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最強のアーティファクト使い、ヘタレ王子に転生す。  作者: サイトウ純蒼
第三章「ヘタレ王子の巻き返し」
53/74

53.小さな勇気

「行け!! あいつを殺せ!!!!!」


「ガルウウウウ!!!」


 ヘルハウンドの頭領グルーガンの声に、部下達が唸り応える。リュードは白い手袋をした左手で石をひょいと宙に投げ、そして右指をパチンと鳴らして言う。



砲撃ショット


 ドン、ドドドドドン!!!!


 宙に浮いた小石がまるでショットガンにようにヘルハウンドへと撃ち込まれる。


「グワアアアアア!!!!」


 小さな石ながらも威力抜群。ヘルハウンド達はリュードに近付くことすらできない。

砲撃手袋ショットグローブ』。この手袋をはめ、触れたものをまるで砲弾の様に放つことができるアーティファクト。放てる物の大きさは手袋のレベルによる。



(まあ、ノースターだから小石が限界。だけど威力は十分。このフロアに砂利があって良かったぜ)


 野外戦を想定して作られたアーティファクト。リュードは砂利を使ったセンスの良い謁見の間に感謝する。グルーガンが近付くことすらできない相手に戸惑い言う。



「ど、どうなってやがる!? あんな攻撃見たことねえ……」


 剣や魔法との戦いは幾度となく経験してきた。その対処も分かっている。だがこれは一体何だ? 小石がまるで小さな砲弾のように飛んでくる。

 未知の攻撃とその威力に委縮する部下達。グルーガンが冷静になって考える。そして傍にいる側近に何か小声で伝えた。リュードが言う。



「どうする? 俺はタマ、あ、いや。ダーマと同族のお前らとこれ以上戦いたくない。外の連中も多分もうすぐ終わる。今帰るなら許してやるぞ」


 小石を宙に浮かべながらリュードが尋ねる。強力なアーティファクトではあるが、やはりノースターで遺跡のような古い品。いつ壊れるか分からない。グルーガンが答える。



「分かったよ。ちょっと仲間と相談させてくれ。だが、その前に……」


 そう言ったグルーガンの漆黒の体毛が逆立ち、悪しきオーラが溢れ出す。


「俺もこんなことができるんだぜ」


 グルーガンの口が大きく開かれ、そこに邪気が集中。リュードがすぐに異変に気付き『砲撃手袋ショットグローブ』を発射して応戦。



「グワオオオン!!!」


 グルーガンの口から発射される漆黒の衝撃波。ゴオゴオと空気を揺らしながらまっすぐリュードに放たれる。



 ダンダンダンダン!!!


 小石が衝撃波に当たり四方に弾け飛ぶ。セレスが大声で叫ぶ。


「みんな、気を付けろ!!」


「きゃあ!!」


 その一部が国王達にへと飛散し、『紙の壁』に当たり音を立てて消えて行く。リュードとグルーガンの飛び道具合戦。だがそれは気を引くための囮であった。




「はあああ!!!」


 シュン!!!


「きゃあ!!」


 リュードが音のした後方に目をやる。そこには数体のヘルハウンドがマジョリーヌを守るサーラに襲い掛かっていた。



「しまった!!」


 グルーガンの派手な攻撃。それに気を取られていたリュードが部下の動きを一瞬見逃した。剣を振って応戦するサーラ。だが圧倒的に個の能力の高いヘルハウンド数体を相手に、マジョリーヌを守りながら戦うのは無理であった。



「きゃああああああ!!!」


「マジョリーヌっ!!!」


 ヘルハウンドの一体がマジョリーヌの服を噛み、そのまま跳躍。グルーガンの横に着地し、震える彼女の首元へその牙を向けた。



「マジョリーヌ……」


 リュードの声にマジョリーヌが泣きながら答える。


「助けて……、いや、死にたくなぃ……」


 恐怖のあまり言葉もはっきり出ない。震える体に涙。人間の頭など一瞬で噛み砕けるヘルハウンド。彼女の恐怖は尋常ではない。グルーガンが言う。



「おい、そこの人間。妙な術を使いやがって。少しでも動いたらこいつの頭が砕ける。分かってるよな?」


(くそっ……)


 身体能力の高いヘルハウンド相手に少し油断した。人質は古典的な作戦だが意外と効果がある。できれば戦いたくないというリュードの優しさが露呈した形となった。サーラが頭を下げ謝る。



「申し訳ございません、リュード様……」


「気にすんな」


 笑顔で応えるリュード。この状況を招いたのは自分。ダーマと同種族と言うことで感情が入ってしまった。グルーガンが言う。



「おかしな真似はするなよ。まず、そうだ。その石を落とせ」


 リュードの周囲に浮かぶ白い石。いつでも敵を狙えるショットガンのような武器。リュードは仕方なく左手の白い手袋を外す。


 コトン、コトコト……


 次々と床に落ちる小石。アーティファクトの力を失った小石がただの石へと戻る。グルーガンが言う。



「ほお、その手袋に秘密があったか。おい、それをこっちに投げろ」


「……」


「早くしろ!!」


 グルーガンの大声が謁見の間に響く。リュードは仕方なしに手にした白の手袋を放り投げる。


 ガブ!!!


 それを待っていたかのように配下のヘルハウンドが嚙みつき、ビリビリに破いて行く。


(あぁ、勿体ないな……)


 数少ない戦闘用アーティファクト。無残に破かれていく姿をリュードがじっと見つめる。グルーガンが部下に命じる。



「やれ」


「グオオオオン!!!!」


 部下の唸り声が一帯に木霊する。同時に鋭い爪を出し、一直線にリュードへと突撃する。



 シュン!!!


「くっ……」


 間一髪でかわすリュード。だが完全には避け切れず、腕を負傷。鮮血がぽたぽたと流れ落ちる。



「リュード様っ!!!」


 思わずサーラが悲鳴を上げる。王子を守るべき立場の自分。一体どれだけ不甲斐ないのか。リュードがサーラを手で制し言う。


「大丈夫。大丈夫だ……」


 そう言いながらもぽたぽた垂れる鮮血。床が赤く染まって行く。




(僕はどうすればいいんだ……)


 そんなリュード達の戦いを柱の影から見ていたダフィが思う。


(グルーガン様と人間達。僕はどちらの味方に……)


 ダフィの頭にこれまでの過去が蘇る。



『恥さらしの子が、こっち来るんじゃねえ!!』

『早くしろ!! このノロマが!!』


『どうだ? これ、美味いだろ?』

『やだ~、もふもふでふかふか~、気持ちいい~』


 ダフィの目に涙が溢れる。



(決まってんじゃないか。ヘルハウンドの僕にも優しくしてくれた人間。そんな彼らを一方的に襲撃する奴らの……)



 ――味方なんかできない!!!



「グルウウウウ!!!!」



(!!)


 突如柱の影から飛び出した赤き影。後方からの襲撃に不意を突かれたヘルハウンド。赤き影はマジョリーヌに牙を剥けるヘルハウンドを爪で攻撃し、素早く彼女を咥え救出。リュードの元へと連れて行く。



「ダフィ!!」


 驚くリュードが声を出す。ダフィが震えた声で言う。


「お前強いんだろ? 後は頼むよ……」


 リュードが床に落ちていたセレスの剣を拾い上げ、ダフィの頭を撫でながら答える。



「ああ、任せろ」



「貴様ぁあああ!! 俺達を裏切ったのか!!!!!!」


 怒りに狂うグルーガン。全身の黒き体毛を逆立て突進してくる。リュードが剣を構え、突進。剣を振るう。



 ガン!!!!


 グルーガンの爪とリュードの剣がぶつかり火花を放つ。



 ガン、ガガガガガガガガン!!!!


 リュードの流れるような剣撃。グルーガンも爪と牙で応戦。激しい打ち合い。だがグルーガンが困惑する。



(な、なんだ、こいつ!? 稚拙な動きなのに、どうして当たらねえ!!??)


 グルーガンは混乱した。速い訳でもない。素早くもない。だが攻撃が全く当たらない。自慢の爪と牙がかすりもしない。日々の隠れた鍛錬が、確実に勇者サックスとしての力を取り戻させていた。



「はああ!!」


「ギャ!!!」


 そしてリュードの一太刀が入った。動揺するグルーガンに容赦なく追撃を行う。



 ザン、ザンザンザンザン!!!!!


「グガアアアアア……」


 心に恐怖を感じたグルーガン。その瞬間、勝負はついた。一方的に斬られるその漆黒のヘルハウンドを前に、部下達も戸惑い恐怖で動けなくなる。



 ドン……


 倒れる漆黒のヘルハウンド。



(勝てねえ、俺では勝てねえ……)



 何かが違う。この人間は他の人間と圧倒的に何かが違う。リュードが剣をグルーガンの顔に突き付け小さく言う。



「まだやるか?」


 全身血まみれのグルーガン。弱々しく答える。



「降参だ……」


 そして成獣のヘルハウンドが服従を意味する『仰向けになって腹を見せる』仕草を取る。リュードが剣を収め屈み込み、グルーガンに言う。



「俺に仕えよ。新たな獣王よ」


「クウ~ン……」


 グルーガンは仰向けのまま服従の声を上げた。小さな人間。だがそこから感じるとてつもなく何か大きなものに、彼は絶対の服従を誓った。

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