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61.サーラの贖罪

 ドン、ドドオオオオン!!!!


「ぎゃあああああ!!!!」

「ぐわあああ!!!」


 レーベルト帝国軍は大混乱に陥っていた。若き皇帝シュナイダーの下、各地で連戦連勝を続けていた彼らにとって、このような大規模魔法攻撃は想定すらしていなかった。

 次々と後方へ避難するレーベルト帝国軍。だがその長棒使いの男は目の前に現れた亜麻色の髪の剣士に向かって鼻息荒く叫ぶ。



「行くぞおオオオオ!!! 女っ!!!!」


 ブオンブオン!! ガガン!!!!!


 ベルベットの大剣に匹敵するほどの長棒。それを軽々と振り回す歩兵部隊長ザイム。対峙するサーラはそれを剣でいなしながら反撃する。



「うおおおおおおおお!!!!!」


 ガン!!!!


 ザイムがその剣撃を棒を真横にして受け止める。




(これは私の贖罪だ……)


 サーラは目を真っ赤にして戦っていた。

 自分がリュードを襲った。お仕えしていた主をこの手で亡き者にしようとしていた。今ならそれがはっきりと思い出せる。震える手でナイフを持ったあの日。悩み苦しみながらそれを彼の背中に突き立てた。幸いリュードの命は助かったものの、自分が犯した罪が消えることはない。


(だから私は戦う。リュード様の為に、このサイラスを守る為に!!!)


 魔王の魂が宿ったサーラ。だが覚醒には至らず、勇者暗殺の任を背負いながら日々苦悩していた。一介の魔族の少女だったサーラ。勇者とか魔王とかどうでもいい。家族が、皆が平穏で暮らせるならそれで良かった。



『勇者を殺してくれ』

『魔王様の復活を望む!!』


 サーラの元には多くの魔族や魔物がやって来た。望まない勇者討伐。実感のない魔王の生まれ変わり。純粋だったサーラにとって毎日が重圧との戦いであった。



『サーラ・フローレンスと申します。宜しくお願い致します』


 初めてリュードに会った日のことは忘れない。弱々しい第三王子。気は進まなかったが、これなら暗殺など容易いと思った。だが思わぬ感情がサーラを苦しめ始める。


『サーラ、一緒にご飯を食べようよ』

『ねえ、今度この本を読んでごらん。面白いよ!』

『サーラ、僕、もっと剣の練習頑張るね。だから悲しまないで』


 リュードは生まれつきの善人であった。『ヘタレ王子』と馬鹿にされ、優秀な兄と比較され、陰口を叩かれ、冷ややかな視線が彼を突き刺しても、彼はいつも笑顔を絶やさなかった。



 ――なぜリュード様を殺さなければならないの


 サーラは苦しんだ。リュードと言う人格を知れば知るほど、自分の心が暗殺とは真逆の方へと追いやられる。魔族ってなんだ? 魔王ってなんだ?

 だがサーラが王城に赴任して数年。勇者暗殺までの期限が目の前に迫っていた。



(リュード様、ごめんなさい。私も一緒に行きます……)


 魔族として生を受けた以上勇者討伐は逃れられない宿命。そして今のリュードの悲惨な現状。もしかしたら生まれ変わって新しい人生を歩んだ方がいいのではないか。サーラはリュードを噴水のある広場に呼び出した。そこでリュードを殺し、自分も死ぬつもりだった。

 そして苦しみながらもリュードの背中にナイフを突き立てる。だが思わぬ反撃を受けた。それは彼女が最後に知ったリュードの『勇者としての証』であった。




「うおおおおおおおお!!!!!」


 ガン、ガンガガガガガガガン!!!!!


 サーラの怒涛の剣撃。リュードへの謝罪と弱かった自分への怒りがエネルギーとなって彼女を奮い立たせる。



(な、なんだ、この女!?)


 見た目はとても強そうには見えない相手。だがその一撃一撃がとても重く、そして速い。



 ガン!!!


(くっ!!)


 ザイムの持っていた長棒がサーラの剣によって弾き飛ばされる。ベルベットらとの戦いを経て疲労していたとは言え、純粋に勝てる相手ではなかった。



 ザン!!!!


「ぐわあああ!!!」


 サーラの剣が流れるようにザイムを斬る。吹き上がる鮮血。その大きな体がドンと音を立てて仰向けに倒れた。

 歩兵部隊長ザイムの撃破。雷撃魔法によって怯えていた兵士達の心が、将官の敗北を見て次々と折れて行く。このままでは形勢が逆転される。そんな不安に思った彼らの後方から、その若きリーダーが現れた。




「我が歩兵部隊長を倒すとは中々の腕前。貴様、名を何と言う?」


 青紫色の髪。美しき鎧に華やかなマント。一見して只者ではないと分かるオーラ。ザイムを倒し、肩で息をするサーラが剣を構えながら答える。



「リュード第三王子部隊、剣術指南サーラ・フローレンス」


 馬上から若き皇帝シュナイダーが言う。


「ほう、剣術指南。なるほどね」


 そのような人物がいるのは聞き及んでいる。だが実践でもこれだけ戦果を挙げられるとは称賛に値する。シュナイダーが尋ねる。



「サーラ・フローレンス。我に仕えぬか? その腕前、その美貌、決して悪いようにはせぬぞ」


 サーラが笑って答える。


「あなたの命をくれるなら、お仕えしましょう」


「ふっ、良い答えだ。女性に対してあまり気は進まぬが、では少し強引に行こうか」


 シュナイダーが腰に携えた美しい剣に手を掛けた。






「くっ……」


 離れた丘の上から雷撃魔法を放っていたリーゼロッテがふらつく。バルカン王国でのヘルハウンドの群れの撃退。慣れない高速移動。そしてここレーベルト帝国軍への攻撃。エルフ族最強を誇る彼女ですらもう体力、魔力の限界を迎えようとしていた。リュードが言う。


「リーゼ、無理するな」


「はい。でもわらわが……」


 目の前に広がる敵の大軍。広域攻撃が使えるのは自分だけ。多少無理してでも戦わないと、皆が、リュードが危険に晒される。



「大丈夫。指揮官を叩けば軍は崩壊する。ほら、サーラが長棒使いを倒してくれたよ」


 ふたりの視線の先には見事ザイムを倒すサーラの姿がある。大軍であろうが兵士も人。頼れる指揮官や何か大きな異変があればすぐに弱気になる。それがリーゼロッテの魔法であり、ザイムの撃破である。



「あれ? サー様、あれって……」


 リーゼロッテが単騎、サーラの元へ駆け寄って来る騎士に気付き言う。どこかで見たことのあるような姿。遠くてはっきり見えないが、何かとても大切だったようなもの。


「あっ……」


 ふたりが同時に気付く。リュードが言う。


「リーゼ、あいつに魔法を!!」


「はい!!」


 リーゼロッテが無理しながら雷撃魔法をその騎士に落とす。



 ドオオオオン!!!!


 直撃。普通ならこれで戦闘不能に陥るはず。だがその砂埃の中から現れた騎士を見て唖然とした。



「無傷……」


 リュードはすぐに理解した。そしてリーゼロッテが声を掛けるより先に駆け出していた。



(あれは、まさか……)


 全力で駆けるリュード。もっと最悪な事態を覚悟した。

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