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最強のアーティファクト使い、ヘタレ王子に転生す。  作者: サイトウ純蒼
第三章「ヘタレ王子の巻き返し」
40/74

40.長兄帰還。

「もう一度説明してくれ。どうしてお前が『嘆きの雷帝』と仲が良いのじゃ? ごほごほっ」


 父親であるサイラス国王に呼び出されたリュード。理由は幾つもあるのだが、その最も大きなものがエルフ族の元族長リーゼロッテとの仲、そしてその処遇についてだった。リュードが答える。


「いや、だから少し戦っていたら、その、何と言うか意気投合しちゃって……」


 国王の元にはリュードがリーゼロッテを圧倒したとの報告が上がっている。だがそんないい加減な報告を鵜吞みにする国王ではない。


「リュード。何か隠してはおらぬか?」


「いや、別に……」


 しらを切るリュード。国王が尋ねる。



「そうか。それで彼女を王城に住まわせようと思うのだが、お前はどう思う?」


 サイラス王城にやって来て『ここに住む!』と言い張るリーゼロッテ。国王としては彼女のような強者が味方になってくれれば心強い。リュードが答える。


「いいんじゃないすか」


 リュードとしても群雄割拠のこの時代。平和な世を作るためにはやはり戦力は必要だ。国王が言う。


「分かった。では彼女の処遇はお前に一任する。意気投合……、いや、あの懐き方はそのレベルじゃないような気もするが……、ごほごほっ」


 病気が悪化する国王。この乱世に病弱な体、その負担は計り知れない。そこへひとりの兵士がやって来て国王に報告する。



「報告します。ベルベット様がお戻りになられました!!」


 長兄ベルベット。セフィア攻略の際にリーゼロッテの迎撃を受け重傷を負っていたリュードの兄。クレスの計らいでセフィア王国での治療を終えようやく帰還が叶ったようだ。国王が言う。


「そうか! それで今どこにおる?」



「ここですよ、国王!!」


 その兵士の後方から真っ赤な長髪を靡かせた巨躯の男が現れる。



(これがベルベットか)


 サックスとしては初めて会う長兄。肩まで伸びた真っ赤な髪に野性的な顔立ち、鋭い眼光は野獣のよう。リーゼロッテに敗れたとは言え『真朱の破壊者』と呼ばれるその威圧感は健在だ。国王がよろよろと玉座から立ち声を掛ける。


「無事じゃったか。それは何より……」


「ご心配をお掛けした。相手が悪かったとは言えこのベルベット、あのような不覚はもう取りませぬ!」


 ベルベットなりの戒めであった。サイラス最強を誇る彼の矜持。だが目の前の茶髪の男に気付き尋ねる。



「お前、まさかリュードなのか?」


 瞬時に気付いたその変貌。姿形は三男リュードだが、何かが違う。


「そうだぜ、()()


(長兄だと? 俺のことはベル兄様って呼んでいたはずじゃ……)


 豪快ながらも頭も切れるベルベット。すぐにその違和感を口にする。



「お前、誰だ? リュードじゃねえだろ」


 一瞬の静寂。リュードが答える。


「リュードだよ。正真正銘の」


 リュードであることは間違いない。そう言い切る三男を前にベルベットが確信する。



(ランフォードを破ったと聞いたんだが、どうやらそれは全くの出鱈目じゃねえな。何があった? 全く別人じゃねえか)


 ベルベットが背中に付けた大剣を抜き、リュードに向けて言う。



「俺と勝負しな、リュード」


「はあ!?」


 次兄ランフォードに続き長兄までも。一体どれだけ争い好きな兄弟なのかとため息が出る。そんなリュードの目に長兄が持つ大剣が映る。



(おい、待て。あの剣ってスリースターのアーティファクトじゃねえか! すげえ!! この時代にまだあんなものが残っていたんだ!!)


 ベルベットが持つ大剣。『破壊の大剣』と呼ばれる貴重なスリースターのアーティファクト。高レベルのアーティファクターが使えばその名の通り驚異的な破壊力を発揮するが、純粋に剣としての能力も高いため力ある者に好まれる逸品。ベルベットが言う。


「どうした? なぜ黙ってる? 答えろよ」


(長兄も、アーティファクターか。ただ能力値はそれほど高くない。それでもあの剛力と相まって強力な攻撃を可能にしているんだな)


 初見で兄ベルベットの強さを見抜くリュード。それは数多あまたの強敵と戦ってきたサックスの経験によるものである。無言のリュードに苛立つベルベットが言う。



「何考えてやがる、気味の悪い奴め。答えぬならいい。ここでその首落としてやる!!」


 一気に強まるベルベットの覇気。怪我が完治していないとはいえそれはかなりのもの。驚いた国王が大きな声を出す。


「や、止めぬか。ベルベットっ、ごほごほごほっ!!」


 倒れそうになる国王を近くに立つ兵士が支える。どうしようか悩むリュードの耳に、その聞き慣れた声が響いた。



「おお、サー様。ここにおられたか」


 金色のツインテール。ピンと伸びた長い耳が特徴のエルフのリーゼロッテ。今日は気のせいか肌の露出の多い服を着ている。場の空気を全く読まないリーゼロッテがつかつかとリュードの元へやって来て言う。


「サー様、どうじゃ? わらわの新しい服。ちょっといつもとは雰囲気を変えてみたのじゃ」


 そう言ってくるりと回るリーゼロッテ。短めのスカートに両肩を大きく出した白のワンピース型の服。肌を出すのを嫌うエルフにしては珍しい。明らかに先日のサーラを意識しているようだ。リュードが言う。


「い、いいんじゃないか。まあ……」


 残念だが幼児体型のリーゼロッテにはあまり関心がないリュード。そっけない態度を取られたリーゼロッテがむっとした表情で言う。


「何じゃその冷たい態度は! サー様はこういう服が好きなのじゃないのか!?」


「い、いや。似合ってるよ。可愛いと思うよ」


 当たり障りのない言葉でごまかすリュード。ようやくリーゼロッテの表情が緩むと、その様子を見ていたベルベットが驚きの声で言う。



「あ、あんた、『嘆きの雷帝』リーゼロッテじゃねえか!?」


 自分を完膚なまでに叩きのめした相手。是非また再戦したいと心の底で願った人物。そのエルフ族族長がなぜか目の前にいて三男と仲良く話している。リーゼロッテが答える。


「ああ、お前。そうか、お前もサイラスの王子だったな」


 すっかりベルベットのことなど忘れていたリーゼロッテ。興味なさそうな顔で赤髪の長兄を見る。リーゼロッテが尋ねる。


「時にお前、なぜこんな場所で抜刀しておるのじゃ? 念の為聞くぞ。()に対してその剣を向けておるのじゃ?」


 リーゼロッテから発せられる怒りの籠った覇気。ベルベットもそれに不敵な笑みを浮かべ尋ねる。



「なあ、教えてくれよ。そいつ、誰なんだよ?」


 ベルベットが見つめる先にいるのは三男リュード。出来の悪い弟でサイラスの名を汚す愚者。何があったか知らないがその愚弟と族長が仲良くしている。リーゼロッテが答える。


「お前には関係のない話。消えよ、ウドの大木が」


 ベルベットが笑いながら答える。


「ああ、いいぜ。ならば俺は直接そいつに聞く。リュード、死にたくなければ構えよ!!」


 大剣を持つ手に力を籠めるベルベット。リーゼロッテが笑みを浮かべて言う。


「アホか、お前。わらわにも勝てぬ雑魚が、どうしてサー様に勝てようぞ?」


(サー様?)


 リュードのことを『サー様』と呼ぶエルフの族長。色々なことが起こり頭の整理がつかないベルベットがリュードに言う。


「何だかよく分からねえが俺と勝負しろ、リュード。それで白黒はっきりさせる!!」


 その挑発に全身から怒りの魔力を発するリーゼロッテ。慌ててリュードがベルベットを睨むリーゼロッテの手を取り、頭を下げながら言う。



「いや~、すみませんね。長兄。俺らはこれでお暇しますんで。あ、国王もじゃあね!」


「ちょ、ちょっと、サー様!?」


 手を引っ張られ強引に退出させられるリーゼロッテ。それを見送ったベルベットが大剣を背に戻し思う。



(何を隠してやがる、リュード。だが必ず突き止めてやるぞ)


 変貌した三男リュード。エルフの族長を連れて歩く姿は、これまでの引きニートとは一線を画すものであった。




 そんな王都サイラスの一角、外交官や貴族の家が立ち並ぶ高級住宅地。そのひとつ、バルカン王国の貴族であるフランソワ邸にサイラス王城からの使者が訪れた。


「お伝えします。国王との面会許可が下りました。どうぞ!!」


 屋敷でこの時を待っていたガイラス王国の美女マジョリーヌ・フランソワが、アップに上げた艶かしい髪に手をやりながら答える。


「ありがと。じゃあこれから行こうかしら」


 使者の男もその色っぽく魅力的な仕草に魅了される。マジョリーヌと共に現れた初老の従者が言う。


「お嬢様。では参りましょうか」


「ええ、そうね。サイラス三兄弟。私の()になるお方、一体どんな強い男なのかしら」


 マジョリーヌは使者に軽くウィインクをしてから、初老の従者と共に用意された馬車に乗り込んだ。

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