ギャノメシ④ タケシメシ② めんたいパスタ
「おはよう…ございます…」
ボリボリと頭を掻きながらルミが寝室から出てきた。タケシに散々言われたのが効きさすがに部屋着には着替えている。
「おはようて…もうお昼前ですよ。昨日も遅かったんですか?」
「いつも通り日付変わってたわよ。その後、例によって定時連絡で…応援要請してるんだけどねぇ…決裁遅いのは珍しくないけど、それにしてもよ⁈ こっちの要請が上まで届いてないのかしら⁈」
徐々に語気が荒くなって来たのをタケシは察知。怒りの魔人が目覚める前にすかさず話題を逸らす。この辺りはタケシもだいぶ慣れてきたようだ。
「そうですか。あ、ルミさん、お昼は? 今日はお休みでしょ? こっちで食べるなら一緒に作っちゃいますけど」
「…作る? …タケシくんが?」
言葉が通じなかったのか、珍妙なものでも見るようにタケシを見る。
「そうですけど…なんか変?」
「いや…食事って素人が作れるものなの?」
その一言にタケシが凝固。
「何言ってるんですか? 当たり前です、そんなの。っていうか、あんまり贅沢できないんでね、自炊した方が安上がりなんで。大したものは作れないけど」
「へぇ…」
タケシを見るルミの目に、尊敬の色が。
「じゃぁお願いしちゃおっかな」
「了解です。めんたいパスタでいいですか?」
「なんでもいい、って言うか食べてみたいな、それ」
「了解です」
「見ててもいいかな?」
「構いませんけど、面白いものじゃないと思いますよ」
「うぅん、いい。邪魔しないようにするね」
「了解です」
そう言って、タケシの調理開始。背後にはルミが張り付いている。
「まずはパスタ…スパゲッティね、茹でます」
たっぷり沸かしたお湯に二人分の乾麺が入る。
「俺はお湯に塩入れない派なんです」
「塩とか入れるんだ…」
「…そこからなんですね…下味を付けるためなのか、入れるって人が多いです」
「ふぅん…」
「さて一方でフライパンを用意してですね」
「この道具は知ってるわ! 私も持ってる!」
「そ、そうっすか…これに牛乳入れて温めます。温め過ぎないように気をつけて」
説明が入るのでだんだん料理番組めいてきている。
「温めてる間に明太子を用意します。冷蔵庫から出してきたこいつをですね、こう、包丁でシゴいて、皮と中身を分けます。分けたものはこう、ボウルに入れまして、ついでにバターも入れちゃいます。うーん、皮ももったいないから細かく刻んで入れちゃいましょう」
斜め後ろからルミが神妙そうな表情で見ている。おそらく明太子は口にしたことはあるのだろうが、元の塊のものを見るのが初めてらしい。
「で、牛乳が温まったところでコンソメ投入。今日は二人分なので2個入りました」
コンソメが溶けにくいのであろう、ガンガンと木べらで崩している。
ピピッ ピピッ…
パスタが茹で上がったようだ。
「で、表示より1分短く茹でたコイツをですね、フライパンに投入。入ってるのは牛乳ですが」
投入と豆乳を掛けたのだろうがもちろんルミには通じない。
「んで、あとは牛乳の水分を吸わせてトロッとなったところで火を止めて、明太子を入れて。手早く混ぜて…はい、完成」
「おおっ!」
ルミはパチパチと拍手をして歓声を上げる。
「あとは皿に取り分けておしまいです」
「へぇ、そうやって作るんだ」
「牛乳使うのはオレ独自のレシピですけどね。パサつかないのでこっちの方がオレは好みなんです」
取り分けられたパスタは、明太子と牛乳が合さったピンク色のソースをとろりと纏い、バターのツヤと香りが食欲をそそる。
皿をテーブルに運び、二人は相対して着席。
「じゃ、食べましょう」
「ええ。いただきます!」
まずはルミがフォークで麺を取り、口に運ぶ。それを神妙な面持ちで見つめるタケシ。
「どう…です?」
いささか上目遣いで恐る恐る聞いてみた。
「んんーっ!(モグモグ、ゴクン)美味しーっ! 何これ、え? ホントにタケシくんが作ったの?」
「…今ずっと見てたじゃないですか…」
「そうなんだけど。そうなんだけどっ! いや何これ美味しーい」
「お気に召していただき光栄です」
「へぇ…料理って、できるものなのね。別位相空間へすっ飛ばすとかしなければ…」
「え? 今何て?」
「ん? あ、いえいえこっちの話。さ、タケシくんも食べて食べて!」
「あ、はい、いただきます」
誰かと食べれば食事はもっと美味しくなる。家ではずっと独りで食事をしていたタケシも嬉しそうだ。