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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

苛められた私が聖女になる理由

作者: 小埜我生

※残酷な表現や自殺などの表現があります。

苦手な方は閲覧をお控えください。


今日、私は死んでやる。

通学鞄を持つ手に力がはいる。

飛び降りてやるんだ。

白河(しらかわ)ひよりはそう決意して家を出た。


彼女へのいじめが始まったのは高校に入学してすぐだった。

百合姫女学院ゆりひめじょがくいんは小等部から大学までのエスカレーター式のお嬢様学校だ。

彼女は両親の強い希望により高等部から編入した。

編入する生徒は他にもいたが彼女以外の生徒は特待生レベルの成績優等生か、財閥などレベルのお金持ちだけ。

その中で彼女はどちらにも属していなかった。

成績は悪くもないが中の上程度。

家はここ数年勢いあるいわゆる成金。

両親はもてるだけのコネとおそらく裏金によって入学させた。

それは他の企業の令嬢との繋がりと卒業後の嫁入りのため。

百合姫女学院卒業というだけで見合いの釣書の価値は跳ね上がるのだ。

そんな彼女は中途半端な存在で浮いてしまった。


陰口にはじまり、無視、私物への落書きなどいじめは徐々にエスカレートしていった。

両親は毎日どの企業の令嬢と仲良くなれたのか?

なんでまだツテの一つ作れないんだ?

と繰り返すばかりでもう学校に行きたくないといったときは父に服で隠れるところを何度も殴られた。

母は床にうずくまって泣く私に一瞥しため息をこぼすだけで助けてくれない。


学校にも家庭にも居場所なんてない。

先生に助けを求めたこともあった。

しかしいじめの主犯格の生徒はこの学校の理事の孫らしく、見て見ぬふり。

百合姫女学院の校訓 『正義』『慈愛』『奉仕』。

「どれ一つも当てはまってないじゃん」

部屋で声も出せずに泣いた。


トイレの個室の中にいたら上から突然、水が降ってきた。

個室の外からは笑い声。

私は洋式便座に身体を抱きしめながらうつむく。

反応がないからか飽きたと言って外の人たちはトイレから出て行った。

身体から水滴が垂れていく。

涙と混じって床に垂れていく。

もう限界だ。私の中からも涙と一緒に何かが流れていく。


今日はこの学院の卒業生である女性政治家のおばさんを招いてのセレモニーで講堂に高等部全員が集められている。

彼女が先日文部科学大臣に就任したので学校からの祝賀もかねている。

すでにセレモニーは始まっていて舞台で大臣が挨拶をしている。

私はそれを〝上〟から見ていた。

照明の点検のための足場で、先日今日の為の点検か鍵が刺しっぱなしだったので拝借した。

舞台の上とはいえ結構な高さ。

席に私がいなくても誰も気にしない。

まさかこんなとこにいるなんて思いもしないだろう。

全員がいる前で自殺する。

遺書も用意したし、大臣がいるならさすがにもみ消せないだろう。

私が考え得る復讐だった。

大臣が挨拶を終えて舞台の端にある席に戻ったタイミング。

誰も巻き込まないようにそのタイミングで私は飛び降りる。


悲鳴が響く。目の前に舞台の床が迫ってくる。

あぁ、これでもう終われるんだ。そう思った瞬間目の前が光で包まれた。

眩しくて目を閉じた。

そこで異変に気付く。床に衝突した痛みも衝撃もない。

「これがあの世なの?」

眩しさが消え、目を開けるとそこは講堂の舞台の上だった。

私は死ねなかったという現実に絶望した。

何故かみんな固まっている。信じれないものを見ているような目。

けどそんなのどうでも良いくらい悲しかった。


「ーー聖女さま」

生徒の一人がそう零したその言葉は他の生徒へと伝わり全員へと広がっていく。

そしてそれは舞台上の大臣にも伝わっていった。


突然舞台の上から落ちてきた女の子。

制服のスカーフが赤いからおそらく一年生。

床に叩きつけられる瞬間恐怖で私を含め皆が悲鳴をあげた。

けれど彼女は床に叩きつけられる直前に身体は白い光を発して、空中に浮く。

光が収まるとともにゆっくり床へと降ろされる。

神々しい。その言葉しか出てこなかった。

光に守られているようで神秘的なその姿は全員が息をのむほど美しかった。

しかし目を開けた女の子の表情はまるで絶望してるようだった。



あのあと私は舞台上で気を失い保健室に運ばれた。

その後目を覚ました私は学長室へ連れて行かれ、そこには学長と大臣の二人の女性が待っていた。

自殺が失敗した私はもうどうでも良くなっていた。

私を連れてきた、おそらく大臣の部下のスーツの男性に言われるがままソファに座った。

男性は二人のソファの後ろに下がる。

怒られるのだろうか。

それとも何故飛び降りたのか聞かれるのだろうか。

沈黙が続いたあと口を開いたのは大臣だった。


「はじめまして白河さん・・・あなたは聖女なのかしら」


二人のこちらを伺うような視線。

聖女?何を言っているの?


「聖女はもちろん知っていますわね?貴方にあのとき起こった奇跡はまさしく神の御業でした」

私の困惑が分かったのだろう。

学長が私の気絶直前の目をつぶっていた瞬間の出来事を説明してくれた。

あの光によって私は・・・。


日本にとって、いや世界にとって聖女とは救国の英雄なのだ。

百年前の大戦時、突如世界の各所に黒い霧が現れ始めた。

これが後に瘴気と呼ばれるもの。

最初は戦争や工業などによる空気汚染と考えられていたが瘴気を吸い続けた人間が続々と倒れ化け物へと身体が変化した。

緑や紫の肌。鱗やただれだらけの身体。

『モンスター』とよばれた化け物達は理性をなくし周り全てに襲いかかる生物兵器と成った。その力は強靱なうえに死を恐れないモンスター達。

戦争どころでなく人々は逃げ惑った。

城塞を築き、モンスターから身を守るが瘴気が発生すればそれも意味なく。

人類の生存圏は狭まっていった。

滅亡すらあり得た。しかしそれを救ったのが聖女。

モンスターに襲われそうになった瞬間に身体から光を放った少女。

その光に触れたモンスターや瘴気は塵となった。

神が人類救済の為に力を与えた。

人々は聖女に救いを求め、聖女はそれに答えた。

彼女には神からの啓示があったとされている。

結界をはり、瘴気とモンスターを封じる。

世界は救われ平和が訪れた。

子供でも知っている聖女物語。


「現在も結界は存在していますが年々弱まってきている事が確認されているの」

大臣は眉間にしわをよせる。

「・・・・・」

「でも聖女が身罷われる前に、結界が弱まったとき再び日本より聖女を神が遣わされると言い残していて」

「・・・・・」

「あの光から私たちは貴方がその新たな聖女だと考えているの」

「・・・・・」

大臣の言葉になんの反応も示さない私に二人は困ったように顔を見合わせていた。


だってもう死ぬつもりだった私が世界を救うための聖女?

どうでもいい。


これからの事を説明された。

聖女は世界的に重要人物となるため国の庇護下に入ること。

聖女の力を強めるため聖女研究を行っている人物からの教育。

そのために両親とともに国が用意した屋敷へ引っ越すこと。

それに伴い両親にはそれ相応の報償が渡される。

聖女として発表されれば各国へのお披露目を行うので淑女教育を中心として百合姫には通い続けられること。

他にも色々あったが大まかな内容はこんな感じ。

私に選択の余地はなかった。


その後の検査で私は聖女というのが確認された。

結界の弱体化により漏れ出た瘴気がある場所に連れて行かれたが私に何の変化もなく。

かつて聖女が結界を作った際の祝詞のりとをいうと瘴気は消え、その場だけだが結界が修復され強化された。

それは聖女の再来を確定させた。


私が聖女として認定されると両親は手のひらを返したように喜んだ。

さすが私たちの愛娘。

父の会社には国からの融資や財閥からの連絡が絶え間なくきており、かつて成金と揶揄された姿はそこにはなく。

今では聖女の生家というどの国からも繋がりを欲されるほどの存在になっていた。


かつて私を虐めていた生徒達も今では私が登校するたびに媚びを売ってくる。

あのときは本当は虐めたくなかった。

周りに流されて仕方なく。

そういって、いじめはこいつが始めたと主犯格として彼女達の一人にいじめのターゲットを移した。

私からの報復として以前より苛烈ないじめ。助けを求められたが私は彼女達に報復しろなんて一言もいってない。

彼女達が保身のために行っているだけ。

聖女を虐めていたなんていくら大企業の娘だろうがバレたら一生を棒にするレベルなのだから必死なんでしょう。



金と真珠に彩られた聖女の装いに身を包み私は民衆の前に立つ。

歓声が沸き立ち、世界中に同時中継されている。

この場には各国から首脳が集まりその時を待っている。

私が飛び降りたあの日から五年。

聖女の力は急激に成長していき。

修行も兼ねて世界中を飛び回り、綻びからの瘴気を消滅させていった。

どの国からの救援も断らぬその姿に人々は陶酔していき、今日ついに完全に結界を再生させるとあって国をあげた式典を世界中が見守っている。


彼女と同じ時代に産まれた幸福を。

美しく神々しい姿のひより様。

彼女に祈りを捧げる人々で広場は埋まっている。

直接でなく式典のために広場に設置された大型モニターに映し出された姿だがそれでも伝わる。

彼女の存在が公表された当初は幼い姿に不安の声もあがったが瘴気を消し世界中を守る姿に誰しもが心打たれた。

日本の女神ひより様。

彼女の存在は日本の世界への発言力にも影響を与えるほどで。

今日の式典で完全に結界を再生させることは新たな世界へと生まれかわる。

その瞬間を皆が見つめる。


「ではひより様お願いいたします」


私はあの日の大臣から促され舞台の上に立つ。

全員からの視線が集まり皆が息をのむ。

私が祝詞を唱えると空にかつての聖女が作った結界の文様が浮かび上がり、その文様に沿って光が伝わっていく。

そして文様が全て光に包まれた瞬間、人々は結界の再生に喜びの声をあげた。


パリン


光は割れた音とともに消えた。

そして文様が消えた空には瘴気であふれていた。

皆が悲鳴をあげてその場から逃げていく。

空から降ってくる瘴気が最初に触れたのは先程の大臣だった。

瞬く間に異形のモンスターへと変わった。

それがさらに場を混乱させた。


皆が逃げていった舞台で私は瘴気に包まれた空を見上げた。

あいにくかなり強くなった聖女の力のおかげか瘴気どころかモンスターさえも私に近づく事さえ出来なくなっていた。

一人残された舞台で私は人々の悲鳴と逃げ惑う姿を見下ろす。

「終わったよ」


私は死ねなかったことに絶望しながらも言われるままに聖女として過ごしていた。

力はどんどん強くなり、この力がある限り私は死ねない。

どうすればと悩んでいた。

そんなときお告げのようなものを私は得た。

夢の中にあらわれたのは泣いている少女。

三つ編みの黒髪にボロボロのワンピース。

「・・・聖女?」

私は泣く少女にそう問いかけた。彼女はコクリと頷いた。

かつての聖女は貧しい家の娘だったと教えられていた。

聖女としての力を発現させてからは国からの支援により裕福で幸せに過ごしたとされている。けれど目の前の彼女は泣いていた。

消え入る様な声に耳を澄ますと。


聖女なんてなりたくなかった。

モンスターの盾にされて怖い。

実験痛いよ。

お母さん私を化け物なんて言わないで。


気付いたときには彼女を抱きしめていた。

彼女も私を抱きしめて二人で泣いた。

歴史は偽りだった。

いや、聖女としての力は本当だったが。

彼女は幸せなんかじゃなかった。

今より荒れた世界に突如現れた、瘴気へ対抗できる可能性を秘めた少女。

少女は全てに陵辱された。

拘束してモンスターの前に無理矢理出させられたり、その力を究明するために言葉にするのもおぞましい実験をされたこと。

聖女の力により死ぬことも出来ない彼女は苦しみを受け続ける事しか出来なかった。

唯一の救いだった母親もそんな姿に畏怖して拒絶した。

もう終わらせたくて結界を作ったのだ。

瘴気さえ無くなれば自分も解放されると信じて。

しかしその後は外交を行う餌として飼い殺しにされ老衰で亡くなるその時まで幸せなど彼女には無かった。

日本に再び聖女が現れるなんてのも諸外国への牽制の為の嘘。まさか事実となるなんてその当時の人間達は思いもしなかっただろう。

意識が共有されているのか彼女の過去が流れ込んでくる。

そのとき私は決意した。

彼女の全てを奪ったこの世界を壊してやる。

それも彼女の結界を使って、幸せの絶頂の瞬間に絶望を。

私の絶望よりも深い彼女の悲しみ。

私たちの不幸の上に成り立つ世界なんて壊れてしまえ。

そこからの私は誰よりも聖女らしく振る舞った。

皆に、私が世界を救う希望と信じ込ませるため。

そしてそれは成功した。

これから世界は破滅していく。

彼女の結界により封じられていた瘴気はあふれだし、人々はモンスターへとなっていき、殺し合うだろう。

私が平和のために武器の放棄を各国に求めたため、武力がかなり低下している。

モンスターとろくな戦いも出来ないだろう。

結界を盾にすればどの国も拒否出来ないのは都合がよかった。

瘴気よりお前らの方が汚いのよ。

私を守る光から彼女の笑った声が聞こえた気がした。

貴方を苦しめた世界を貴方と私で壊したんだよ。


ーーーーーーー一最後まで一緒に見ていようね。私が死んだら私たちを苦しめた光の原因に復讐しようね。

感想や評価していただけるととても励みになります。

拙い文章ですが少しでも楽しんで頂けると幸いです。


誤字報告ありがとうございます!訂正しました!

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― 新着の感想 ―
光…まさか滅びの…闇の力で戦わないとディエル!!
人の汚さ云々よりも、光が原因で悪いと思いました。
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