74.エピローグ
「シュナイダー様、サイラス王国より書状が届いております」
北の大国レーベルト帝国。その美しき城の皇帝の間に居た青紫の髪をした若い皇帝に、側近が頭を下げ書状を手渡した。シュナイダーが頷きそれを受け取る。
「いよいよ、リュード殿の即位式か。これは楽しみだ」
「式へはご出席でよろしいでしょうか」
シュナイダーが笑顔で答える。
「無論だ。我が恩人の晴れ舞台。必ず参加すると伝えてくれ」
「御意」
頭を下げ退出する側近。シュナイダーは近くにいたヘルリナに笑顔を向けた。
「おい、しゃきっとしねえか!! リュード」
新サイラス王への即位式前日。青い顔をして金色の衣装を試着するリュードに、長兄ベルベットが背中をドンと叩いて言う。一緒に来た次男ランフォードも笑って言う。
「それじゃ皆が心配する。胸を張れ」
「は、はい……」
その言葉とは対照的にリュードが背を丸め小さくなる。笑うふたり。リュードが尋ねる。
「あの、本当に僕なんかが王になって良かったのですか……?」
それを聞いたベルベットが手を額に当て首を振って答える。
「当たり前だろ。お前以外に誰がいる? まだそんなこと言ってんのか!?」
「そうです、リュード。あなたが行ってきたこれまでの功績。それは皆が認めるところです」
そう話すランフォードにリュードが言う。
「で、でも、あれはサックスさんが全部やったことで……」
「リュード、しっかりせい!!」
「ひゃっ!?」
そこへ金色のツインテールをしたエルフがやって来る。
「リーゼロッテさん……」
リュードの顔が引き締まる。リーゼロッテがため息をついて言う。
「わらわはサー様に託されたのじゃ。『お前を頼む』って」
「う、うん……」
俯くリュード。リーゼロッテが言う。
「それに『リーゼロッテ』は止めよと言ったじゃろ!! お前は『リーゼ』で良い!!」
「あ、はい! リ、リーゼ……」
それを見て皆が苦笑する。リーゼロッテが言う。
「だからお前は何も心配せずとも堂々としておれば良い。周りがお前を助ける」
「そうですよ、リュード様」
そこへ同じく式典の衣装を着たサーラがやって来る。
(綺麗……)
リュードが思わず見惚れる。色っぽくアップにした亜麻色の髪に銀色のティアラ。純白のドレスは胸の谷間がはっきりと分かる大人の衣装。白の手袋に、同じく白の上品なパンプス。言われなければ彼女が魔王などとは誰も思わない。サーラが言う。
「リュード様だからこそ、皆がこうして集まって来ているのです。自信をお持ちください。微力ながら私もお力になります」
「う、うん……」
「そうだニャ。リュードはもっと自信を持っていいんだニャ」
いつの間にかやって来たレーニャが笑って言う。
「僕もそう思いますよ。クウ~ン……」
同じく部屋に来たヘルハウンドのダフィも甘えた鳴き声を上げる。
北のレーベルト帝国の侵攻を退けたサイラス王国軍。若き皇帝シュナイダーは悪しき魔物によって支配されており、敗北と共に我に返った彼は停戦を提案。すぐに和解交渉が進んだ。
凱旋帰国したリュード達。そんな彼を、年を取り退位を考えていた父親である国王が跡継ぎに指名。皆の賛成を得てリュードの新国王への即位が決まった。
『それは素晴らしきこと!! 我がセフィア王国を是非属国に!!』
隣国セフィア王国のクレス王子はその報を聞いて心底喜んだ。
『と、当然ですわ!! 何せ私の婚約者なんですもの!!』
同じく隣国のバルカン王国の貴族マジョリーヌもそれを当然の如く受けとった。サイラス王城、そして周辺国にも認められたリュードの即位。平和になった世の下、すべてが順調に進んだ。
「ねえ、サーラ。本当に良かったの?」
即位式前日の夜。城のバルコニーで夜空を見ながらリュードがサーラに尋ねる。静かな夜。月明かりがふたりを優しく照らす。サーラが答える。
「リュード様以外に、この国をまとめられる方はおりません」
亜麻色の髪。夜風に靡きく彼女の姿は美しかった。リュードが首を振って言う。
「違うよ。僕が心配しているのは、その……、君との婚約で……」
リュードの顔が赤くなる。サーラも頬を赤らめながら答える。
「そ、それは私がお聞きしたかったことです!! 私は魔族、しかも魔王で……」
リュードがサーラの手を握って言う。
「僕は一生君を大切にする。だからずっとそばにいて欲しい……」
サーラが涙目になって答える。
「いつの間にリュード様はそんなに積極的になられたのでしょうか。戸惑ってしまいます……」
リュードが笑って答える。
「ずっとだよ。そう、サックスさんが僕の中にいた時からずっと」
リュードはそのすべてではないが、サックスが自分の中に居た頃の記憶を持っている。自分とは真逆のキャラ。だけど恐れずに立ち向かえば何でもできるのだと教えてくれた。サーラが言う。
「あのおふたりは、今頃一緒になれているのでしょうか?」
夜空で輝く星。サーラの言葉にリュードが返す。
「うん、きっとね」
リュードがずっと感じていたサックスのココアへの想い。『巨乳美女好き』と言うのは嘘ではないが、彼の心の中にはずっと共に過ごしたココアへの想いがあった。リュードが言う。
「サックスさんの墓標もココアさんの隣に並べたし。きっと一緒に居るよ」
「そうですね、私もそう思います」
サーラは自然とリュードの肩へ頭を預ける。
目を閉じるふたり。きっとこれからも上手くやっていけるんだと思えた。