プロローグ
今日もまた俺は一仕事終えた。田中誠、心臓マヒで死亡。普通の日常を生きている人間であれば目の前で死を経験することはそう多くはない。でもおれには日常だ。俺は死神だから。
「おうグリム。お前も今日終わりか?聞いてくれよ。今回の俺の担当死に方めっちゃ笑えてさ。」
窓口で業務完了の旨を伝えた後に話しかけてきたこの金髪の死神はホルン。俺よりもずっと前からここ、死神の世界メタファにいる。俺たち死神の仕事は24時間後に死ぬ人間の最後を見届けること。稀に俺たちが現れると気を狂わせ早く死のうとするやつがいる。そいつらを止めるのも仕事だ。きっちり24時間後に死ぬように。
人間の世界はここに比べて明るすぎる。夜でも鬱陶しい。俺たちにはこの薄暗く、じめっとしたこの世界があっている。
「ホルンは今何回仕事をしたんだ?そろそろ終わりが近いんじゃないか?」
「多分そろそろだと思うんだよね。やっとこのめんどくさい仕事から解放されるよ。」
俺たち死神はどこで生まれて、どこから来たのかよくわからない。見た目だって人間とそこまで変わらないが気づいたらここにいた。ただ目標だけはある。97回人間の死を見届けること。そうすると死神は消滅する。二つある死に方の内の一つだ。もう一つは地獄の口に入ること。そこに入ると無限の苦しみが待っているらしい。この二つの方法だけが俺たちの最後だ。
「じゃあな。さっさとお前が消えることを祈るよ。」
「おう。お前も早く消えれるよう仕事するんだぞ。」
ホルンと別れ、俺は住処に向かった。死神には人間が暮らす家というものはない。大体の死神は地べたで寝たり、自分のスペースを確保するだけ。おれは暇だったので、崖を掘って人間の家っぽくしてみた。いつだか死んだ人間の家にあった電灯をつける。これはいい。明るさを調節できる。
「なんだこれは?」
グリムはやせ細った細い腕を伸ばす。そこにはノートぐらいの大きさの石板があった。大きくタイトルのように、人間とは、と刻まれている。その下に文章そして、5つ穴が開いている。
「感情の石を集めろ・・・。喜び、怒り、悲しみ、楽しみ。最後に愛。すべて集めたものには真実が与えられ、解放されるだろう。」
血色の悪い顔にニヤッと笑みが浮かぶ。面白そうだ。この世界には娯楽もなにもない。仕事をするだけ。どうせ死を見届けるだけのつまらない仕事。この際これで遊んで暇をつぶそう。