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最強のアーティファクト使い、ヘタレ王子に転生す。  作者: サイトウ純蒼
第三章「ヘタレ王子の巻き返し」
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47.獣王の息子

「サーラっ!!」


 赤毛のヘルハウンド、ダフィが牙を剥いてサーラへと襲い掛かる。ゆっくりと剣を抜くサーラ。そして目の前に迫ったダフィに向けて素早く剣を振り下ろした。


「はあっ!!」


「グゴオオオン!!!!」


 サーラの剣がダフィの胸に吸い込まれるように軌跡を描く。大きな鳴き声と共に鮮血を吹き出しその場に落ちるように倒れるダフィ。それを見た青毛のボスが皆に叫ぶ。



「撤退っ、退け、退けーーーーっ!!!」


 敵わないと判断したボス。リーゼロッテに受けた怪我の激痛を堪えながら、部下達が四方に逃げ始める。リーゼロッテが杖を構えて言う。


「生きて帰れると思うなよ、犬コロ共がっ!!!」


「リーゼ」


 追撃を行おうとしていたリーゼロッテにリュードが言う。


「タマの同族だ。その辺にしてやれ」


「……うーん、サー様がそう仰るならいいのじゃが。ほんに腹が立つ」


 やや納得がいかないリーゼロッテだが、リュードに言われては仕方がない。リュードがたった一頭残った赤毛のヘルハウンドを見ながら言う。



「でも何でヘルハウンドが人を襲うんだ? タマがしっかり統率してくれてたんじゃないのか?」


 決して人を襲うことなどしなかった元勇者パーティ一員のダーマ。魔王討伐後、彼が獣王としてヘルハウンド達を統率していたのは知っているので、このような蛮行の理由が分からない。リュードがサーラに尋ねる。


「サーラ、何か知ってる?」


「え? あっ、一部人を襲うヘルハウンドがいるって噂は聞いたことがあるようなないような……」


 サーラ自身あまり知らない。


「リーゼは?」


「知らぬ。そんなもん、興味がない」


 ずっと里に籠っていたリーゼ。外界に興味が無くて当然。レーニャが言う。



「ミャーは聞いたことがあるニャ。このバルカン王国でヘルハウンドが暴れているって」


「やはりそうなのか?」


「そう聞いただけニャ」


 隣国の話。レーニャもそう詳しくはないようだ。それを聞いていたマジョリーヌが信じられない顔で言う。



「皆様、ご存じないのですか? この凶悪な悪魔のことを」


 その視線の先にはサーラに斬られ流血しながら横たわるヘルハウンドがある。怒気を含んだ声で説明する。


「私達バルカン王国の者は、長い間ずっとこの凶悪な悪魔ヘルハウンドに怯えて暮らしております。この魔獣の駆除。それが皆の切望でございますわ!」


 そう話すマジョリーヌの言葉に強い気持ちが感じられる。バルカンの民の希望。それは理解した。リュードが小声でリーゼロッテに尋ねる。



「なあ、それでタマは何やってんだ?」


「あの犬コロはとっくに死んでおるぞ」


「あ、そうだったな」


 リュードの感覚ではまだ先月ぐらいに会ったばかり。だがここは500年後の世界。もう生きてはいなくて当然だ。マジョリーヌがサーラに懇願するように言う。



「サーラ様、お願いでございます。早くこの悪魔を斬り捨ててくださいませ」


 ヘルハウンドなど一頭たりとも生かしてはおけない。そんな強い意志がマジョリーヌから感じられる。

 無言で鞘に手を掛けるサーラ。それを見た赤毛のダフィがサーラに言う。



「お前、なんで()()の味方なんかしてるんだよ!!」


(え?)


 サーラの手が止まる。


「人間の、味方……?」


 意味が分からない。困惑するサーラにダフィが続ける。



()()のお前が、どうして人間の仲間なんかやってるんだって聞いてるの!!」


「……魔族?」


 皆がサーラの顔を見つめる。サーラが魔族? 何を言っているのか全く分からない。堪らずリュードが尋ねる。



「なあ、サーラは人間だぞ? 何を言っているんだ?」


 ダフィが横目でリュードを見て答える。


「お前らには分からないのか? こいつから漂う匂い、これは魔族。それもかなり上級の魔族のものだぞ……」


「うそ、うそ……」


 サーラが両手で顔を押さえ首を振って言う。ヘルハウンドの鼻は他の生き物よりもずっと利く。時間稼ぎの出鱈目か。そう思ったリュードにレーニャが言う。



「リュード。確かにサーラからは変わった匂いがするニャ。それは前にも言ったけど、魔族だとは分からなかったニャ」


 確かに以前レーニャもそんなことを言っていた。だが魔族? リュードがじっとサーラを見て尋ねる。


「サーラ、本当なのか?」


「違う、違います。私は、私は……」


 そう思ったサーラがあることに気付く。



(あれ? 私って何者……)


 深く考えたことはなかったが、王城に剣術指南としてやって来る前の記憶がぼんやり霧に包まれているように思い出せない。どこで何をしていたのか。なぜ剣術指南として城にやって来たのか。何も思いだせない。

 顔を青くして震えるサーラにリュードが肩に手を回し優しく言う。


「サーラが何者だって変わらないよ。サーラはサーラ。それでいい」


「リュード様……」


 泣きそうなサーラにリュードが笑顔で応える。



(サーラの事も気になるが、それより今はこちらが先……)


 リュードが血を流し倒れるヘルハウンドを見つめる。駆除してしまう前に確かめたい。倒れている赤毛のヘルハウンドの傍に行き、腰を下ろして尋ねる。



「なあ、教えてくれ。お前達の頭領だった()()()ってのがいただろ? あいつに言われなかったのか、人間を襲うなって」


 リュードにはこの赤毛のヘルハウンドが、仲間だったダーマにそっくりで何とかしてあげたいと思った。だがその名前を聞いたダフィが牙を剝いて答える。


「その名前を僕の前で出すな!! クソ()()。僕があいつのせいでどれだけ辛い思いをしてきたのか!!」



「え? お前、今ダーマのこと、親父って言った?」


 驚くリュード。ダフィが更に牙を見せ答える。


「その名前を出すなって言っただろ!! グルウウウ!!!!」


「犬コロ、黙ってサー様の質問に答えよ。焼き殺すぞ」


 リーゼロッテの魔力が爆発しそうな勢いで大きくなる。それを感じたダフィが小さく答える。



「……そ、そうだ。僕はあの『恥知らずのヘルハウンド』、ダーマの子供だ」


(マジか……、そりゃ凄い!!!)


 まさに父親に瓜二つの息子ダフィ。リュードは嬉しさのあまり涙が溢れそうになった。

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