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最強のアーティファクト使い、ヘタレ王子に転生す。  作者: サイトウ純蒼
第三章「ヘタレ王子の巻き返し」
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46.ヘルハウンド襲撃

 人間の倍の大きさを誇る知的な魔獣ヘルハウンド。バルカン王国の僻地に暮らしていた彼らだが、いつしか街や村周辺に現れるようになりそこに住む人達の生活を脅かし始めた。


「奪え奪え!! ウオオオオオオオン!!!!」


 知的な彼らだが、魔獣としての残虐な一面も併せ持つ。当初、村にある食糧目当てだった襲撃が、人間が弱き生物だと分かると彼らの残虐性が顕著となった。




『人間を襲うな!! 狩猟も最低限とする』


 昔のヘルハウンドは違った。

 彼らを統率していた王者、『業火の獣王』と呼ばれたダーマが存命していた頃は、決して人間を襲うようなことはなかった。その理由は簡単だった。


「タマ~、今日もご苦労さん」


「クウ~ン……」


 ダーマはサックスと共に魔王と討伐した勇者パーティの一員。ダーマと言う名前から、通称タマと呼ばれサックスにとても可愛がられていた。故に魔王が倒され、平和となった世界でダーマは皆に言った。



『人間を襲うな。狩猟は生きる為の最低限にせよ』


 業火を操り圧倒的な強さを誇ったダーマに、他の皆はすべて従った。彼のお陰で平和が続いた。人とヘルハウンドが争うことなく時間が流れた。

 だがそんなダーマも衰弱し、やがて命を落とす。



「人間ってクソ弱いんだぜ」


 ダーマ没後、少しずつ群れの中の空気が変わり始める。禁忌とされていた人間襲撃が徐々に行われるようになった。最初は彼らが持つ豊富な食糧目当てだった襲撃が、いつしか単に『弱い者いじめ』へと変わる。



「俺達のような優秀な魔獣が、なぜこんな僻地で暮らさねばならぬ!?」


 やがて現れた新たなリーダー。赤毛だったダーマとは違い、その体は闇と同化する漆黒。名をグルーガンと言った。彼はバルカン王国中に生息するヘルハウンド達に号令を出した。


「人間は恐れるに足らず。俺達魔獣が()()立場だ!!」


 やがて各地で人間の村や町を襲うようになっていった。

 そしてヘルハウンドでも下っ端の野良集団が、村や街でなく、効率の悪い街道でも旅人をも襲うようになっていた。




「おい、ダフィ。なに震えてんだよ!!」


 ダーマと同じ赤毛のヘルハウンド、その名をダフィ。彼はとある理由で群れの皆から蔑まれていた。別のヘルハウンドが笑いながら言う。


「あー、やっぱ『恥知らずの子』なんざここに置いておくべきじゃねえよ!!」


 彼の蔑称『恥知らずの子』。先代獣王ダーマはいつしか『人間に逆らえなかった弱者』と言われるようになっていた。そしてそのダーマの子、ダフィも皆から馬鹿にされ、蔑まれる獣生を送って来た。



(親父が人間なんかにへこへこしたせいで、僕は……)


 幼き頃は尊敬でしかなかった父ダーマ。だが時代が変わり、人間が下等な生物だと知れ渡った今、その評価も一変した。


(僕も人間を襲い、やれるところを見せなきゃ!!)


 ダフィは『ダーマの子』と言う汚名返上に必死になっていた。とは言え武装し、隊を組んだ人間の兵士は侮れない。力のないヘルハウンドの野良集団は街道をゆく旅人を襲うようになっていた。




(あれが今日の獲物……)


 離れた丘からこちらにやって来る人間達を見つめるダフィ。遠目が効くヘルハウンドには造作のないこと。全身青き体毛に覆われた群れのリーダーが言う。


「さあ、始めようぜ。人間狩り!!」


「ウオオオオオオン!!!」


 野良集団が、街道を馬に乗って歩く人間達へと突進する。




(何か来るニャ!?)


 最初に気付いたのは獣人族のレーニャ。同時に超人的な嗅覚を持つサーラが抜刀し、マジョリーヌとリュードが乗る馬車の前に立つ。


「リュード様、お気を付けを!!」


 リュードが馬車の窓から外を見つめる。勢いよく突進してくる何かの群れ。やがてそれは大きな魔獣だと気付く。マジョリーヌが真っ青な顔で言う。


「ヘ、ヘルハウンド……」


 バルカン王国を苦しめる凶暴な悪魔、ヘルハウンド。その群れがこちらに突進してくる。

 馬車の周りにいたマジョリーヌの護衛が戦闘準備に入る。その前には剣を持ったサーラ、そして椅子駕籠に乗ったリーゼロッテ。リュードが馬車の窓から顔を出して言う。


「気を付けてね、ふたりとも~」



「無論じゃ。あのような犬コロ風情、わらわが捻り潰してやろうぞ」


「リュード様はそこで待機を!!」


 頼れる護衛ふたり。リュードは馬車にもたれかかり、腕を組んでそれを見つめる。



(王子と言う立場は分かりますわ。だけど女性ふたりに戦わせてご自身は何をなさっているのですか!!)


 女性は男に守って貰うものと言う貴族令嬢の常識。リュードは王子ではあるが、この緊急事態にあんな態度を男が取ることは容認できなかった。ヘルハウンド5~6頭の小さな群れ。だが個体能力の高い魔獣。これだけでも普通の人間なら絶望となる。




「中々いい身なりじゃねえか。こりゃ当たりだな」


 青毛のヘルハウンドのボスがマジョリーヌやリュードを見て言う。地位の高い貴族を襲えば襲うほど、人間達のヘルハウンドへの恐怖心は強まる。つまり今後の襲撃が容易になる。別のヘルハウンドが言う。


「ボス、あの亜麻色の髪の人間。妙な匂いがしますぜ……」


 ボスの目に剣を構えたサーラの姿が映る。獣人族よりずっと鼻の利くヘルハウンド。鼻腔を動かしサーラに集中する。ボスがやや興奮気味に言う。



「おいおい、ありゃ一体なんだ? まあいい。あのレベルの上物を討ちとりゃ、俺達の地位もぐんと向上する。やるぜ、皆殺しだ!!」


「承知!! おい、ダフィ!! お前もしっかり働けよ!!!」


 赤毛のヘルハウンド、ダフィが頷いて答える。


「わ、分かってるよ!! ウオオオオオオオン!!!!」


 ボスに指揮されたヘルハウンドの集団がリュード達を襲う。




「愚かな虫ケラ共め!! サー様に牙を向けたその意味、その体でとくと知るが良い!!!」


 椅子駕籠からひょいと飛び降りたリーゼロッテ。すぐに魔法杖を構え詠唱を開始。


「虚無の深淵より放たれし電撃、今ここに解き放ち、天に轟く雷神よ、我が願いを叶え給わん。雷霆の裁き(サンダーヴォルト)!!!」


 リーゼロッテから放たれる電撃魔法。手にした黄金こがね色の宝玉が付いた魔法杖は更に彼女の魔力を増幅させ、空気を伝播し広がりヘルハウンドを襲撃する。



 バリ、バリイイイイ!!!!


「グオオオオオオオオン!!!!!」


 直撃を受け倒れるヘルハウンド。想像以上の魔力、雷撃。完全に敵の力量を見誤った部下達が倒れる中、ボスが負傷しながらもその大きな牙をリーゼロッテに向ける。



「ファイヤーボール」


 脳内詠唱。リーゼロッテに迫った青毛のボスは強力な火球を受け、のた打ち回る。


「グオオオオオオオオン!!!」


 あちこちで上がるヘルハウンドの鳴き声。多くの個体が倒れる中、その赤毛のヘルハウンドは一直線にサーラへと牙を向け襲いかかった。



「サーラっ!!!!」


 リュードが名前を叫ぶ中、サーラはゆっくりと剣を構えた。

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