スピードの彼方
スピード違反大量検挙祭りがひと段落した頃。
やり過ぎを指摘された県警がスピード違反に及び腰になると、やはり飛ばす輩が増えるもの。取り締まりをしてないわけでもないのでちゃんと検挙はされているのではあるが。
そんな中、小田厚から箱根新道にかけて、やたらと速い一台があるとのウワサが広まっていた。白黒覆面総動員で検挙に努めるもいつも振り切られているという。
編集部内でも話題に上がったので、デギール取材の傍ら、タケシが取材へ赴くこととなった。
深夜の小田厚大磯PA。深夜便の大型車が並ぶ中に、いかにもそれっぽい、いわゆる『走り屋』の車が並んでいる。噂では赤いスカイラインR32を改造したものだそうで、R32もGTS-tともなれば珍しく、あれば目に付くはずなのだが、それらしいものを見かけることは無かった。ウワサを元にタケシはここへ来てみたのだが、これで4回目。目当てのドライバーにはなかなか接触できないでいた。
「タケシさん、今日も空振りっスかね」
取材に同行している渡辺が独り言のように聞いた。
「仕事で走ってるわけじゃないからね。気が向いたらってとこだろうし」
閉店している土産物屋の前で、男二人、ぼーっと駐車場を眺めること2時間。右手の駐車場入り口から赤い車が入って来るのが見えた。
「…あれか?」
赤と聞いていたので全塗装でもしてあるのかと思いきや、純正のワインレッドメタリック。やや車高を下げてホイールが大径化されている以外、見た目は大人しい。だが間違いなくR32型のスカイラインだ。
コンコン
「ちょっと話、いいかな?」
窓をノックするとスルスルーとガラスが降りた。
「誰? 警察の人?」
怪訝そうな顔で返事をしたのは20台前半ほどの若者だ。
「週刊誌マンスリー編集部の者です」
渡辺が名刺を差し出す。
「ふーん。週刊誌が俺に何の用?」
「最近すげー速い車がいるって聞いて、取材に来たんだけど」
「そういうのならお断りします」
「まぁまぁ、ちょっと話を聞かせてくださいよ」
渡辺が食い下がる。
「そういうの、興味ないんで。車、出しますよ」
スーッとガラスが上がり、タケシと渡辺が離れると、スカイラインは出ていってしまった。
「うーん、不発ですかね」
「どうかな。まぁこういうのは粘り強く交渉ってのがセオリーだからね。また来よう」
「そうっすね」
◆
次の夜。
何となくまた会えそうな気がして、今度はタケシ一人で来てみた。
案外そういう予感は的中するもので、昨日と同じくらいの時間になると赤いR32が駐車場へ入って来た。
コンコン
「ん? …またアンタか。取材は断ったハズだよ」
「まぁそうなんだけど、取材以前にちょっと話を聞きたくて。これ、エンジン載せ替えてる? RB26とか」
「え? いや、エンジンはそのままでボアアップだけ」
「どのくらい?」
「2.3」
「じゃ、あんまりトルク不足って感じでもないのか」
「…アンタ、車詳しいのか?」
「そんなに詳しいわけじゃないけど、親父が昔スカイラインに乗ってたからね。今じゃウチの車庫に入ったままだけど」
「型は?」
「DR30」
「…後期?」
「ああ。後期のターボCってヤツ」
「へぇ。それは珍しい」
(やっぱり車好きには車の話だよな)
タケシの思惑通り、車のネタで振れば反応は返ってくる。「仲間」になれば打ち解けて何か聞けるかもしれない。
「今日は乗って来てないの?」
「ああ、そもそも親父の車だからね」
「そっか…」
若者はそう言うとしばらく考え込み
「いいよ、取材」
「え、ホントに?」
「ただし条件がある。俺と勝負して、アンタが勝ったら取材、受けるよ」
「俺が負けたら?」
「別に取材なしってことでいいよ」
「いやいや、それはフェアじゃないでしょ。なんか条件ないと」
「…アンタ、変わってるな」
「そうかな?」
「…うーん、じゃ、缶コーヒー1本で」
「それでいいのかい?」
「いいよ。そもそもこっちには条件付けるつもり無かったから。ルールは?」
「真っ直ぐなところでやっても面白くないから、箱根新道でどう?」
「箱根新道ね。スタートは?」
「小田厚の料金所過ぎると酒匂川越えるだろ? その橋の渡り始めがスタート。そうだな、ハンデで、アンタ、先に行っていいよ。俺は気が向いたら踏むから」
「おおっと、舐められたもんだ」
タケシは笑うが
「アンタ、車は?」
「あー、オレは車じゃないんだ」
「はぁっ?」
「あれ」
タケシが指差した先にあるのは…
「バイク? カタナ…現行の? アンタ、俺を舐めてんのか? バイクが車になんか」
「おっと、先に舐めたのはソッチの方だぜ?」
「…チッ。いいさ。後悔すんなよ」
捨て台詞を残し、スカイラインは駐車場を滑り出た。
◆
「車がとんでもないってわけでもないのか」
後ろを付いていきながら車を観察するが、確かに排気量が上がっている分多少排気音が太くなっているものの、パワーを追求したという感じでもなさそうだ。
「3ナンバー…公認取ってるんだ。すると『腕』の違い、ってことなんだろうけど…下り最速とかいうんでもなさそうだし…うーん…」
箱根新道に入ってしまえば、最後に下りの急なワインディングがあるが、今回指定されているコースは全線坂上り。後輪駆動車に有利とはいえ、ハイパワーの四輪駆動でも持ち込まれれば勝負にはなるまい。
「腕以外に差がつくことって何かあるかな…」
と、あれこれ考えている間に小田原料金所を抜けた。間もなく指定されたスタート地点だ。
見ると窓から手が出ている。先に行けという合図のようだ。
「はいはい、じゃ、お言葉に甘えて」
追い越し車線から前に出た時、覚える違和感。
「あれ? 今…運転席、人いた…か?」
追い越しついでに相手の様子を見ようとチラッと運転席に目をやったが、その一瞬では存在に気が付かなかった。
「それに…何でだ? さっきから他に走ってる車、なくないか?」
深夜とは言え、箱根越えで静岡方面へ抜けるルートなのだ、普通車は無くとも大型の貨物車は走っているはず。それが今一台も、ない。
「なんか怪しいぞ…」
◆
小田原からの合流を超え、間も無くスタート地点。タケシはギアを一つ落とし、スタートの加速に備える。ICの合流を過ぎて、見えてきた酒匂川の標識。ギアをさらに落とし、標識を過ぎる瞬間、スロットルをフルに。スタート!
だが次の瞬間、驚愕する。スタート直後ですらすでに文字にするのが憚られる速度が出ていたにも関わらず、タケシの右側を紅蓮の矢が突き抜けた。
「え? ええぇ? ウッソぉ…いやマテ、いきなりそんなスピード出るもんかぁ?」
とにかく離されては話にならない、まずは付いていくことを最優先に。驚くことに、距離が縮まってきている。
「手加減か…」
車輌の性能差が勝因では面白くないのだろう、スカイラインはややペースを落としたように感じられた。なんなら追い付き追い越すことができそうな位まで。
そして遂に追い付いた。このままスリップストリームで引っ張ってもらっても良かったが、行ける時にリード差を付けておかないと不味かろうと前へ出ることに。
その時、タケシはチラと運転席を見る。
「マジか…!」
そこにあったのは、デギールの黒スーツ。
並ばれたことに気付いたのか、スカイラインは再び加速。しかしその出だしはどことなく物理法則を無視したような、あまりにもスムーズかつ急激なものだった。
「ギャノンスーツで運転すると速度が上がるって理屈が分からないけど、現実が目の前にあるからなぁ…それならこっちも!」
タケシは左手を上に掲げ
「フェイザー!」
いつもならフェイズヘイローを手で引き落とすところだが
「ぬんっ!」
左手を前に振り出すと、光の輪はバイク前方に展開、輪をバイクごと通過すると
「ギャノン!」
タケシはスーツを相着していた。
「行くぞっ!」
再びスロットルを入れ、加速した。
◆
スーツになって気が付く。
「速っ!」
空気の抵抗感が激減した。それはライダー本人だけでなく、マシンにも効いているように感じられる。
「向こうもそうなのか? スーツって乗り物にも影響があるんだな。新発見だ」
スピードが乗り、スルスルと距離が詰まっていく。
そしてそれは空気抵抗だけではないらしい。
トンネルを抜けわずかな直線、そして自動車専用道を抜ける右出口。それは急激な弧を描くが、厄介なのは右旋回の後、西湘バイパスからの合流のため左旋回に変わる。
「そのスピードで突っ込むってのかよッ!」
パッとブレーキランプが灯りスカイラインは急減速するが明らかなオーバースピード。しかし、軽くリアを流しながら狭い下りカーブをドリフトで抜けていく。荷重移動で車の鼻先を変えると左旋回もスムーズにクリア。
「よくやるっ!」
タケシもそれに続かんと車体を倒して出口へ進入。だがどうだ、普段からは考えられないスピードで入ったものの、車体は驚くほど安定している。タイヤのグリップとか横Gとかの物理法則は全て無視されているかの如くだ。
「何だこれ! 速っ!」
タケシも西湘合流を抜け、いくつかの車線変更・合流をこなしてトンネルへ。
「スーツ着てれば死にはしないとか思ってたけど、全然違うぞ。限界高過ぎてどこまで行けるかわかんネェ!」
箱根新道方面へ入り道幅狭いカーブと合流を抜けるとかつて料金所のあった地点を通過。ここからしばらく長い直線の上り坂が続く。
しかし、タケシはスカイラインに千切られることなく、車体3台分ほどの距離に付いている。
「ホントどういう理屈だ? 倍とまではいかないにしても100馬力くらいは差がありそうなもんだけど、案外付いていけるもんだな!」
◆
長い上りの直線セクションが間も無く終わる。目前に見える猿沢橋を越えれば左カーブ。そして右に左にの高速コーナーが続く。直線では排気量差やパワー差がそのまま車間差になってしまうが、コーナリング勝負とあらばその差を最小限に済ませることも可能だ。とは言え天下の公道、対向車の心配は常に必要なのだが
「何ィッ?」
猿沢橋に差し掛かったスカイラインは右車線へ、そのままアウトインアウトでコーナーを駆け抜けた。
「マンガじゃないんだぞ…だが、そういうことか!」
間も無く迫る右コーナーも、ブラインドにも関わらず堂々右車線のクリッピングポイントを経由して、スカイラインはレコードコースを通り抜ける。そしてその後ろをタケシも憶なくついて行く。
「つまりは対向車は来ない、ってことだな。どういう仕掛けか分からんが、ともかく普段の2倍の幅で道路が使えるってこった! まるでマンガだなっ!」
クネクネと高速コーナーをクリア。とは言え二車線分あるのだからほぼ直進と言えるだろう。そしてこれより七曲、そこへ至るに右のキツいコーナーがある。
「…どういうことだ?」
前を行くスカイラインが対向車線に出る気配がない。
「…インを刺せるのか?」
タケシがクリッピングへ向け右に体重を掛けたその時。
「チッ!」
対向車のライトが見えた。
タケシはすぐさまコーナリングの体勢を止め、回避に移る。
その結果、コーナリングのラインが乱れた上にエンジンの回転数も落ち、立ち上がりの先にある急な坂道の入り口でスピードを乗せられなかった。
「くっそー! 来るのを分かってたか!」
タケシが登坂車線の入り口に差し掛かる頃にはスカイラインは緩やかに右、そしてその先のヘアピンに向かっていた。
登坂車線が終わる頃にやっとパワーバンドの回転数まで持ち直したが、その先を行くスカイラインはフルブレーキングからクリッピングへノーズを向け、綺麗なテールスライド共にコーナーをクリアしていた。
「やるな!」
タケシもまた、限界までブレーキを遅らせ、最短時間でヘアピンをクリアする。
「どうにかコーナーで詰めておかないと…!」
キツいコーナーが続き車線幅も狭いこのセクションを抜けると、箱根新道では最も長い登坂車線の直線がある。その先緩やかに左に切れば黒岩橋を渡り切るまで再び直線だ。排気量差、パワー差を考えるとタケシが不利であることは否めない。
木々に阻まれ先が見えぬ緩やかな左カーブを抜け登坂車線のある直線に達すると同時に、その先の左カーブへ丸い灯りが吸い込まれるのが見えた。
「結構な差が付いちまったな!」
効果の程は別にして、空気抵抗を少しでも減らすべく、タケシは前傾姿勢で直線を駆け抜ける。
「もっと! もっと速く!」
4気筒998CCが甲高い咆哮を上げる。
直線を抜け、緩やかな左を抜けると黒岩橋の先まで見渡せる。4つの丸い光球は橋の上を飛んでいた。
「追い付けるのか…これ?」
橋を抜けると再び登り坂のセクションとなる。
「行くしかねェッ!」
登り坂セクションに入り、再び山肌を縫うように右に左にコーナーが続く。ここで詰めたいところだが七曲りほどではないにしても勾配がキツい。
急傾斜を抜けると穏やかな上りに変わる。最標高地だ。
「あっちは⁈」
4つの赤灯は見えなかった。
◆
最標高地から芦ノ湖畔へ辿り着くのに急な下り坂「椿ライン」を下りる必要がある。その入り口、いや箱根新道からの出口、芦ノ湖大観ICは、今タケシがいる位置より少し先へ行ったところを左に入るのだが
逆に箱根新道への合流は、今タケシのすぐ右にある。
「…一か八か! 南無三!」
タケシは右に体重を預け、ICを逆走するつもりだ。
対向車がないのを幸いに合流へ向かう。
「間に合ったのか…?」
その時。
フォン…
左から赤い車体が横切っていくのが見えた。
「いたっ!」
合流を右に曲がり、すぐさま追撃へ向かう。
◆
椿ラインは苛烈だ。狭い上に急なヘアピンが続き、その上路面も粗い。
箱根新道のヘアピンとは様子が違い、スカイラインはフルブレーキングからテールを流してヘアピンをクリアしようとするが、路面の粗さに車体のコントロールに苦心しているようだ。ギアも1速か2速かで迷いがあるようで出口で安定しない。
「おまけに鼻っ面に重い6発を乗せてりゃ、どんなに補強したって!」
タケシの指摘通り、急な下り坂の急なカーブで、重いフロントはコーナーの内へ入っていくことを拒む。
だが、その車体の尻にピタリと付けられてはいるものの、道が狭くて追い抜くことは不可能だ。
右にほぼ90度曲がると残りコーナーは2つ。間も無く椿ラインは終わり、芦ノ湖だ。
「ここで仕掛ける!」
右に曲がった先に微かな直線。
速度を乗せると次の左90度のコーナーが厳しくなる。
そして予測通り、フルブレーキングはするものの鼻の重さでスカイランは外へ膨らんだ。
「今ッ!」
ブレーキディスクを真っ赤にしながらタケシはカタナの前輪をコーナー内側に捻じ込む。
インに戻れぬスカイラインは次の右コーナーへ向け左のラインに入れず、ただでさえキツいコーナーがますます窮屈に。
逆にタケシは悠々とレコードラインをとることができ、ついにスカイラインの前へ出た。
「行けーっ!」
あとはフルスロットル。その手前には信号があるが、タイミング良く、青。
交差点を、銀の刃が先頭で駆け抜けた。
しかし。
「止まれんのかぁッ?」
正月であれば駅伝の往路ゴールになるところだ。
大きな駐車場があるが、そこへ達するにはまず左に曲がらなければならない。
しかも戦闘速度からのフルブレーキングの後で。
それは後着のスカイラインとて同じこと。
「止まれッ! 曲がれッ!」
祈るように前後輪共にフルブレーキ。
車体を左に傾けると倒さぬよう滑らぬよう、左旋回。
ABSの動作音と振動で派手な音を立てつつ、1周半ほど旋回してカタナは鞘へと戻った。
一方のスカイラインもフルブレーキングから左旋回、故意にスピンさせて停止した。
◆
ゴムの焼ける匂いの中、タケシは愛車にスタンドを掛けるとスカイラインへ歩み寄った。が、また相手ドライバーもまた、車から出てきた。黒いスーツを着たまま。
「ウワサには聞いている。アンタが宇宙記者ギャノン、ってヤツか」
「へぇ。オレ、有名なのか。フェイズアウト」
フォン
タケシのスーツが虚空へ消える。
「パゾルアウテ」
フォン
相手のスーツもまた、虚空へ。
「宇宙記者が走り屋までやってるとは知らなかった」
「こっちは売り物じゃないんだよ」
「フッ…負けだよ。いいぜ。なんでも聞いてくれ」
「目的と違ってきちゃったんだが、その黒いスーツはどこで? 誰から?」
「今日と同じように大磯のPAにいたら、知らないオッサンが来てね、よく分かんないけどくれたんだ」
「それが何かは知ってるのかい?」
「え? レーシングスーツみたいなもんじゃないのか? 事故っても身体は守ってくれるって、そのオッサンは言ってたぜ?」
「そう…なんだ」
「一応、頼み事はされたか。とにかく速く走り回ってくれって」
「どこを?」
「俺もそれは聞いたよ。どこでもいいって。サツに追い回されるぜ?って聞いたんだが、それも構わない、振り切ればいいって。正気かよとは思ったけど、確かにこのスーツ着てると限界がハンパなく高くなって、実際、白バイはもちろんパトカー程度ならいくらでもブッちぎれたよ。バイクで食いつかれるとすら思わなかった…けど、そっちもなんか着てるならいい勝負になった、ってことか。俺の腕が未熟だったってことさ」
「オレはショートカットさせてもらったからね。そう言えば、全然対向車がなかったんだけど、なんでだ? 知ってる?」
「ああ、それは…なんというか、念じるんだ」
「念じる?」
「そうすると自分の走っている道路には先行車も対向車もない状態になる。ただ、たまに何台か効かないみたいで、その時は目の前に警告が出るんだよ、対向車の。レーダーみたいな画面が出て、位置が表示されるんだ」
「七曲り前のヤツがそうか…」
「でもまぁ…なんかスッキリしたよ。こんなチートやっても勝てない相手がいるって言うなら、チート抜きで腕を磨かないとダメってことだからな…決めた。俺、今日限りでこれ使うの止めるよ」
「そうか…その方がいい、かもな」
その彼は腕時計を外すと湖岸へ行き、それを思いっきり湖へ投げ入れた。
「ふぅ…これでよし、と。それで、アンタは俺のことを記事にするのかい?」
「最初はそのつもりだったけど…そのスーツのことは書けないからね。良く分からないから」
「同じようなものを着てるのに?」
「まぁ、ね。うん、スーツのところは抜きにして、ぶっちぎられておしまい、ってことでいいかな?」
「俺は構わないよ。アンタがそれでいいなら」
「そう…ありがとう。じゃ、オレ、記事書かなきゃいけないから、ここで」
「そうか。今日は楽しかったよ。またヤマで会えるのかな?」
「それはどうかな。俺は大人しいライダーだからね」
「フフ、よく言う」
「じゃ、さよなら」
「ああ、さよなら」
真っ赤だったカタナのブレーキディスクもすでに冷め、元の金属色を取り戻していた。
タケシは愛車に跨ると、軽く左手を上げ、そして元の道を帰って行った。
スカイラインのドライバーはそれを見送り、車へ戻った。
「…一から出直し、だな」
そう呟いて乗り込もうとした時。
《そうもいかないのだよ》
脳内に何者かが話しかける。
「誰…アンタは!⁈ ウワァァァ」
翌朝、釣りに来た客により、アイドリングのまま放置されたスカイラインが発見されたが、ドライバーの姿はどこにも見当たらなかった。
◆
翌日昼前。
一連の出来事をルミに報告すべく、タケシは喫茶店ルーブルへ。少し遅れるとのルミからのメールを受け、暇つぶしに備え付けのスポーツ紙をたぐる。その3面。
『小田厚にカタナの妖怪?』
「ん?」
『読者からのメールによると、トラックの運転手である読者が深夜3:00頃、小田厚を走行していると、追越車線を猛烈なスピードで飛ばす国産スポーツカーがバックミラーに映り、その後ろを県警のパトカーが追跡しているのも確認できた。スポーツカーが読者のトラック横から追い抜く時、それを見たという。同じ速度でスポーツカーについて行くオートバイ。しかしそのライダーはヘルメットらしきものを被っているのが見て取れるが、全身が緑色の金属的光沢を帯びていて、普通のライダースーツには見えなかった。』
「…これ…オレか…」
妖怪なんかじゃないと主張したいが、明るみになれば免消は免れぬことを思うと、少々心は痛むものの、黙っていた方が良さそうな気がするタケシだった。
「沈黙は金なり、ってね」
イニD的なものを小説にしてみたらどうだろう?と思って書いてみました。
ズギャァッとかゴオゥッとか効果音ないとちとさみしいですね。
若干のちの設定と食い違うところがあったりもするのですが、まぁ本編に入れる話でもないのでそのままにしてあります。
さて次回からはアンジェラス編。
そちらもサイドストーリーズ的なものはあるのですが…
18禁なのです。
本編の性質上、そういう話ばかりなので18禁行きなのです。
ネタバレ成分多すぎなため、ある程度アンジェラス編が進んでからでないとアップできませんが、アップ再開した際にはよろしくお付き合いください。