23.セフィア城、落としちゃう??
「あ、あれ……、俺達何をして……」
「頭がぼうっとする……」
新たに獣人族の男達を仲間に引き入れたリュード。だがそれより少し遅れて、ゼルキドの兵士達がアーティファクト『爆眠』から目覚め始めた。
そして皆が集合している獣人族とリュードを見て叫ぶ。
「て、敵がいるぞ!!」
「ゼルキド様っ!!」
「武器だ!! すぐに武器を……、あれ!?」
起き上がった兵士達。大将ゼルキドが地面に倒れる姿を見て敗北したのだと気付き、すぐに反撃に移る。だが手元に剣を始めとした武器が一切ないことに皆が気付いた。
「武器はここニャ~」
少し離れた木の下に集められた大量の武器。それは先ほど『爆眠』で眠ってしまった兵士達からリュードの指示でレーニャが集めたもの。獣人族の男達がその剣を手に取り兵士達を睨みつける。リュードが言う。
「逆らうな。逆らわなければ危害は加えない!!」
「く、くそ……」
悔しがる兵士達。リュードが獣人族に言う。
「兵士達を縛り上げろ!! そして怪我をしている者、戦えない者はここに残ってこいつらをサイラスまで送り届けてくれ!!」
「ガウウ、了解っ!!」
手際よく森にある強力なツルで兵士達を縛り上げる獣人族。サイラスへの送還も決まり、リュード直筆の書状とサーラ兵からも数名同行することとなった。
(すごい……、もはや別人だわ……)
ようやく回復してきたサーラがリュードの見事な指揮を見て驚く。あそこに立つのは城の部屋に引き篭もっていた第三王子ではない。何が起こったのか知らないが、まさに別人。そんな彼女の元にリュードが来て尋ねる。
「大丈夫か、サーラ?」
「あ、はい。お陰様で……、もう大丈夫です」
何故かどきどきが止まらないサーラ。真っすぐリュードの顔を見て話せない。リュードが言う。
「まあそんな訳でこれからセフィア城に行くことになった。一緒に来てくれるか?」
突如飛躍した話に驚くサーラ。リュードが笑って続ける。
「ベルベット王子を助けて、ええっと、それからついでに……、落としちゃう? セフィア城」
「ぷっ、くすくす……」
想像もしていなかった展開。あまりの荒唐無稽さに思わずサーラが吹き出す。リュードが真面目な顔で言う。
「平和な世の為にはいずれはしなきゃならないこと。ちょうどいい機会だ。それに今俺達にはめっちゃ心強い仲間がいる」
そう言って後ろにずらりと並ぶ獣人族の男達を見つめる。兵士としては超優秀。ただ自信を失っていただけ。正しく導く有能な指導者がいなかっただけ。少し前のサーラなら絶対断っていた。だが今の彼を見てサーラも頷く。
「分かりました、リュード様。サーラもお供致しますわ」
「ありがと、サーラ。君が来てくれれば百人力だよ」
「そ、そんなことないです! それよりもリュード様、本当に変わられましたね」
リュードが少し考えてから答える。
「アーティファクトを使えるようになったんだ。そのお陰かな」
「そうでしたね。でも本当に嬉しいです」
何をやってもダメだった第三王子。何者かに襲撃され一部記憶をなくしているようだが、今は見違えるほど立派になった。レーニャが言う。
「じゃあ、みんなで行くニャ!!」
「はい!!」
サーラも笑顔で答える。だがリュードだけがレーニャに無表情で尋ねる。
「おい、レーニャ」
「なんだニャ??」
背筋に冷たいものが走ったレーニャ。後退りしながら答える。リュードが尋ねる。
「さっきさ、お前。俺を『騙した』って言ってなかったか?」
(ぎゃっ!?)
先程、熱くなって思わずつまらないことを口走ってしまった。レーニャが脂汗を流しながら答える。
「き、気のせいニャ……、リュードは疲れているニャ……」
そう言いながら逃げる気満々のレーニャ。
「い~や、俺はちゃんと聞いたぞ!! さあ吐け。一体何を騙し……、ぐがっ!?」
そこまで言ったリュードが急に前のめりに倒れる。サーラが青い顔をして言う。
「リュ、リュード様っ!? どうしましたか!!」
地面に倒れたリュードが小声で答える。
「わ、忘れてた。さっきのアーティファクト。めっちゃ強いんだけど、反動が後から来て……、ダメだ。俺、しばらく動けない……」
『ブースト』のアーティファクト。その驚異的な能力と引き換えに、後ほど使用者へ肉体的負担が一気に襲い掛かる。倒れたリュードにレーニャが近付き腰を下ろして言う。
「レーニャが背負ってやるニャ。だからさっきの話はもうしないこと。いいニャ?」
「……分かった。頼む」
強力な仲間と共に更に大きな目的に向かうこととなったリュード。古の勇者が転生した稀代のアーティファクターなのだが、やはり女の子には敵わないようであった。