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最強のアーティファクト使い、ヘタレ王子に転生す。  作者: サイトウ純蒼
第三章「ヘタレ王子の巻き返し」
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51.王都バルカン攻防戦

 首都バルカンから少し離れた荒野。輝くように聳え立つバルカン王城を眺めつつ、その漆黒の体毛のヘルハウンドが言う。


「お前ら、気合入れていけよ!!」


「ウオオオオオオオン!!!!」


 新たな頭領グルーガンを筆頭に首都バルカンを睨みつけるヘルハウンド約千体。知的な彼らはここを落とせば国が機能しないことは理解している。様々な体毛をしたヘルハウンドの群れ。グルーガンが右手を舐めながら言う。



「予定通りだ。精鋭隊は王城を落とす。それ以外の奴らは街を襲え!!」


「ウオオオオオオオン!!!」


 バルカン王国の主力が集まる王城。攻略は容易ではないが、そこを落とせば下手な話国が手に入る。よってヘルハウンドの中でも選りすぐりの精鋭が集められた。その他は街を襲撃。人間を追い払いそのすべてを奪い取る算段だ。グルーガンが言う。



「俺達は上位種族ヘルハウンド。下等な人間共を狩る立場。では、行くぞ!! ウゴオオオオオオオン!!!!」


 ボスの遠吠え。それに合わせて千体を超えるヘルハウンドが一斉に駆け出す。






「ヘルハウンドの群れが王都を襲撃しています!!!」


 恐るべき一報。それを聞いたバルカン国王の顔が真っ青になる。


「ヘルハウンドの群れが、襲撃だと……」


 騎士団長セレスが尋ねる。


「数は?」


「お、恐らく千体は超えるかと……、街が取り囲まれています……」


 黙り込む一同。これまで各地で小規模な襲撃はあったがこのような大規模、しかも王都を狙っての攻撃は経験がなかった。すぐに騎士団長セレスが命じる。



「王都守備隊を出陣!! 街の護衛、王城の守備を固めろ!!」


「はっ!!」


 伝令の兵士が大きな声で返事をし退場する。リュードが考える。



(少し前とは言え先ほど外にいた時は全く気配を感じなかった。相当統率の取れた群れだな……)


 相手の指揮官はかなり有能。千体強ものヘルハウンドが本気を出して襲い掛かれば王都とていつまでもつか分からない。



「リーゼ」


「うむ」


 リュードが小さく命じる。


「街を頼む」


「分かった。サー様もお気を付けて」


 リーゼロッテはそう小さく言うと黄金の宝玉のついた魔法杖を手に退出する。


(できる限り被害は最小限に抑えたい。となれば……)


 リュードは今あるアーティファクトの確認を行った。





「閉門、閉門っ!! 急ぎ門を閉めろ!!!!」


 一方、王都では慌ただしく守備兵が駆け回っていた。城壁に守られた王都。その壁門が次々と閉じられていく。


「な、中に入ったぞ!! 気を付けろ!!!!」


 だが動きの速いヘルハウンド。閉じられる前の門から数体が町中へと侵入。鋭い牙と爪を剥き出しにして威嚇する。



「グルルルル!!!!」


 駆け付けた守備兵達との戦闘。一般市民を避難させ隊列を組み必ず複数で当たる。


「ぐわあああ!!!」


 それでも大苦戦した。成獣となったヘルハウンドの能力は恐ろしいほど高く、たった一体であっても討伐は容易ではない。兵士が叫ぶ。


「怯むな、討て、討て!!!!」


 皆は絶望していた。こんなに強くて凶暴な魔獣が外に千体強。貧弱な街の守備隊でどうにかなるレベルではなかった。




「こ、こんなのどうすればいいんだよ……」


 街の城壁の上で弓を構えた小隊長が青い顔をして嘆いた。その目には城壁に群がる魔獣の集団。高き知能に残虐性。バルカン国王を震え上がらせる凶悪な悪魔が本気で牙を剥いてきた。


「退け、小童。邪魔じゃ」


 そこへ現れた小さなツインテールのエルフ。弓を持った小隊長が言う。


「な、なんだ! 子供はあっちへ……」



「退けと言うたのじゃ!!!!」


(!!)


 魔法が使えない小隊長ですらびりびりと感じる恐ろしき魔力。声も出せずに後退りする。

 杖を持ったエルフ、リーゼロッテが眼下に広がる魔獣の群れを見て小さくつぶやく。



「わらわとサー様がいらっしゃる城を攻めるとは、万死に値するぞ……」


 怒りで魔力が増長するリーゼロッテ。やがてそれは大きく膨張し、今にも暴発する寸前まで高められる。


「絶え間ない雷光が天空を貫き、無限の力を秘めし魔法の扉が開かれん。遥かなる星辰の輝きよ、我が魂に宿る雷の精霊よ、今こそ姿を現し我が手に雷鳴を授けん。雷神の加護よ、我が声に宿りて、その力を解放せよ……」


 リーゼロッテの詠唱と共に晴天だった空に雷雲が立ち込める。王城襲撃に突進していたグルーガンですら思わず足を止め天を見上げる。


「な、なんだありゃ……」


 天に蠢く悪魔のような漆黒の雲。ゴオゴオと雷鳴が地面を震わせる。リーゼロッテが叫ぶ。



「天罰じゃ。雷鳴輝光らいめいきこうっ!!!!」


 天一杯に広がった雷雲。そこからまるで豪雨の様に辺り一帯に雷柱が落とされる。



 ドン、ドドドオオオオオオン!!!!!


「クオオオオオオン!!!!」


『嘆きの雷帝』渾身の攻撃を受け感電し、次々と倒れるヘルハウンド。城壁にたったひとり立ち、雷風にツインテールを揺らしながら魔法を唱える姿はまさに雷神のようであった。



「な、何者なんだ、あの女……」


 バルカン守備兵達が突如現れた魔導士に驚きその姿を見上げる。恐ろしいほどの魔力を含んだ雷柱が城外で次々に落とされていく。守備隊長が叫ぶ。


「い、今のうちに市民を安全な場所へ避難させろ!!」


 守備兵達がその号令に合わせ慌ただしく動き始める。リーゼロッテが地面に群がるヘルハウンドの集団を見て思う。



(やれやれ。この数を追い払うには、ちと骨が折れるぞよ……)


 そう思いつつも一切の唱え続ける魔法に妥協をするつもりはなかった。





「何が起こってるんだ!? 一体っ!!!」


 ヘルハウンドのボス・グルーガンは天を埋め尽くす雷雲、そしてそこから落とされる雷柱を見て唖然とする。側近が言う。


「雷魔法です!! 相当な使い手がいるようで……」


 そんな情報はない。いや、そもそもあのレベルの魔法を扱えるのはこの世界でも一握り。一体誰がいるのか。唖然とその様子を見るグルーガンに側近が言う。


「我々は一刻も早く『王』を討ち取りましょう。それが最善」


「分かっている!!」


 城壁を容易に飛び越えたヘルハウンドの精鋭部隊。現れた王城王守備兵を蹴散らし、真っすぐ城へと駆け続ける。




(な、なにが起こってるんだよ!?)


 一方、城の前で待機していたダフィが異変に気付き顔を上げた。立ち込める雷雲。城外の唸り声。慌てる兵士達。理解が追い付かないダフィの目に、その漆黒のヘルハウンドの姿が映った。


(グ、グルーガンさん!?)


 ヘルハウンドのリーダーであり、絶対的強さを誇るボス。そのグルーガンが同じく屈強の側近を引き連れこちらに向かっている。側近がダフィに気付き走りながら声を掛ける。



「何だ、小僧!! 人間に捕まっていたのか!? 助けてやる、一緒に来い!!!」


 ダフィは一瞬安堵した。

 もし人間達と行動を共にしていたと知られれば、恐らくここで瞬殺されていただろう。拒否することもできないダフィが黙ってグルーガン達の後に続く。



(ど、どうなるんだよ、これ……)


 城内を駆け回るグルーガン達側近。守備兵を薙ぎ倒し、階段を駆け上り、やがて国王の間の扉の前に立った。

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