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63.リュードの告白

(リュードに託されたんだ)


 ベルベットの大剣を構え、後方のサーラに目をやる。



 ――サーラを守るって



 この体を借りている以上、リュードである以上、必ず大切な女は守らなければならない。魔族? 関係ない。巨乳美女は無条件で助ける!!




「オマエ、まさか勇者か……?」


 青紫色の髪の皇帝シュナイダーが尋ねる。


「ああ、そうだ。正真正銘の勇者」


 500年前も勇者だった。そしてこの時代でも勇者。シュナイダーが笑って言う。



「勇者がなぜ魔王とイル? 気がクルッタか?」


 リュードがサーラを見て笑顔で返す。


「何故ってそりゃ、巨乳美女だからだろ? 狂ってんのはお前だ」


「……」


 無言のシュナイダー。リュードが尋ねる。



「お前だってその皇帝に憑りついてる狂った三下悪魔だろ? 消されたくなかったら早く消えろ」


「……タダの勇者ではないな、オマエ。何者だ?」



「リュード・サイラス。巨乳美女を愛する勇者だ!!」


(リュード様……)


 さすがにこのやり取りにはサーラが首を振ってため息をつく。



「皇帝シュナイダー。このオトコこそ稀代のアーティファクターであり、ワレが力を貸したこの世の支配者。オマエが勝てるとでもオモッタカ?」


「勝てるよ」


「ナニ?」


 シュナイダーの眉が引きつる。リュードが言う。


「ごちゃごちゃ言ってないで、やるぞ」


「オロカ者が……」


 お互い剣を構え、睨み合う。





「あいつ、誰なんだよ……?」

「さあ? でもシュナイダー様に勝てるはずはないだろ」


 戦場は静まり返っていた。

 レーベルト帝国最強の騎士、皇帝シュナイダー。その彼にサイラス側から見知らぬ男が現れ対峙している。

 だが不思議なことに強そうには見えないのに、手にはその体ほどもある大剣を構えている。一方のサイラス軍側でも同様の声が上がっていた。



「あれって、リュード様だろ?」

「なんでヘタレ王子が!? ああ、もう終わりだ……」


 残念ながらリュードの評価はまだ低い。ここ最近城内では『変わった』との噂が流れているが、それが一般兵士までは及んでいない。


 だが今日、その評価が一変する。





「行くぞ!!!!」


 先に仕掛けたのはリュード。大剣を構え、一気にシュナイダーへと迫る。


(速い!!)


 シュナイダーがその速度に驚く。



 ガンガンガンガン!!!!


 大剣をまるで木の枝か何かのように軽々扱うリュード。対するシュナイダーも美しい装飾の入った剣でそれに応戦する。



「すげえ……」

「何だ、あれ!?」


 戦場にいるすべての人がふたりの戦いを驚き見入った。両者一歩も引かない打ち合い。

 レーベルト帝国軍は初めて見た。皇帝シュナイダーと互角に剣を交える相手を。サイラス軍も初めて見た。あのヘタレ王子が剣を振るって戦う姿を。




「やっぱいいなあ、スリースターは」


 リュードが手にした大剣を見てつぶやく。シュナイダーが言う。


「キサマもアーティファクターか?」


「そうだよ」


「……なるほど」



「こいつがさ、お前を『破壊したい破壊したい』って騒ぐんだよ。だけど難しいかな。だってお前がつけてるのって勇者サックスの装備だろ?」


 シュナイダーが頷いて言う。


「そうだ。あの最強勇者サックスが愛した装備。この世界でこの私に最も似合う装備!!」



(あれ、魔族の気配が消えた? あれは素の皇帝か?)


 アーティファクトをうっとりと見つめるシュナイダー。どうやら彼も生粋のアーティファクターのようだ。リュードが言う。


「いやいや、最も似合うのはこの俺だぜ」


「ふざけるな!! 貴様などにこの芸術品が似合うとでも思うのか!!!」


 シュナイダーの怒声。アーティファクトを穢され怒りが増幅するた。リュードが言う。



「似合うも何も、()()()()だぞ。それ」


「はあ?」


 さすがのシュナイダーもその言葉の意味が分からない。震える声で尋ねる。


「ならば貴様はこの美しき芸術品の持ち主、勇者サックスとでも言うのか?」


 リュードが少し離れた場所に立つサーラをちらりと見てから答える。



「そうだ」


「くっ、くはははははははっ!!!!」


 戦場に高く響くシュナイダーの笑い声。遠くから見ている兵士達にはもちろん話の内容は分からず、突然笑い出したシュナイダーに驚く。



(違う、リュード様は本気でそう答えた……)


 ただひとりその会話を聞いていたサーラが思う。あの言葉は嘘じゃない。嘘を言っているリュードではない。リュード様が勇者サックス? 一体どういうことなのか?



「だがこいつもスリースターの逸品。破壊専門だけどその能力を最大限に活かせば……」


 リュードが手にした大剣を見つめ頷いてから跳躍。思い切り剣を後方に振りかざし叫ぶ。



全破壊的斬撃ディストラクションスラッシュ!!!!」


 再びベルベットの大技。だが今度はその攻撃を読んでいたシュナイダーが紙一重でそれをかわす。



「愚かモノ!! この私にオナジ手が二度も……、!?」


 シュナイダーを狙うはずだったリュードの大剣が、彼の足元へ炸裂。


「壊れろおおおおおお!!!!!」


 同時に唸る地響き。最強のアーティファクターであるリュード。その狙いはシュナイダーのいる()()であった。



 ドン、ドオオオオオオオオン……


『破壊の大剣』の斬撃を受け地響きと共に粉々に割れる大地。想定外の攻撃にバランスを失ったシュナイダーが土埃の上に現れた影を見て叫ぶ。


「し、しまっ……」



 ガン!!!!!


「ぐわあああああああ!!!!!」


 陥没する地面。それに巻き込まれながらリュードの剣の直撃を受けたシュナイダーが悲鳴と共に消えて行く。




「なんて奴だ……」


 あまりの規格外の攻撃にベルベットが口を開けて驚く。

『破壊の大剣』と言う名は知っていたが、自分ではあそこまで剣の力を引き出せない。リュードとは一体何者なのか。ベルベットはいつの間にか知らぬ所へ行ってしまった弟の姿を見て思わず戦慄する。




「ぐはっ……」


 陥没した大地。土に埋もれたシュナイダーが四つん這いになって這い出す。


(狂ってる。どうなっているんだ、アイツ……)


 最強のアーティファクトを装備していたお陰で怪我は浅く、しかももう回復を始めている。だが勝てない。今のままでは勝てる気がしない。



(ヘルリナを連れて来るべきだった。ヘルリナさえ、彼女さえいれば……)


 このような場合に備えて常に行動を共にしていた茅色の髪の少女。だが病気がちで今回の戦は後方拠点で待機させている。



「はあっ!!」


 シュナイダーが跳躍し地面へと戻って来る。リュードが疲れた顔で言う。


「やっぱりあんまり効いてねえな。さすが俺の装備」



「……許さぬ」


 埃まみれになったシュナイダーが体を震わせて言う。



「キサマ、リュードとか言ったな!! 次は必ずお前をコロス!! いいな、必ずだ!!!」


 シュナイダーはそう言い残すと傷を負った馬に乗り退却を始める。リュードが大剣を地面に差し、ふうと息を吐いて言う。



「一旦態勢を整えてから追撃だな」


 レーベルト帝国深く逃げられたら不利になる。敵が進軍してきている今がチャンス。味方兵の回復、リーゼロッテやサーラの治療を終えたらすぐにでも後を追う。だがその前にやることがある。



「リュード様……」


 サーラが歩み寄り、そして不安そうな顔で名を口にする。リュードが真面目な顔で答える。


「サーラ、君に謝らなければならないことがある」


「はい……」


 同じく真剣な表情になるサーラ。リュードが言う。


「君に襲われたリュードは恐らく仮死状態、俺の中で眠っている」


 無言で聞くサーラ。そしてリュードが言った。



「俺は古の勇者サックス。リュードの体を借りている者だ」


 サーラは目を閉じ小さくその言葉に頷いた。

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