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最強のアーティファクト使い、ヘタレ王子に転生す。  作者: サイトウ純蒼
第三章「ヘタレ王子の巻き返し」
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39.楽しい食事会??

(確かに魔法はアーティファクトでかき消していた。でも最後のは……)


 サイラス王子の兄弟対決。圧倒的な魔力で氷結魔法を放つ次男ランフォードに対し、三男リュードはその魔法を得意のアーティファクトで消去。だが最後の魔法はかき消されなかったし、次兄を沈めた一太刀は間違いなくリュード本人のもの。

 闘技場脇でその決闘をじっと見ていたサーラは鳥肌が立つような光景に胸躍らせた。



「わ、私が、そんな馬鹿なことが……」


 舞台でうつ伏せに倒れるランフォードが小声でつぶやく。木刀による攻撃であるため痛みはあるものの動けないほどではない。よろよろと立ち上がるランフォードにリュードが言う。


「そんじゃ俺はこれで」


 そう軽く言い残し舞台を降りる第三王子。パラパラとした拍手が起こる中、サーラと共に姿を消す。



「違う、違う違う違うっ!! 何か不正があったんだ!! 私の魔法がすべて消えた。こんなのフェアじゃない!!!」


 両膝をつき、頭を抱えてそう嘆くランフォード。だが一部から同情の声が上がるも、見事な一太刀を受け舞台に沈められた事実は変わらない。『ランフォード敗北』、その意外な報はこの後暫くサイラス城下での話題となる。






「見事な決闘でした。リュード様」


 リュードと共に歩くサーラが興奮を押さえつつ言う。


「ま、まあね。あれぐらいなんてことはないよ……」


 そう答えるも魔力解除マジックキャンサーが予想以上に早く壊れた時は真剣に焦った。ただランフォードが怒りで我を失った上、氷塊が天上で派手に破壊され色々有耶無耶になったのは大きかった。


(とは言え我ながら納得の一太刀だったな)


 毎夜の鍛錬の成果も着実に身について来ている。勇者サックスの領域になるにはまだほど遠いが地道に進む以外ない。リュードが言う。



「そうそう。サーラ、今日の夜空いてる?」


「え? ええ、特に用事はありませんが……」


 一瞬サーラの背中に悪寒のようなものが走る。リュードが言う。


「ほら、約束の食事会。今夜でいいかな?」


 思い出したようにサーラが頷いて答える。


「そ、そうでしたわね。お約束ですから。はい、大丈夫です……」


 そう言いながらもなぜか一抹の不安を感じるサーラ。


「じゃあ後で部屋にプレゼントしたい服を送っておくからそれ着て待っててね。迎えに行くよ」


「あ、でも、そんなリュード様にそんなことまで……」


 相手はサイラス王国の第三王子。やはり気軽にプレゼントなど貰えない。リュードがサーラの手を握りしめて言う。



「君に貰って欲しいんだ。楽しみにしてるよ!」


 そう言ってウィンクをして部屋に戻って行くリュード。


(本当にあれ、リュード様なのかしら……)


 まるで別人のようになってしまったリュードに、やはりサーラは戸惑いを隠せなかった。






「よし、これでいいだろう」


 夕刻、ひとり部屋で身だしなみを整えるリュードが、鏡に映った自身の姿を見て頷く。黒のタキシードに蝶ネクタイ。髪はオールバックで上品な香りのする香水を軽く振りまく。


「さすが一国の王子。服はそれなりに持っているんだな」


 衣装棚を開くと想像以上の服が掛けられていた。引きニートだったのでほとんど着た形跡はないがすべて一流品。リュードは迷いもなく女性をエスコートするに相応しい服を手にする。


「さて。では巨乳美女との会食に向かおうかな」


 意気揚々と部屋を出てサーラの元へと向かうリュード。



(えっ? あれがリュード様??)


 まだ今朝の決闘の余韻が覚めぬ中、その変貌した姿はすれ違う貴族達の視線を集めた。何より自信に溢れていた。引きニートだったおどおどしたリュードの面影はもうない。


(おっ、あれがサーラの部屋だな)


 そして目的の部屋に近付いたリュードに、慌ただしく兵士が声を掛ける。



「リュ、リュード様!! こちらにいらしたのですか!!」


「ん?」


 振り返るリュード。兵士が敬礼しながら言う。


「王子にお会いなりたいと、エルフ族の……」



「おお、サー様。ここにおったか!!」


(げっ……)


 それはエルフの里に自身の後処理に出かけた族長リーゼロッテ。可憐な金色のツインテールの左右に揺らしながらリュードの元へ駆けて来る。


「リ、リーゼ……」


 思わず声が裏返るリュード。リーゼロッテが目をパチパチさせながら尋ねる。


「サー様、なんじゃ、その格好は?」


「あ、いや、これはだな……」


 そう話すリュードに兵士が報告する。



「エルフ族の族長様がどうしてもリュード様にお会いしたいとのことで……」


 多分制止にもかかわらず強引に入って来たのだろうとリュードは思った。リュードが言う。


「リーゼ、族長のお前が勝手に入って来たらみんなびっくりするだろう」


 あの魔法に長けたエルフ族の族長。その最高責任者がこうやって入って来てはサイラスとしても放っておく訳にはいかない。リーゼロッテが答える。


「何を言っておる、サー様。リーゼはもう族長辞めたんじゃ。ただのエルフじゃ」


「あっ……」


 そう言えば族長を辞めるために里に戻ったのだった。


「いや、だけどな。お前は『嘆きの雷帝』とか言われていたエルフだし……」


「もう嘆いてはおらぬ。サー様にまた会えたのだから」


 そう言ってリュードに擦り寄るリーゼロッテ。



「何を騒いでいるのかしら?」


 そこへ部屋のドアが開かれ、中にいたサーラが顔を出す。


「あ、リュード様!?」


「サ、サーラ……」


 リュードは見惚れた。サーラが着ていたのは胸元が大きく開いた上品なキャバドレス。艶やかな亜麻色の髪に白い肌。強調された胸元に、短いスカートから伸びる色っぽい足。恥ずかしさで真っ赤になるサーラにリュードが興奮気味に言う。



「いい、いい!! 素晴らしいよ、サーラ!!」


 サーラが俯き、両手で胸を押さえながら答える。


「は、恥ずかしいですぅ。そんなに見ないでください……」


 恥じらい、戸惑う姿も最高。眼福、至高の一瞬。リュードが送ったのはサーラの為に特別に選んだ『えちえちドレス』であった。



「何じゃこの服は。だらしない」


 それを不満そうに見つめるリーゼ。年齢は重ねているが幼児体型の彼女には到底着こなせる服ではない。サーラが言う。


「あ、族長さん。いらしていたのですね」


 面白くないリーゼがふんと顔を背ける。サーラがリュードに言う。



「リュ、リュード様。あの、これはあまりにも私には、は、恥ずかしすぎるんですが……」


 リュードが首を振って答える。


「そんなことはないよ! 素晴らしい!! 俺がサーラの為に選んだ服だ。すごく似合ってるよ!!」


 かああああ……


 色々な羞恥心がサーラを襲い、全身真っ赤に染まる。リーゼが言う。



「ふん。それでふたりともそんな格好をしてどこかへ出かけるのか?」


「え? あ、はい。リュード様とお食事に……」


 リーゼがやや不満そうに言う。


「そうなのか。じゃあ、わらわも一緒に行くぞよ」


(え?)


「あ、はい。是非一緒に!!」


 ふたりきりの甘い食事会を計画していたリュード。それがぼろぼろと崩れ始める。サーラと歩き出したリーゼロッテが振り向いて言う。


「サー様、早く行くぞよ」


「はあ……」


 リュードはため息をつきながらふたりの後を追う。




「リュード、遅かったニャ。先に食べていたぞ」


「えっ?」


 予約しておいた高級レストラン。辿り着くと何故かそこにレーニャが座って食事をしている。驚くリュードが尋ねる。


「な、何でお前がいるんだ? ええ!? セフィアの長兄は!!??」


 救助を忘れていた長兄の為にセフィアに向かわせたはずのレーニャ。


「ん? ああ、もう終わったニャ。むしゃむしゃ……」


 それを余裕の顔で答えるレーニャ。リュードが見込んだ諜報部員。情報は筒抜けのようだった。サーラが笑顔になって言う。



「じゃあ、皆さんで一緒に食べましょうか。たくさんの方が楽しいですしね!」


「うむ」


「そうニャ~、今日はリュードの奢りニャ。好きなだけ食べるニャ~」




(どうしてこうなった……)


 サーラとふたりきりで甘い食事会を計画していたリュード。気が付けばいつものメンバーで、和気あいあいと高級料理を食べることとなってしまった。それでも皆が楽しそうに食べる姿を見て少しだけ報われた気持ちにはなれたのは幸いであった。

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