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最強のアーティファクト使い、ヘタレ王子に転生す。  作者: サイトウ純蒼
第三章「ヘタレ王子の巻き返し」
43/74

43.リュードが婿養子!?

 サイラス国王より、特別に王城滞在の許可を貰った隣国バルカンの貴族令嬢マジョリーヌ。三王子との食事会以降、早速彼女の作戦が開始された。


「おはようございます、ベルベット様!」


「ああ……」


 やはり最大の目的は長兄ベルベット攻略。『真朱の破壊者』との二つ名を持つサイラス最強の男。赤き髪に野性的な顔。マジョリーヌの好みでもあった。



(でもなかなか私に興味を持って頂けませんわね……、女性に興味がないとか?)


 そんな彼女の思いとは裏腹に、戦うことが生き甲斐のベルベットにとって隣国の令嬢など少しの興味も持つことができなかった。





「……氷刃狂い咲き(アイスブレード)!!」


 またマジョリーヌは、王城魔法訓練所でひとり氷魔法の鍛錬を行う次男ランフォードにも接近した。


「お見事ですわ、ランフォード様っ!!」


 噂に違わぬ見事な氷魔法。性格に難はあれどその実力、美しき容姿は一目を置かざるを得ない。


「……ふん」


 マジョリーヌを一瞥したランフォードが、全く興味を見せない態度でそれに応える。


(うーん、中々癖のある兄弟ですこと。この美しき私にも全く興味を示さないなんて……)




「おお、マジョリーヌ!! 今日もなんて立派な巨乳!! 僕と一緒に巨乳デートでもしないかい??」


(……こいつ以外は)


 そんなふたりの兄とは対照的に、三男リュードだけはマジョリーヌに対して鬱陶しいほど積極的であった。しかも口を開けば『巨乳、巨乳』とマジ気持ち悪い。王子でなければセクハラで処刑レベルだ。



「サー様!! また訳の分からぬことを言っておるのか!!」

「リュ、リュード様!? お客様に対してそのような発言、第三王子として……」


(そしてこの気の強いツインテールの子供と、剣術指南とか言う女。どうしていつもダメ王子の後をついているの?)


 リーゼロッテとサーラ。城内で常にリュードの様子を見張っている。リーゼロッテがマジョリーヌを指さして言う。



「サー様。またこの乳だけがデカい女にちょっかいを出しておったのか!!」


「い、いや、違う!! 俺はただ今日の天気が良いなと……」


 外は朝から雨。秒でバレる嘘をつき、リーゼロッテが怒りでそのツインテールが逆立ちし始める。



「サー様……、わらわに嘘は良くないぞよ……」


 後退しながら顔を真っ青にするリュードが、震えた声で答える。


「わ、悪かった。リーゼ……、謝るから、許して……」


 そう言いながら皆に背を向け全力で逃げるリュード。


「あ、逃げた!!」

「逃げましたわ!!」


 それを追うリーゼロッテとサーラ。そんな茶番を見せられたマジョリーヌがため息をつきながら思う。


(立派な兄達にすべていいところを持って行かれた哀れな三男。彼だけには決してならないよう、私も全力を出さなきゃ……)


 マジョリーヌがつかつかと王城の廊下を歩き出す。早めにあの『秘密兵器』を投入すべきだと考え始めた。





 そしてマジョリーヌの王城滞在最終日。

 目立った成果を上げられぬまま、国王を交えた食事会が再び開かれた。食事会に臨むマジョリーヌが気合を入れる。


(今日、ベルベット様を落とさなければフランソワ家は……)


 バルカン国王から受けた国命。是が非でも長兄ベルベットを婿候補として連れて帰りたい。だが現実は上手くいかない。毎日彼は時間があれば剣の鍛錬をし、女気など微塵もない。

 次男ランフォードに至っては玉に魔法訓練で見るぐらいで、他はなぜか部屋に籠りっきりである。



「やあ、マジョリーヌ。今日もとっても美しいよ」


「あ、ありがとうございます……」


 対照的に呼んでもいないのに近付いてくる三男リュード。弱い男では意味がない今回の密命。頭を抱えため息をつくマジョリーヌに、久しぶりに会う国王が上機嫌で言った。



「元気にしておったか、マジョリーヌ嬢?」


 それに短いキャバドレスのスカートの両端を持ち、頭を下げてマジョリーヌが答える。


「ごきげんよう、お義父様。お陰様で私はとても素敵な時間を過ごせましたわ」


 国王が頷いてそれに答える。


「うむ、良き良き。マジョリーヌ嬢のお眼鏡にかなった息子はおったかな? まあ、では最後の食事と行こうか」


「はい!」


 マジョリーヌがそれに笑顔で答える。ベルベットとランフォードは表情ひとつ変えずにそれを見つめ、リュードはえちえちドレスを着たマジョリーヌを舐めるように見つめる。



「乾杯っ!!」


 国王の音頭で食事会が始まった。マジョリーヌは得意のおもてなしを駆使し、場を和ませていく。だが憮然と食事をするベルベットに、ランフォードは黙ったままひたすらワインだけを口にする。彼女が決意する。


「お義父様、ここで私に一舞いさせて頂けませんでしょうか?」


 それは舞踏のこと。上級令嬢の間では舞を嗜むことはひとつのステータス。マジョリーヌももちろん舞には自信があった。国王が手を叩いて言う。


「うむうむ。良いぞ、マジョリーヌ嬢、是非見たいぞ!!」


 アルコールも回り、すっかり上機嫌の国王。無関心のベルベットにランフォード。リュードも鼻の下を伸ばしてマジョリーヌを見ていたが、彼女が取り出したティアラを見て表情が変わる。



(あれ? あれはアーティファクト……)


 マジョリーヌが椅子に置いた鞄から取り出した小さなティアラ。それは間違いなく何かのアーティファクトであった。リュードが考える。


(何だ? 何のアーティファクトだ?? まさか攻撃はないだろうが、念のために……)


 リュードは席を立ち、ワインボトルを手に取り国王に近付く。



「さ、どうぞ。お飲みください」


 息子からの酌を受け国王も笑顔でそれに応える。そしてティアラを髪につけたマジョリーヌの舞が始まった。



「なんと、可憐な……」


 手、足の先までぴんと伸ばされ一切の無駄がない動き。それなのに可憐であり優雅であり、見る者の心に深く響く舞。国王は持っていたグラスをテーブルに置き、口を開けてそれを見つめる。リュードが理解する。



(ああ、あれは『魅惑のアーティファクト』か……)


 文字通り他者を魅了するアーティファクト。本人にその意識があるかどうか知らないが、あれを付けて舞うことでより一層効果を高める。


(ただ強者には無効だな。多分彼女はそれを知らずに使っている)


 実力差が大きすぎると効果が薄れる。ベルベットとランフォード。マジョリーヌの『魅了』にかかることはない。



「素晴らしい!! ほんに素晴らしかったぞ!!!」


 立ち上がり両手を叩き興奮する国王。


(まあ、国王には効果抜群だろうな……)


 非戦闘員であり病気の国王にとっては、もはや無条件で魅了できる。舞を終えたマジョリーヌが笑顔で頭を下げ答える。


「ありがとうございました」


 ひとり大きな拍手を続ける国王。席に戻ったリュードを含め、息子達に尋ねる。



「それで、お前達はどうなんだ? マジョリーヌ嬢は? ごほごほっ」


 少しの間。ベルベットが腕を組んで答える。


「俺は興味ねえ。お前ら好きにしろ」


 強き者にしか興味を示さないベルベット。なよなよと踊る女などどうでもいい。ランフォードもワイングラスを手につぶやく。


「くだらぬ……」


 笑顔のマジョリーヌ。だが内心何かが音を立てて崩れて行く。



(私の舞が通じない!? どうして……)


 これまでバルカン国内でも貴族男性にしか舞を見せて来なかったマジョリーヌ。武人である兄弟に通用しない理由が分からない。ランフォードが立ち上がり、リュードを指さして言う。



「お前で十分だ、リュード!! 私とベルベット兄さんは国の攻守の為に必要な人材。お前が行け!!!」


 相変わらず滅茶苦茶だなと苦笑するリュード。ベルベットは興味がないので腕を組み黙る。やや困った表情の国王がマジョリーヌに尋ねる。



「譲よ。貴国の事情もあろう。一旦ここはリュードを連れて国に戻ってみてはくれぬか?」


 あまりの衝撃にマジョリーヌが黙り込む。

 願わくば最強の武将ベルベット。それが叶わなくとも次男ランフォード。マジョリーヌにはどちらかを落とす自信はあった。できると思っていた。だがそのすべてが崩れ落ちて行く。



「あ、ありがとうございます。お義父様……」


 もうどうでも良かった。手ぶらで帰る訳にはいかない。三男だが居ないよりは幾分マシ。そんな彼女の気持ちなど理解できないリュードがさらっと言う。


「あ、俺も結婚とかは嫌だから(他の巨乳美女口説けなくなるし)」



(ふざけんなああああ!! このクソ引きニートがぁあああ!!!!!)


 笑顔のマジョリーヌ。だがその内心では怒りの業火が激しく燃え上がっていた。

 だがこうして形ばかりの婿候補としてリュードがバルカン王国へと向かうこととなった。無論、リーゼロッテとサーラの怒りも頂点に達した。

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