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64.シュナイダー討伐隊結成!!

『サックスぅ~、こっちだよ、こっち!!』


(あ、おい!! 待ってって!!)


『もう何やってんのよ~、置いてっちゃうよ~!!』



(いや、だから待ってくれって!!)


『サックスぅ、サックスぅ……、私ね、本当は……』



 ――寂しかったんだよ



(待て、待ってくれよ!! ()()()ーーーーっ!!!!)






「……夢?」


 目を覚ましたリュードは目に涙が溜まっていることに気付いた。夢。久しぶりに見た元勇者パーティの一員だったココアの夢。栗色の髪に愛嬌のある顔。いつも笑っていたその顔が、



(泣いていた……)


 あれからどうなったんだろう。不慮の事故で自分が死んでから、結局彼女とはきちんとお別れどころか話すらできていない。リーゼロッテの話では悲しみ泣き続けたと言うことらしいが、あんな別れ方をすればそれも当然だろう。


(あ、そう言えば)


 確かココアの生まれ故郷はサイラス北部の寂れた村。ここから少し先だったはず。今日も忙しい日となるが、一度時間があれば寄ってみようと涙を拭いながら思った。




「サー様、昨夜はゆっくり眠れたかい?」


 ここはサイラス軍が臨時で張った陣。簡易的なテントが立ち並ぶレーベルト帝国軍の迎撃拠点。リュード達のお陰で見事帝国軍を退けたが、これからここが追撃の拠点と変わる。リュードが答える。


「ああ、お陰様で。みんなの様子はどうだい?」


 リーゼロッテがやや困った顔で答える。


「う~ん、まだいまいち理解しておらぬ者がおるのが正直なとこかのぉ……」


「そうだろうね」


 リュードが笑って頷く。

 昨晩、リュードの仲間やサイラスの一部の者を呼んですべてを話した。リュードのこと、サックスのこと、転生のことなどそのすべてを。リュードが昨晩のことを思い出す。




「……以上だ。これが俺のすべて。隠していてごめん」


 皇帝シュナイダーを撃退したその夜、リュードは皆の前でこれまでのことを包み隠さずすべて話した。ベルベットが尋ねる。


「ちょっといまいちよく分かんねえが、リュードは死んで、今ここに居るのは古の勇者サックスってことか?」


「ちょっと違う。今話しているのはサックスで間違いないけど、リュードは死んでない。上手く言えないが仮死状態、みたいなものかな」


 このことを知っているレーニャとリーゼロッテ以外の者は皆信じられないような顔となる。


「なるほど。まあそれで納得した。あのリュードが人が違ったみたいになっちまったってことがよ」


 リュードが苦笑する。周りからすれば確かにそうだろう。実際人が違っているのだから。リュードがサーラに言う。



「そう言うことだ。ごめん、サーラ」


「……」


 ずっと黙って下を向いていた彼女。今回の告白。リュードなりに悩んだ。だけどいずれ話さなきゃならないことは確か。このタイミングは決して悪いものではなかったはず。サーラが顔を上げて言う。



「色んなことが一度にあり過ぎて、私、正直どうすれば良いのか分からなくなっていました……」


 サーラが魔族、しかもその頂点に立つ魔王であることも皆に話した。サーラ自身色々な感情が混じった中での説明。サイラスの王子を殺すためにやって来た自分。そんな自分を皆が受け入れてくれるかどうか不安だったが、みんなこれまで通りの顔で話を聞いてくれた。リュードが言う。


「この俺、リュードのことをいつも支えてくれていた君に、このことをいつ話そうかずっと悩んでいた。結果的に君を騙すことになってしまって本当にごめん」


 そう言って頭を下げるリュード。サーラが首を振って答える。


「顔を上げてください、リュード様。すべての原因はこの私。私があんなことをしなければ……」


 サーラの目に涙が溜まる。魔王とは言え心優しい少女。自分が犯した罪が彼女に重くのしかかる。ベルベットが尋ねる。



「それでこれからどうするんだ?」


 それはつまり帝国軍との戦いを意味する。リュードが答える。



「皇帝を討つ。いや、正確に言えば皇帝に憑りついた邪を取り払う」


「邪? なんだニャ? それ」


 レーニャが尋ねる。


「ああ。皇帝シュナイダーは実に厄介な相手だ。さっきも話した通り、彼は俺、サックスが使っていた三大アーティファクトを所有している。普通に行けばまずあれは倒せない」


 アーティファクトの強力さは皆聞いた。そんな古代技術が魔法を凌駕することに驚いたが、ベルベットの『破壊の大剣』を使った今日のリュードの戦いを見て皆はすぐに納得した。リュードが言う。


「皇帝には何らかの魔族らしきものが憑りついている。それを祓えばもしかしたらこの戦いが終わるかもしれない」


「どうやって祓うんだ?」


 ベルベットの質問にリュードが懐からひとつの宝玉を取り出して答える。



「『昇天の宝玉』、これが邪を祓うアーティファクト。これを使う」


 リュードの手で光る小さな玉。白く光る不思議な宝玉。黙って聞いていたリーゼロッテが怪訝な表情で尋ねる。



「サー様。それを使うと……」


「ああ、そうだ。シュナイダーを弱らせる必要がある。でないとしっかりとした効果は期待できない」


 そう答えるリュードにリーゼロッテが首を振って言う。



「違う。そう言う意味じゃない!! サー様、その宝玉は『死者を祓う』効果がある物。それってつまりじゃ……」


 リーゼロッテがじっとリュードの目を見つめる。意味が分からない一同。その中でサーラだけが理解した。



「え、もしかして、それを使ったらリュード様も……」


 サーラの言葉を聞き、皆の視線がリュードに集まる。頭に手をやりリュードが答える。


「う~ん、まあそうなるかな。もしかしたらこの俺も浄化させられるちゃうかもしれないな」



「嫌じゃ!!」


 すぐにリーゼロッテが首を振って言う。


「嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ!! せっかくサー様にお会いできたのに、そんなのわらわは認めぬぞ!!!」


 涙目。せっかく会えた愛する人。再び居なくなることなどとても容認できない。リュードが困った顔で言う。


「リーゼ、俺は本来ここに居てはいけない存在。そのくらい分かるだろ?」


「分からぬ、そんなことわらわには分からぬ……」


 涙を流すリーゼロッテをサーラが優しく抱きしめる。リュードが言う。



「これを使わなくてもシュナイダーを追い込めば、魔族を浄化できるかもしれない。やって見なきゃ分からないけど、ただ必要ならば俺は躊躇いなくこの宝玉を使う。このサイラスの為に、この世界の為に」


 皇帝シュナイダー率いる帝国軍が世界の秩序を崩壊させていることは事実。平和な世を望むサックス。リュードとなった今でもそれを壊す者がいれば全力で討つことに躊躇はない。ベルベットが言う。



「リュード、その遠征に俺も加えてくれ」


 サイラス最強の男。その赤髪の野生的な戦士がリュードに頭を下げて言う。


「無論そのつもりだ。長兄、あんたの力は必ず必要となる。『破壊の大剣』を持って暴れて欲しい」


「いや、あれはお前にやるよ。お前の方が……」


 そう言いかけたベルベットの言葉を遮りリュードが言う。


「要らねえ。あんな重い剣、俺の趣味じゃない。まあ、それでもいい剣だ。大切に使ってくれ」


「ふっ、そう言うなら仕方ねえ。あの剣に認められるよう俺も全力を尽くす」


「ああ、それでいい」



「あの馬鹿もぶん殴ってやらねえと気が済まねえしな」


 馬鹿とはもちろん次兄ランフォードのこと。自分を、サイラスを裏切った愚か者。だがベルベットの中にはひとつの後悔もあった。



(自分のことばかりであいつに真摯に向き合ってやれていなかった)


 小国サイラス。ティルゼール王国の庇護の下、日々戦いに明け暮れていた自分。リュードもそうだし、弟のランフォードことなど全く考えてやれていなかった。



(俺も馬鹿だった。だがあの馬鹿もぶん殴って目を覚まさせてやる!!)


 ベルベットはベルベットなりにけじめをつけようと思った。

 そしてレーベルト帝国追撃の朝を迎えた。

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