神は上半身が吹き飛び、下半身が折れ曲がるように座したジャンヌに蘇生魔法と即死魔法を交互に繰り返す。再生される身体、朽ちる身体、それは拷問と言ってもいいほどだった。


「オワツ、返事がないな。取引だ」

 オワツは身体の中心が熱くなるのを感じた。かつて、セイレンに言われた身体のどこかは有機物だという言葉を思い出していた。ここが人間と同じ、ここに心があればいいな、とオワツは呟いた。


「断る」

 オワツは詠唱し終えた八式を閉じた。魔法に魔法を掛けたあと、袋を結ぶようにして八式を結び閉じねばならない。オワツは結び閉じの言葉固めをはじめた。同時だった。


「断ったな、よし」

 オワツにとってそれが女神の最後の言葉と思えた。八式をそのまま受けたのだ。内側と外側がつながった魔法と魔法は互いを誘爆しあう。


 一式は炎、二式は雷。互いに爆裂する魔法同士の上から、三式には弱点追撃の補助魔法が機能する。リヒトの禁忌の術に報いるように。


四式は遅延魔法、時間の流れがゆっくりと進む。五式は精霊ウンディーネを召喚しつつの大水圧。時間の流れの緩やかさに呼吸が不能となる。炎のエネルギーが二式の雷に吸収され、水流のなかで感電現象が発生する。六式は気圧魔法。深海に潜っているのと同じ、気圧が女神を押しつぶす。七式は麻痺と毒を掛け合わせた魔法により、体内に残された力を根こそぎ奪い取る。魔力による再生が困難になる。


 最後の八式は、聖属性による神霊魔法。死した神々の力を借りて、女神を滅するというものだ。たとえ受肉した女神であったとしても、人間の形を成したとて、神は神。神は神の手でしか滅ぼせないのだ。


 肉片の一部になりながらも再生を試みる女神は、笑う。地響きするほどの声で。戦いの場に選んだ、リム王国とサグ・ヴェーヌ連邦の境界地。死したる神々の壽念が最強となる地での最終決戦。八式により女神は滅びる、はずであった。


 八式の神霊魔法がロックされている。魔法効果が発動しない。神々が天と地をつなぐゲートまで来ているはずなのに、魔法効果が発動しない。なぜだ、オワツが考え込んだそのコンマ数秒。女神は再生を果たした。


 女神は、高らかに勝利を宣言する。オワツの先ほどの「断る」が、自身との契約と盟約を反故にしたのだと言い放つ。


 オワツが神々と接点を持つには、女神との契約は必須だ。断るの意味は、広義に解釈される。理不尽にも、その瞬間にしてオワツは神々を呼び込むことができなくなったのだ。女神の力が介在する八式目・神霊魔法であることを、オワツ自身が見逃していたのだ。


「そんな」

 オワツの声が小さくかすれる。その声にオワツ自身が心を挫く。だがオワツは言い放つ。

「受肉体になり果てたお前は、このまま寿命によって死ぬのだ。いずれ死ぬ」

 女神は高らかに笑う。嘲笑う。

「オワツ、私が受肉体になどなり下がるとでも?」

 女神はそう言うと、再生中の身体を逆に自ら破壊し始めた。

「これは?」

「そうだ、受肉体ではない。私への従順な生贄」


 うつし身、神々が神の言葉を発せさせるために使う神霊魔法のひとつ。女神の余裕はここから生まれていたのか、とオワツは後悔をいまさらながらに沸騰しているほどに熱い胸に刻む。



「オワツよ、私を侮りすぎたようだな。盟約と契約の反故を忘れ、しかも受肉体だと思い込む。長く生きるということは、傲慢になるということでもあるのだな。私は幾重にも保険をかけている。お前が魔法に魔法を重ねたようにな」


 そう言うと女神は、オワツの身体の中心に目掛けて、光の魔法を詠唱した。光の矢はオワツを貫く。そこは、オワツが唯一人間であると確信した、胸のあたりだった。


 機能停止するオワツ。そのまま重力に引っ張りこまれるようにして、膝から大きく崩れた。オワツの眼に弱弱しい、涙が浮かぶ。すうっと空を、ひとしずく、熱気とともに消えた。


 女神はオワツを物理的に破壊することを試みた。自死により忌避装置が働くことは知っていた。オワツの破壊すなわち死事態に忌避装置が働くのではと言う疑念はぬぐえない。女神の躊躇、判断を狂わせたわずかな時間、死んだはずのセイレンによる蘇生魔法がオワツを包む。

 直列詠唱により即死魔法唱えていたセイレンは、最後の詠唱に蘇生魔法をオワツに付与していた。発動条件まで設定できるのは、元エルフだったなごりだ。


 オワツの有機物部位は再生と回復を始める。一方、深刻なダメージを受けた女神には次の一手が繰り出せないでいた。本来の受肉体ではなく、うつし身である以上ここが潮時。


 遠隔で操るには、生贄となった娘の肉質は限界に達していた。

 七式までの魔力集中効果により、地変が起きていた。蘇生反応が見られないまま、オワツは深くえぐれた大地の隙間に飲まれていった。オワツを物理的に地中深くに封印したも同じと判断した女神は、うつし身から意識を解放した。

 女神にとってもはやオワツのこれまでとこれからを考える必要がなくなった。同時に、再び魔王と勇者を自ら生み出し、秩序ある世界の構築をと、意識が向かっていた。


 それから、二百年後、オワツはリム王国の紛争地付近の農村で発見される。美しい顔と身体は、衣類を身に着けていなかった。ハリのある肌、血色はよく、生きているが動かないと判断する方が合理的であった。農村兵たちを率いる組頭によって、オワツは棺に納められ、教会の地下にて管理された。


 組頭は牧師であり、女神の祝福を受けていた。オワツからかすかに感じる魔力、それが女神の恩恵に預かっていない異形のものだと目をつけていた。女神を信仰しない、隣国サグ・ヴェーヌ連邦が開発した傀儡かもしれないと、教会地下で厳重に管理することとなった。

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