表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/74

71.敗走

『アーティファクトキャンサー』

 それはリュード達アーティファクターにとって最も苦手な存在。言わば天敵。どれだけ優れたアーティファクトを持っていようが、その存在の前では無力と化する。


(まさか敵にキャンサーがいようとは……)


 リュードの額に汗が流れる。この魔法全盛の時代。忘れられた古代遺物への対応策がとられていたとは驚きだ。




「どうしたニャ?? なぜリュードは動かないんだニャ??」


 その様子を見ていたレーニャが首をひねる。近くにいたリーゼロッテが難しい顔をして言う。


「あれはアーティファクトキャンサー。サー様の力を無効化する奴じゃ。あの女」


 そう言って皇帝シュナイダーの後方で、神秘的な水晶を持つ茅色の髪の少女を見つめる。ベルベットが尋ねる。


「アーティファクトが使えねえっとことか?」


「そうじゃ」


「だったらあの皇帝も同じだろ? 三大アーティファクトってのが無効化されるんだろ? それならリュードと条件は同じじゃねえか」


 皇帝シュナイダーもアーティファクター。彼の持つ三大アーティファクトも無効化される。リーゼロッテが答える。



「ああ、そうじゃ。どんなアーティファクトも無効化される。じゃが、あの装備は元々の能力がずば抜けて高いのじゃ。例えアーティファクトの力がなかったとしても……」


 そう言って皇帝シュナイダーに対峙するリュードを見つめた。






「どうした? 古の勇者よ」


 一転、余裕の表情となったシュナイダーがリュードに言う。


(昔はキャンサーが居たって戦えていた。俺の装備があったから……)


 例えアーティファクトキャンサーが敵に居ようとも、勇者サックスは問題なく戦っていた。何故なら基礎能力が高い三大アーティファクトがあったから。だがそれは今敵の手にある。リュードが仲間達を横目で見ながら思う。



(最悪だ。純粋に今誰も奴に敵わない。とは言え退く訳にはいかない!!)


 リュードが剣を構える。アーティファクトの力を無効化された剣。ただの兵士の剣となった武器で、最強の皇帝に相まみえる。



「あーはははっ!! そんな軟な武器でこの私に挑むのか!? 滑稽、滑稽。少しでも勝てると思ったか!!!!」


 シュナイダーが全力でリュードに突進。勇者の剣を振り上げ襲い掛かる。



 ガン!!!!


「ぐっ……」


 シュナイダーの重い一撃。この世界で最高峰の武器に、ただの剣で対抗するのだから無理もない。シュナイダーが叫ぶように言う。



「さあさあ、どうした、勇者!!!」



 ガンガンガンガン!!!!


 次々と打ち込まれるシュナイダーの剣。彼自身の能力は変わらない。だが武器の性能の差でリュードが押されていく。



「リュード様……」


 心配そうに見つめるサーラ。そしてシュナイダーの剣が下段から美しく振り上げられた。



 カーーーン!!!!


「!!」


 下から弧を描くように振り上げられる勇者の剣。それをいなしていたリュードの剣が、甲高い音を立てて真っ二つに折れた。


「くたばれっ!!!」


 そのまま体をひねる様にシュナイダーの蹴りがリュードを襲う。



 ドフ!!!!


「がっ!!」


 真横からの蹴りを受けふらつくリュードに、今度はシュナイダーが剣を振り下ろす。



 ザン!!!!


「ぐわああああ!!!!」


「リュード様っ!!!」

「サー様!!!!」


 胸に付けていた軽防具諸共斬られるリュード。幸い傷は浅いようだが血が一気に溢れ出る。シュナイダーが叫ぶ。



「死ね、サックス!!!!」


 振り上げられた剣。攻撃を受け、一瞬対応が遅れたリュードの目にその美しい剣が映る。



「サー様っ!! 逃げて!!!!!」


 ドオオオオオオン!!!!


 雷撃。剣を振り上げた皇帝だけを狙ったリーゼロッテの雷魔法。傷を押さえながら後方へ跳躍するリュードが折れた剣を持って言う。



「ありがとう、リーゼ……」


 雷撃の直撃。レーベルト帝国軍からは驚きと心配の声が上がり、そしてレーニャ達は喜びの表情を浮かべる。だがリュードとリーゼロッテだけはその表情を変えなかった。




「……無駄だよ」


 雷撃の後、その土煙の中から現れたのは無傷の皇帝。涼しい顔をして佇立している。レーニャが吃驚して言う。


「な、なんで、あいつは平気なんだニャ!?」


「慈悲の鎧、あれはアーティファクトの力が無くても全魔法を無効化するのじゃ」


「ば、馬鹿な!!」


 ベルベットが驚いて言う。


「そんな出鱈目な鎧が……」


「あるんじゃよ」


 リーゼロッテが汗を流しながら言う。


「それが勇者サックスのアーティファクト」


 皆がその美しい鎧に身を包んだ若き皇帝を見つめる。





「くそっ!!!!」


 リュードが折れた剣で果敢にシュナイダーに立ち向かう。


「無駄なことを!! そんな武器でこの私に敵うはずなかろう!!!」



 ガン!!!!


「ぐっ!!」


 折れた剣を軽くいなす皇帝。同時にリュードの体に刻まれる創傷。形勢逆転。先程まではただの剣でもアーティファクトである以上リュードに分があったが、それが根本から覆された。





「じゃあ、あの女をやればいいじゃねえか!?」


 ベルベットがシュナイダーの後方に立つヘルリナを見て言う。アーティファクトキャンサー。それならが彼女を倒せばこの状態が解消される。リーゼロッテが首を振って答える。


「多分無理じゃ」


「なぜだ!?」


 リーゼロッテがヘルリナが着ている服を指さして言う。



「あれは恐らく『守りの法衣』。魔法攻撃を無効化し、弓矢などの遠距離攻撃にも耐性がある」


「じゃあ……」


 そう口にするベルベットにリーゼロッテが答える。


「そうじゃ、近付いて直接攻撃しなきゃならぬ……」


 ベルベットが黙り込む。そのヘルリナの傍には無敵の皇帝シュナイダー。彼女から一定の距離を保ちながらリュードの相手をしている。



(つまり、やはり皇帝を何とかしなければならないのか)


 そのやり取りを聞いていたサーラが手にした剣にぎゅっと力を籠める。





「ぐわあああ!!!」


 リュードはどうすることもできない状況に防戦一方となっていた。今この状況で使えるアーティファクトはない。

 敗色濃厚なリュードが突如後ろを向き走り出す。


「!?」


 驚くシュナイダー。リュードが全力で後方に向かって走り、サーラやベルベット達の横を駆けながら言う。



「サーラ、後は頼んだ!!!」


「え!?」


 意味が分からないサーラ。だがリュードはそのまま何も言わずに後ろへと走り去っていく。




「くっ、くははははっ!!! 逃げたか、逃げたか、勇者よ!!!!!」


 シュナイダーが剣を天に掲げ、勝利の笑い声を辺りに響かせた。


「無様な勇者だ!! 敵に背を向け逃走とは想像にもできぬこと。我らがレーベルトの勝利なりっ!!!!」


 高々に勝利宣言をするシュナイダー。沸き立つレーベルト軍。だがその前に亜麻色の髪の剣士が立ちはだかった。



「私が相手をする、皇帝シュナイダー」


 それは第三王子リュードの剣術指南サーラ。そしてその横に金色のツインテールの少女も現れて言う。


「わらわもおるぞよ。小童よ」


 手にした黄金色の宝珠の魔法杖。それをシュナイダーに向け、リーゼロッテが睨みつける。



「哀れな、哀れな、哀れな雑魚共よ。降伏するなら君達を我が軍営に加えてあげようじゃないか」


「お断りします」

「馬鹿を申すな、青二才が」


 即答でそれを拒否するふたり。シュナイダーが笑いながら言う。



「くくくっ、大将が逃げたお前達サイラスに何ができる? じゃあ、ではお望み通り……」


 シュナイダーが勇者の剣をふたりに向け優しく言う。


「皆殺しにしてあげようか」


 美しく光る勇者の剣。それは死を感じさせるような美しさでもあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ