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最強のアーティファクト使い、ヘタレ王子に転生す。  作者: サイトウ純蒼
第二章「ヘタレ王子、隣国を制する!」
22/74

22.新戦力、あざっす!!

 リュードが対ゼルキド戦に用いた指輪のアーティファクト。その効果は『ブースト』。一時的に使用者の能力を飛躍的に上昇させる貴重な一品。元々ワンスターの性能はあったが一部欠損しており効果はノースタークラス。しかも発動するまでの時間が読めないと言う使用者泣かせのアーティファクトだ。



 パリン……


 その『ブースト』の指輪が小さな音を立てて割れ落ちる。僅か数分ではあったが、古の勇者サックスに迫るほどの身体能力を得て一太刀で猛将を仕留めた。剣を突き付けたままリュードが言う。


「どうする、おっさん? 早く止血しねえと死ぬぜ?」


「……」


 仰向けに倒れたままのゼルキドがリュードを見上げる。


(何だったんだ、さっきのは? 今は間抜けなツラをしているが、先ほど一瞬だけ見せた全てを凌駕するような迫力は一体……)


 一瞬垣間見た『勇者サックス』の力。無論そんなことを知らないゼルキドは混乱と首の激痛に耐えつつ答える。



「降参だ。もう戦えねえ。煮るなり焼くなり好きにしろ」


 強者だから分かる力の差。完敗である。




「ガルルルルルゥ……」


「!!」


 そんなリュードの耳に周囲から獣のような鳴き声が響く。


「起きたか……」


 それは先ほど『爆眠』のアーティファクトで眠らせていた獣人族。おしゃぶりをなくしたことで身体能力の高い彼らから先に目を覚まし始めた。



「殺ス。何だか分からないが殺ス……」

「ガルルルルゥ……」


 混乱する獣人族。差別され奴隷のような扱いを受け、そして今は知らぬ間に自爆攻撃をさせられた。次々と起き上がる獣人族。その視線は中央に立つリュードに向けられる。



「やめるニャ、みんな!!」


 そこへレーニャが来て両手を広げ仁王立ちになる。獣人族の男がレーニャに歩み寄りながら言う。


「退け、小娘……、俺達は敵を殺らねえと、家族が、家族が皆死ぬんだ……」


「ど、どういうことニャ!?」


 意味が分からないレーニャ。地面に倒れたままのゼルキドが笑いながら言う。



「そのゴミらの家族は全部ゼルキド城で捕まえている。こいつらがおかしな真似すれば家族が死ぬって算段だ。がはははっ!!!」


「ひ、酷いニャ……」


 レーニャの目に涙が浮かぶ。それを聞いたリュードが皆の前に立ち、剣を掲げ大声で言う。



「我はサイラス王国第三王子リュード・サイラス!! 獣人族の皆の者、よく聞け。お前らの気品さ、勇敢さはこの俺がよく知るところ。だから問う。お前らには勇気があるか? 気概のある奴はこの俺に続け!! このまま共にセフィア城に乗り込み、皆の家族を取り返そうぞ!!!」


 静寂。立ち上がった獣人族が唖然とした表情でリュードを見つめる。そして声が上がり始める。



「信じられるか!! 人間がどうして俺達を助ける!!」


 これまで馬鹿にされ蔑まれてきた獣人族。ゴミのような扱いを受け今まさに人間に殺されかけた。その人間の言葉など簡単に信じられるはずがない。



「ほんとニャ!!!」


 そこへネコ耳獣人族の少女レーニャが前に出て叫ぶ。


「ほんとニャ!! このリュードだけは信じられるニャ!! ミャーを、レーニャを命懸けで助けてくれたニャ。嘘をつかれたこともない。ミャーは騙したけど騙されたことは一度もないニャ!! 本当ニャ!! みんな、信じるニャ!!」


 同胞の心の叫び。その言葉に嘘偽りは感じられない。



「だけど、だけどよぉ……」


 それでも獣人族達の間からはまだ迷いの言葉が渦巻く。当然である。敵国の王子を簡単に信用などできないし、それにどうやってセフィア王城へ乗り込むのか。悩む獣人族にリュードが言う。


「強制はしない。自分自身で考えろ。だが俺は行く。このような蛮行、絶対に許さねえ。皆が笑って暮らせる世界を作る。それが俺の目的。レーニャ、行くぞ!!」


「はいニャ!!」


 くるりと背を向け歩き出そうとするリュードにレーニャが駆け寄る。


(さすがに巨乳美女が口説けるような平和な世の中にしたいってのは言えないけどな……)


 歩き出したリュードにひとりの獣人族が駆け寄り言う。



「俺も行く。一緒に行く。家族を、妻を助けたい!!」


 振り返るリュード。目に涙を溜めた獣人族の男に頷き微笑みで返す。そしてこれが糸口となり一気に皆に伝播していく。



「俺もだ!! 俺も行く!!!」

「娘を、娘に会いたい!! 一緒に行くぞ!!」

「俺もだ!!」

「私も!!」


 一度広がった獣人族の心の叫び。数百はいる獣人族の男達が次々とリュードの元へと駆け寄って来る。そのひとりが尋ねる。



「あんた、いやサイラスの王子よ。本当に俺達獣人族に力を貸してくれるのか?」


 相手は人間。しかも一国の王子。それほど身分の高い人物がなぜ下等な獣人族の力になると言うのか。リュードが笑って答える。


「俺が力を貸すんじゃないよ。力を借りるのは俺の方。セフィア攻略にはお前らの力が必要なんだ」


「……分かった。だがあんた、変わった人間だな」


「そんなことはない。俺は至極真っ当だぞ」


 獣人族の間に初めて笑いが起こる。

 恩返し。勇者サックス時代に受けた彼らへの恩は計り知れない。助け、助け合う。そんな当たり前のことをするだけ。それに平和な世を作るためにもこんな胸糞悪い話は放置できない。

 獣人族のひとりが前に出て小さく頭を下げて言う。



「王子リュードよ。一旦俺達はお前を信じる。だから頼む。俺達の、みんなの大事な家族を救ってくれ」


 仲間の獣人族、皆が同じようにリュードに頭を下げる。リュードが皆に言う。



「その願い、承った。ではお前らに最初に仕事をお願いする」


 そう言いながらリュードはようやく起き始めたゼルキドの部下の兵士達に目をやった。

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