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最強のアーティファクト使い、ヘタレ王子に転生す。  作者: サイトウ純蒼
第三章「ヘタレ王子の巻き返し」
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48.新たな仲間

「そうか! お前タマ……、あ、いや、ダーマの子か!!」


 意外過ぎる事実を知ったリュード。満面の笑みを浮かべながら倒れるダフィの顔に触れようとする。


「ウォン!! 下等な人間が僕に触れるな!! グルルルル……」


 人間は下等で弱き生き物。ヘルハウンドを撃退したのだってエルフ族と魔族の剣士。人間ごときが何を調子に乗っているのか。

 威嚇するダフィに再びリーゼロッテが静かに言う。



「犬コロ、何度言ったら分かる? サー様に対して……」


「それよりリーゼ。頼むよ」



「……分かった。サー様がそう仰るなら」


 何の指示もしていない。だがすぐにリュードの意図を汲んだリーゼロッテが魔法を詠唱する。



「深淵より湧き出でしばる生命の泉よ。かの身体に宿る傷痕を癒し、再び輝く命を蘇らせん。ヒール……」


(え?)


 ダフィは驚いた。

 体が緑の光に包まれ動けぬほどの激痛だった怪我があっと言う間に治癒していく。リュードが尋ねる。



「お前、名前は?」


「……」


 無言のダフィ。だがリーゼロッテの殺気を帯びた魔力を感じすぐに答える。


「……ダフィ」



「ダフィ。そうか。じゃあ、ダフィ。お前、俺達と一緒に来い」


 驚いたかのダフィが牙を剥いて言う。


「ふ、ふざけるな!! どうして僕が人間なんかと……」


 リーゼロッテがリュードに尋ねる。



「良いのか、サー様。このような駄犬? お気持ちは分かるが」


「ああ、問題ない。タマの子供、放って置けない。それに……」


 リュードが横目でサーラを見つめる。



(彼女が魔族だと言ったヘルハウンドの嗅覚。今はそれも必要)


 少しでも何か情報が欲しい。ヘルハウンドが持つ超越的な能力はリュードも十分に知っている。ダフィが立ち上がり答える。



「ぼ、僕はお前達のなんかと一緒に行かないからな!! グルルルル……」


 まだ子供のダフィ。大きさはリュードよりもやや小さいほど。それでもヘルハウンドの凶暴さは備えている。リュードが言う。


「いいけど、じゃあこれからどうするの? あの群れに帰るのか?」


「そ、それは……」


 ダフィを置いて行った時点で群れから見捨てられたことは理解している。リュードが続ける。


「今この国はヘルハウンドに対して強いヘイトがあるんだろ? お前ひとりでこの先どうする? 殺されるぞ」


「……」


 黙り込むダフィ。悔しいがこの人間の言う通りだ。仲間からは『恥知らずの子』と馬鹿にされ、人間からは駆除の対象とされる。どうせどこへ行ったところで何も変わらない。



「分かった。僕はその()()()に従う。いいか、お前じゃないぞ!」


 知的だが、凶悪な魔獣ヘルハウンド。一方彼らは強者には絶対の服従を誓う。ダーマに代わって、新たにグルーガンが統率できているのもその強さのお陰だ。リュードが言う。


「それでいい。よろしくな、ダフィ」


 そう言ってダフィの頭を撫でようとするリュードの手をすっと避け、牙を剥ける。



「犬コロ!!」


 リーゼロッテの声に顔を背けるダフィ。苦笑するリュードがダフィの前で腰を下ろし、右手を差し出して言う。



「お手」


「はあ?」


 呆然とするダフィ。リュードが頭を掻きながら言う。


「あれ、おかしいなあ。ヘルハウンドって手を差し出せば返してくれるんじゃなかったっけ?」


「サー様。あれはタマだけじゃぞ」


「そうなのか……」


 やや残念そうな顔で立ち上がるリュード。




(一体何なんです!? この人達は……)


 マジョリーヌはその凶悪の悪魔とのやりとりを信じられない顔で見つめていた。

 国家を上げて対処する恐るべきヘルハウンド。その群れの襲撃を一方的に退け、その上子供とは言えその一体を仲間にしてしまった。まるで何かのペットの様に。


「あ、あの、リュード様……」


 マジョリーヌの声にリュードが答える。


「なに?」


「いえ、その……、本当にヘルハウンドをお連れなさるのでしょうか?」


「そうだよ」


「でもしかし、バルカン王国ではその魔獣はもはや禁忌とされており、一緒の行動は……」


 リュードがダフィを抱きかかえるように言う。



「大丈夫だって。こいつ、犬みたいで可愛いだろ?」


「や、やめろよ!! 僕に触れるな!!」


 ふさふさの毛がもふもふのダフィ。久しぶりの感触にリュードの頬も緩む。マジョリーヌが言う。


「い、いえ、そう言う問題では……」


「じゃあ首輪でもつけて危なくないって見せればいいじゃん」


「い、いえ、その……」


 話が噛み合わない。ヘルハウンドが一緒に居ること自体が問題なのだ。ダフィが言う。



「ぼ、僕は嫌だぞ! 首輪なんて犬じゃないし!!」


「仕方ないだろ。そうしないと一緒居行けないんだぞ。なあ、リーゼ」


 全く興味のなかったリーゼロッテだが、リュードにそう言われて頷き返事をする。


「うむ。サー様の言う通りじゃ」



「……わ、分かったよ」


 主であるリーゼロッテの言葉には従わざるを得ないダフィ。渋々首輪の件も了承する。リュードが言う。




「じゃあ、行こっか」


「はい!」


 新たにヘルハウンドのダフィを仲間に加えたリュード。これよりバルカン王城へと向かう。



(サーラのことも調べなきゃな。魔族って、一体どう言うことだ??)


 リュードは隣に立つ亜麻色の髪の美少女サーラを見つめる。不安そうな顔。当然であろう、突然『お前は魔族』などと言われたのだから。この時代に転生し右左も分からないまま突っ走って来たリュード。その中でとても大きな支えとなってくれたのは間違いなくサーラ。彼女の為にも力になりたい。

 リュードはバルカン王城へ向かう馬車の中、そんな彼女の横顔を見つめながら心に誓った。






「グルーガン様、一斉襲撃の準備が間もなく整います」


 バルカン王国の僻地。寂れた村を襲撃し、そこにあった食料を貪りながら漆黒の体毛のグルーガンが答える。


「そうか。俺達ヘルハウンドの恐ろしさをたっぷりと見せつけてやる。ウオオオオオオオン!!!!」


「ウオオオオオオオン!!!!」


 新たなヘルハウンドの頭領、漆黒のグルーガン。バルカン王国にその凶暴な牙が襲い掛かろうとしていた。

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