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最強のアーティファクト使い、ヘタレ王子に転生す。  作者: サイトウ純蒼
第三章「ヘタレ王子の巻き返し」
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38.兄弟対決

「うわ〜、結構人が集まってるな!」


 次兄ランフォードとの決闘の朝、サイラス城中庭にある小さな闘技場にはたくさんの観客が集まって来ていた。無論、サイラスの二大武将のひとり『氷結の魔導士』ランフォードの戦いを見るためである。


「リュード様、どうかお気をつけて……」


 闘技場の入場口へ向かうリュードにサーラが心配そうな表情で言う。リュードが右親指を立て答える。


「心配すんなって。大丈夫」


 いつも通りの笑み。貫禄すら感じる余裕。思わずサーラが尋ねる。


「あ、あの、アーティファクトはお持ちで……」


 手ぶらのリュード。決闘の規則で武器は闘技場に置かれた物の中から自分で選ぶ。公平を期すために自身の武器の持ち込みはできない。リュードが答える。


「えーと、まあ、これかな」


 そう言って耳につけられた小さな金属製のイヤリングを指差す。


「イヤリング?」


 そう口にするサーラにウィンクしてリュードが入り口へとむかう。




「きゃああ、来ましたわ!!!」

「ランフォード様ーーーーーっ!!」


 リュードの耳に闘技場からの大きな歓声が聞こえる。反対側にある入り口から先にランフォードが入場したようだ。性格にやや難はあるものの一国の王子。容姿端麗でベルベットに並ぶ将官とあればファンが多いのも当然のこと。


(決闘なんて随分久しぶりだな)


 同じくリュードが闘技場の入り口に姿を現す。ランフォードへの歓声のせいで目立たぬ登場となったが、すぐに哀れむ声が溢れ出す。



「あ〜あ、来ちゃったよ。第三王子」

「本当に戦う気なのかしら?」


 サーラを除けば、誰ひとり第三王子リュードの勝利など想像していない。観戦にやって来た父親である国王ですら眉間に皺を寄せ首を振る。ランフォードが黄色い歓声に手を挙げて応えながらリュードに言う。



「よく逃げずにやって来たな。それだけは褒めてやろう」


「まあね……」


 逃げたらサーラとの食事会は無くなる。巨乳美女との約束は何がなんでも遂行する。そこへ判定員がやって来てふたりに言う。



「これより決闘を始めますが、おふたりにはあちらの中から好きな武器をひとつ選んでご使用ください。さあ、どうぞ」


 判定員が指差す場所には木製の武器が幾つも置かれている。あくまで公平。相手に大怪我をさせない為の配慮だ。



「私はこれでいい」


 先にランフォードが木製の魔法杖を手にする。魔法使いなら当然の選択だ。


「じゃあ、俺はこれでいいか」


 リュードが選んだのは木製の剣。だが魔法使いが自由に魔法を使えるのに対し、剣士は真剣では無い木刀。実はこの決闘、全く公平ではないのである。舞台に戻ったランフォードが言う。



「辞退するなら今のうちだ。私と戦おうなど愚の骨頂。何にムキになっているのか知らないが、頭を下げ謝罪するなら今回は特別に許してやろう」


 リュードは日記の中に『前を歩いただけで殴られた』と言う言葉を思い出し、首を振りながら答える。


「辞退なんてするわけねえだろう、()()()()()()。俺には大事な目的があるからな!」


 それを聞いたランフォードの額に青筋が立つ。魔法杖をリュードに向け鬼の形相で言う。



「この私を、呼び捨てだと!!! 何を勘違いしている!! その罪、死罪に値するぞっ!!!」


 激怒したランフォードがいきなり魔法の詠唱に入る。驚いた判定員がすぐに手を挙げ決闘の開始を宣言する。


「は、始めっ!!」


 決闘の開始。だが既にランフォードの周囲には独特の青き氷の魔力が集結し始めている。



「凍えし力、氷晶の結晶より滴る氷の霊気、凍てつく氷、氷霧の魂よ!! 我が名の元にこの手に宿れ……」


 ランフォードの周囲に集まった青き魔力が固まり、そして鋭利な氷刃と形を変えていく。



「無能な愚弟よ、泣いて私に詫びよ!! 氷霧の氷刃(フローズンブラント)!!!」


 初っ端から放たれた氷結の中級魔法。複数の氷の刃がリュードを襲う。舞台は特別な魔法障壁が施されているので観客は問題ないが、即死級の魔法が対戦相手の第三王子に放たれる。サーラが叫ぶ。


「リュード様っ!!!」


 大丈夫だ。大丈夫だと思いたい。思わず身を乗り出しリュードを見つめるサーラ。

 リュードはその声をしっかり聞き、そして耳につけたイヤリングを指で軽く鳴らす。


 チリン……


(次兄さん、マジだな。本当にリュードだったら死ぬぞ。これ)



 ボフ、ボフボフボフ、シュウゥ……


「なに!?」


 リュードに向かっていた氷の刃。それが突如空中で小さな音を立てて煙のように消えてしまった。

 リュードが耳につけたイヤリング型のアーティファクト。『魔法解除マジックキャンサー』と呼ばれる周囲の魔法をかき消す品で、魔法使いにとっては天敵のような品。


(だけど、発動するにはずっと鳴らしてなきゃゃならないんだよな……)


 品によって発動条件が異なるが、このイヤリング型は耳につけながらずっと揺らすなどして音を鳴らしておかなければならない。



(な、何が起こった!? まさかこの私が詠唱ミス!!??)


 事態が理解できないランフォードが突然消えた氷結魔法に驚き、そして言う。


「ならばこれなら問題ない!!」


 そう言って今度は魔法杖をリュードに向けながら、脳内詠唱を行う。


(やべ!! あれは無詠唱!!)


 すぐに気付いたリュードが咄嗟に頭を左右に振りイヤリングを鳴らし始める。それを見たランフォードの怒りが頂点に達する。



(こ、この私を愚弄するのか!! 許さぬっ!!!)


「もう貴様など知らぬ!!! 食らえ!!!」


 ランフォードの周囲に現れる小さな氷結。脳内詠唱は発動が楽な分、魔法のランクは下がる。だが類稀なる魔法の才を持つランフォードにとってそれは欠点を十分に補えるほどの武器となっていた。



 シュンシュンシュン!!!


 小さな氷結が目に元ならぬ速さでリュードへ放たれる。


 チリンチリンチリン……


 小さな金属同士が当たる音。リュードが素早く首を振りイヤリングを鳴らす。


 ボフボフ、シュウ、シュウゥ……



(ば、馬鹿な!? 一体何故だ!! 何故私の魔法が消える!!!)


 初めての経験に立ち尽くし、唖然とするランフォード。周りの観客からも戸惑う声が上がり始める。


「魔法が消えたよな、今……」

「ランフォード様、どうなされたのかしら?」


(魔法使いに対してこれはちょっと反則だけど、まあサーラとの食事会がかかっているから仕方ないな)


 パリン……


 そう思ったリュードの耳元で、何かが割れる音が響く。



(え!? 割れた?? ええっ!? イヤリング、もう割れちゃったの!!)


 使用回数わずか二回。ワンスターであったが、片方しかなかった為本来の耐久力を失っていたようだ。


(やばっ!! あと俺の武器、この木刀しかないじゃん!!)


 魔法使い相手にワンスターの『魔法解除マジックキャンセラー』を用意したので楽観視していたリュード。こんなにすぐに割れるとは思っていなかった。



「何が起こっているのか知らないが、リュード。全力で貴様を討つ!!」


 そして目の前には怒りで顔を紅潮させる次兄ランフォード。無能な愚弟相手に、大衆の前でこの恥ずかしき醜態。怒りでどんどん強まるランフォードの魔力。逆立つ銀髪。杖を天にかざして叫ぶ。


「凍てつく蒼穹の奥底に眠る氷晶の力、永遠の氷の煌めきを放ち、氷結の檻に閉ざされし深淵の霊魂を解放せよ……」


(これって、氷の上級魔法じゃん!?)


 怒りで我を失ったランフォードが後先考えずに氷の上級魔法を詠唱。天上に現れる巨大な氷塊。舞台を、闘技場ごと潰すような巨大な氷結。


「お、おい、あれを見ろよ!!」

「何あれ!?」

「きゃあああ!!!」


 上空の氷塊、その魔法の強大さに気付いた観客達が慌て叫び始める。



「ランフォード、止めぬか!! ごほっ、ごほっ……」


 父親である国王も慌てて叫ぶが、もはやそのような声は当人には届かない。


「死んで詫びろよ、クズが……、氷塊爆発アイスバースゥ……」



 一瞬ランフォード、いや皆の視界から()()()()の姿が消えた。



 ボフ!!!


「ぎゃっ!!」


 そして皆はランフォードの腹に打ち込まれた木刀の音、そして次兄の情け無い声に続きリュードの姿を捉える。



 ドオオオオオン!!!


 不完全詠唱。舞台の上にあった巨大な氷の塊は、鈍い音を立てて粉々に割れ小さな氷片となって皆の頭上へと降り注いで行く。



「ば、馬鹿な……」


 リュードの一撃を受けたランフォードが、崩れるように舞台に倒れる。



「ふう……」


 最近の鍛錬の成果。ランフォードは激怒で我を失い、また皆の注目も頭上の凶悪魔法に向けられていたのも好都合だった。

 リュードが木刀を納め、大きく息を吐く。それに気付いた判定員がリュードに手をやり大声で叫ぶ。



「勝者、リュード・サイラス!!!」


 唖然とする観客達。ただ太陽の光を受け、細かな氷塊がキラキラと輝く中で勝者の号を受けるその姿は、まさに勇者と呼ぶに相応しい神々しいものであった。

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