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最強のアーティファクト使い、ヘタレ王子に転生す。  作者: サイトウ純蒼
第三章「ヘタレ王子の巻き返し」
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45.マジョリーヌの困惑

「リュード、行く前に俺と勝負しろ!!」


 赤髪で野生的な顔。獲物を狩るような鋭い眼光をリュードに向け、長兄ベルベットが大声で威圧する。



(ほんと決闘好きな兄弟だよな……)


 こんな争いに何の意味も見出せないリュュードがため息をつく。勝ってどうするのか。負かしてどうするのか。全く意味がわからない。


「ベルベット様……」


 一瞬、自分に会いに来てくれたのかと勘違いしたマジョリーヌが落胆する。戦闘狂、やはりその名前は間違いでは無かった。リュードがため息をつきながら言う。



「長兄、そんな決闘に意味は……」


 そこまで言いかけたリュードの前に金髪のツインテールのエルフと、亜麻色の髪の剣士が立つ。リーゼロッテが黄金の宝玉がついた杖をベルベットに向け静かに言う。


「前にも言ったはずじゃ。その剣をサー様に向けることの意味を。忘れたのか?」


 ベルベットの大剣が真っ直ぐリュードに向けられている。ベルベットが笑って答える。



「これはあんたに関係ねえことだ。俺とリュードのこと。引っ込んでいてくれ」


 サーラが懇願するように言う。


「ベルベット様! これよりリュード様は国使としてバルカン王国へ向かわれます。もしお怪我でもされたら……」


 サーラが静かに剣を抜く。第一王子ベルベットに対して剣を抜く。その意味が分からぬサーラではない。



 チッ……


 ベルベットが舌打ちして大剣を背に戻す。リュードの前に立つふたりの猛者を前に首を振って言う。


「さすがの俺もお前らふたりに攻撃されたら命の保証はねえ。リュード、感謝しな! 今日は見逃してやる」


「ふん。弱い奴ほどよく喋りおる」


 リーゼロッテがぶっきらぼうに言う。サーラも安心して剣を鞘に収め、それを見たリュードが笑顔でベルベットに言う。


「いや〜、これはこれはどうもありがとう。また会いましょうね〜、長兄」




(なんて見苦しいのかしら!!)


 マジョリーヌはそのやりとりを見て苛立ちを隠せなかった。なぜ決闘するのか知らないが、ベルベットの挑戦をふざけて流し、こともあろうか女性を盾にヘラヘラしている。


(変態だと思っていたけど、男としても最低。あんなのと一瞬でも一緒に居たくないわ!!)


 多くの男を魅了してきた彼女だから分かるリュードの不甲斐なさ。あんな奴早くヘルハウンドの餌になればいい。だが同時に思う。



(あのふたり、特に金髪のエルフは一体何者なの?)


 サイラス最強で『真朱の破壊者』の二つ名を持つベルベット。その彼が明らかにあのエルフには一目置いている。マジョリーヌが近くにいたサイラスの兵士を呼び尋ねる。



「ねえ、ちょっとお聞きしたいのだけど、あのエルフは一体誰なのかしら?」


 兵士が答える。


「え? ああ、あのお方は『嘆きの雷帝』と呼ばれるエルフ族の族長様ですよ」


「!!」


 離れた国であるバルカン王国にまで響くその名声。魔法において最強の使い手であるエルフ族。その頂点に立つ族長、通称『嘆きの雷帝』。戦闘に疎いマジョリーヌですらその名は知っていた。


(う、うそ!? どうしてあの『嘆きの雷帝』が変態王子と一緒に??)


 無論今は族長でないことまでは知らない。だがかの有名な魔法使いがどうしてリュードと一緒にいるのか理解できない。


(しかもあの変態王子の言うことには順応に従っている。何? 弱みでも握られている? それともお金とか??)


 考えれば考えるほど理解できない。ただこれは好都合。使えない第三王子ではあるが、あの『嘆きの雷帝』が一緒に来てくれるのならば心強い。




「じゃあなー、長兄!! 行ってくるぜ〜!!」


 話し合いが終わり、皆に手を振って出立するリュード。まるでどこかに遊びに行くような軽さ。


(ヘタレ王子とはよく言ったものですわ)


 その姿を軽蔑しながら見つめるマジョリーヌ。そこへ『嘆きの雷帝』ことリーゼロッテが通り掛かる。



「族長様、ご同行ありがとうございます。お目に掛かれて大変光栄でございますわ!」


 リーゼロッテが歩みを止め、マジョリーヌを睨みつけて言う。


「気安くわらわに声を掛けるな!! わらわは決してお前を認めぬし、サー様を奪おうものなら地獄の雷撃で焼き尽くすぞ!!」


「ひゃっ!?」


 悍ましいほどの魔力。思わずマジョリーヌが後退る。



(わ、私何か悪いことでもしたのかしら!? いえいえ、まともにお話しすらしたことないのに……)


 だが分かる。あの本気で自分を亡き者にしよとした威圧。椅子駕籠に乗り込むリーゼロッテ。リュードの隣に佇立するサーラ。ふたりを見てマジョリーヌが思う。


(一体何なの、この人達……)


 バルカン王国への帰り道、いや、到着してからもその後を思うと憂いしかなかった。






「巨乳、巨乳、巨乳美女〜」


 マジョリーヌはバルカン王国へ向かう途中、まるで緊張感のないリュードを見て何度もため息をついた。


「リュード様! そのようなはしたない歌はおやめ下さい!!」

「そうじゃぞ、サー様。さすがにそれは看過できん」

「リュードは変態ニャ」



「いや〜、女のお前らにはこの男の野望ってのが分からないだよ。いいじゃん、歌うだけなら」


 全く反省もせずに下品な歌を歌い続けるリュード。マジョリーヌが思う。



(本当に自分のお立場を理解さていないようですわね。これからバルカンにて血を吐くような苦境に追い込まれると言うのに)


 バルカン王国を襲うヘルハウンドの群れ。利口で、戦闘力も高いあの魔獣集団との戦闘が待ち構えている。マジョリーヌが小さくつぶやく。


「変態王子なんて、餌になってしまえばいいのですわ」



 そしてその招かざる客は現れた。


「リュード様っ!! お気をつけを!!」


 サーラが素早く抜刀し、リュードの前に立つ。リーゼロッテも黄金の宝玉の魔法杖を握り、その集団をじっと見つめる。場所は既にバルカン王国領。サイラスでは見慣れない相手。ゆっくりと林の間からその姿を見せた。



「へ、ヘルハウンド……」


 思わずマジョリーヌが声を出す。バルカン王国兵ですら隊を組んで相手をする恐るべき相手。こんな街道で遭遇することはあまりない。



「こ、殺される……」


 マジョリーヌは真っ青になってその悪魔の集団を見つめた。

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