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67.氷結 vs 破壊者

「おい、何だよ、あの魔法……」


 レーベルト帝国軍は功を焦って飛び出した味方の兵が、次々と雷撃の餌食になっていく様を見て震え上がった。余裕すら感じる雷撃。攻めようならば、いつでもどれだけでも狙えると言う無言の圧。敵であるサイラスが来たと言うのに、レーベルト帝国軍の兵士は誰ひとりとして動こうとはしなかった。


「あなた達はそこで見ていなさい」


 そんなレーベルト帝国軍の中を、その銀髪で病的なほどに白い肌をした男が歩き行く。


「ランフォード王子……」


 サイラスからの離反者。王族にして氷結魔法の使い手であるランフォード・サイラス。青い魔法の剣を腰に携え、こちらと対峙するリュード達へと歩き出す。





「ランフォード、会いたかったぜ……」


 そんな彼を迎えたのは実兄ベルベット。


「ベルベット兄さん。悪いことは言わないよ、いい加減諦めたらどうだい?」


 ランフォードの後ろに広がるテント群。ティルゼールを制し、そのままサイラスへ進攻できる大軍。こんな相手に勝てる訳がない。ランフォードの余裕は当然であった。



「諦める? ああ、そうだ。俺は諦めが悪い。てめえをぶん殴って、その腐った根性を叩きのめしてやる」


 ランフォードが馬鹿にしたような顔で笑いながら答える。


「相変わらずあなたは馬鹿正直だ。分からないのかい? もう詰んでるんだよ。あなたも、サイラスも!!」


 ランフォードが氷結の剣を抜きベルベットに向け構える。ベルベットも同じく背中にある大剣を抜きそれに対峙する。


「お前とのサシの勝負なんて記憶にねえな。ふっ、兄貴の強さを教えてやる」


「兄さん、あなたは知らないんだよ。私の本当の力を!!!」


 ランフォードが左手を地面に向け魔法を詠唱。彼を中心に渦巻くように集まった冷気が一気に地面へと流れ込む。



氷結する大地(フローズングランド)!!」


 バキ、バキバキン……



「すげえ、何だあれ……?」

「あれが噂の氷結魔法!!」


 その様子を見ていたレーベルト帝国軍が驚き声を出す。ランフォードから発せられた冷気が、辺り一面を氷結の大地へと変貌させる。荒れた荒野。乾いた風が吹くこの大地に現れた異様な風景。ベルベットが言う。


「ほお、こんなことができるのか」


 既に彼もその氷の上。凸凹の氷面は気を抜けば足を滑らせる。ランフォードが引きつった笑みを浮かべ言う。


「じゃあ、始めようか。ベルベット兄さんの最後の舞台を!!」


 その言葉に応じベルベットが大剣を構え駆け出す。ランフォードの高速詠唱が始まる。


「氷の結晶よりも凍てつく霊力を満たし、氷結の冷気を極限まで高め、我、凍てつく氷刃を創造せん。忘却の氷を凌駕する冷えしき霊気よ、この手に宿り鋭く凍しめよ……」



「させねえ!!!」


 ベルベットが巨大な剣を振り上げる。その前にランフォードが叫ぶ。


氷刃狂い咲き(アイスブレード)!!」


 宙に発生する数多あまたの氷結の刃。大地からの冷気を受け生成が早い。ベルベットが横目でそれを見て叫ぶ。


「甘いぞ!! ふん!!!」


 バリン、バリン!!


 体をひねる様にして自分に襲い掛かる刃を大剣で砕いて行く。その咄嗟の適応力はまだ傷が完治しない人間の者とは思えないほどキレがある。後方に跳躍したランフォードが笑い叫ぶ。


「ははははっ!! ざーんねん、ベルベット兄さん」


 刃を砕き、氷結の大地に着地し踏ん張るベルベット。だがすぐにその異変に気付いた。



 ザン、ザザザザン!!!!


「ぐはっ!!」


 通常は宙に生成されるランフォードの氷結の刃。それが足元、凍った大地より無造作に現れベルベットに牙を剥く。


「くそっ!」


 思わず後方に跳躍し退避するベルベット。だがその先にももちろん氷結の刃が彼を襲う。


「無駄なんだよ、兄さん!! あなたはもう詰んでいる!!」


 ランフォードが強化魔法を詠唱。周りの冷気を氷結装甲にして纏い、一気にベルベットへと詰める。



「はああああああ!!!!」


 ガン、ガンガンガンガン!!!!


 意外なランフォードの剣撃。足場が悪く氷結の刃に気を取られているとは言え、あのベルベットを剣で押し始めている。



「うおおおおお!!!!」


 ブオン!! バキバキバキ……


 ベルベットが円を描くように大剣を振り回す。彼に襲い掛かっていた氷結の刃が音を立てて崩れて行く。





「リュード様、私も加勢に加わった方が……」


 そのふたりの戦いを見ていたサーラがリュードに言う。


「いや、大丈夫。ベルベットが任せろと言ったんだ。それより」


 リュードがレーベルト帝国軍の中からこちらに歩いて来る別の人物を見て言う。



「サーラはあいつの相手を頼めるかな」


「あれは……」


 肩に担いだ巨大な長棒。それはレーベルト帝国軍、歩兵部隊長ザイムであった。リュードが言う。


「リーゼも他の兵士への牽制で動けない。お願いできる?」


 リーゼロッテは戦ってはいないものの、いつあの大軍がこちらに来てもいいように常に魔力を張っている。サーラがそんな彼女を見て頷いて答える。


「無論です。すぐに蹴散らして見せましょう」


 そう答えると亜麻色の髪を風に靡かせザイムの方へと歩き出す。それを見てからリュードはダフィに軽く目をやり合図を送った。




「あーはははっ!! どうだいどうだい!? 僕は強いだろう、兄さん、僕は強いだろ!!!」


 身体強化である魔法『氷結装甲フリーズプロテクト』を纏ったランフォード。魔法使いとは思えないほどの戦士となってベルベットを追い詰める。


「ふん!! フオオオオオ!!!!」


 ベルベットも滑る足元に気をつけながら大剣を振りそれに応戦。だがランフォードの剣と同時に襲って来る上下からの氷の刃に気を取られ、徐々に劣勢へと陥って行く。



「はあ、はあはあっ!!!」


 ランフォードの剣撃。氷のように冷たい刃がベルベットの体に打ち込まれる。

 兄弟対決。サイラスを支えて来たふたりの直接対決は、そこにいた皆が大きな関心を持って注視した。後方に大きく跳躍したベルベットが、体中から鮮血を流しながら言う。



「やるじゃねえか、ランフォード。さすが俺の弟だ」


 その言葉にイラっと来たランフォードが剣を向け言う。


「気に入らないんですよ、その余裕が。その顔が」


「顔は仕方ねえだろ。生まれつきだ」


 ベルベットが大剣を構えランフォードに言う。



「そろそろ終わりにするぞ、後ろの奴が心配するからな」


 後方でじっと待機するリュードを感じながらベルベットが言う。


「それは、あなたが敗北すると言う意味でよろしいでしょうか?」


 そう尋ねながら幾つもの氷結の刃を宙に生成するランフォード。ベルベットが叫びながら跳躍する。



「躾けの時間だぜ、ランフォード!!!!」


 宙に舞いランフォードへ飛び掛かるベルベット。向かって来る氷の刃を気にせずに大剣を振り上げる。



全破壊的斬撃ディストラクションスラッシュ!!!!」


 ランフォードが余裕の笑みを浮かべ言う。


「そんな攻撃、私には効きませんよ」


 ベルベットを襲う氷の刃。血を噴き上げながら迫る兄を、ベルベットが軽く後ろに飛びながら言う。


「脳筋馬鹿兄貴め!! そんなこと無駄……」



 ドオオオオオオオオン!!!!!


 ベルベットの大技が、凍った()()へと打ち込まれる。



(え?)


 ランフォードの思考が一瞬止まる。ベルベットの大剣が氷結の地面に打ち込まれ、辺り一面の氷がバキバキと音を立てて砕け散る。



(ちょっと前にこんな馬鹿げたことをやった奴がいてな。参考にさせて貰ったぜ、そして……)


 割れた地面に着手したベルベット。すぐに剣を下段に構え叫ぶ。



「仕置きだ、ランフォードぉおおおお!!!!」


「しまっ……」


 大きく跳躍したランフォード。宙に浮きながらその兄の覇気に体が動けなくなる。



全破壊的斬撃ディストラクションスラッシュ!!!!!」


 地面から宙へと放たれた連続剣技。すべてを破壊すると言うベルベット渾身の一撃が、空中で防御姿勢も取れないランフォードへと直撃する。


 ドオオオオン!!!!!


「ぐわあああああああ!!!!!」


 大きく吹き飛ばされるランフォード。自身に纏っていた氷結装甲も粉々に破壊され、見るも無残な氷片となって宙を舞う。



「こんな馬鹿な……、僕が負けたと言うのか……」


 地面に落ち、仰向けに倒れ動けないランフォード。全身骨折。臓器損傷。偉大なる兄の渾身の一撃は想像よりもずっと強力なものであった。




「はあはあ……、おい、馬鹿弟……」


 全身から血を流し肩で息をするベルベット。ゆっくりと倒れた弟の元へと歩み寄った。

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