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最強のアーティファクト使い、ヘタレ王子に転生す。  作者: サイトウ純蒼
第二章「ヘタレ王子、隣国を制する!」
19/74

19.お眠り作戦だぜ

(戦とはこんなに緊張するものなのね……)


 丘を降り、敵将ベルキドが待機する森へ静かに接近したサーラ隊。初めての交戦を前にサーラの手のひらにじわりと汗が滲む。静かな森。敵の気配は感じられない。

 サーラが軽く手を上げ部隊を森へと誘導し始める。その時だった。



「ぎゃははははっ!! 馬鹿共め!!!」


「!!」


 そんなサーラ隊の行動を見透かしたかのように周囲からゼルキド兵が突如現れた。奇襲兵に対する奇襲。不意を突かれたサーラ隊が雪崩のように崩れ始める。サーラが叫ぶ。


「後退、後退っ!! みんな後退して!!!」


 サーラの悲痛の叫び。我を失った兵士達が我が先へと逃げ始める。勢いに乗り攻撃を開始するゼルキド兵。そこへその亜麻色の髪をした女騎士が立ちはだかり剣を向けて叫ぶ。


「私が相手です!! さあ、来なさい!!」


 美しき女騎士。そんなサーラに一瞬見惚れたゼルキド兵だが、すぐに切り替え突撃を始めた。



「討て、討てっ!! 敵将だ!!!」


 叫ぶゼルキド兵。そしてネコ耳の獣人族の男達が一斉にサーラ達へと襲い掛かる。


「サーラ様、俺達も一緒に!!」


 混乱していたサーラの兵達が体勢を立て直し、大将の援護に駆けつけて来た。サーラが叫ぶ。


「い、行くわよ!!」


 こうして予期せずに開始されたゼルキド軍との交戦。当初の奇襲は失敗し、避けなければならない正面衝突となった。



「はああ!!!」


 それでもサーラは強かった。

 身体能力に長ける獣人族の男達を、見事な剣術で次々と薙ぎ倒していく。寄せ集めの兵であったがサーラの勢いに乗り、皆もいつも以上の力を発揮していた。

 だが数で劣るサーラ隊。やがて疲労が見え始めた兵士達が敵の攻撃を受けるようになる。


 ザン!!!


「ぐわっ!!」


 傷つき倒れるサーラ隊。そしてその攻撃が始まる。



「食らえっ!! ファイヤーボール!!」


 魔法が苦手な獣人族。魔法耐性そのものも低い者が多い。サーラ隊の後方より獣人族に向けて魔法が放たれる。


 ドン!!!


「グガアアア!!!!」


 被弾。笑うゼルキド将軍。瞬時に後退する彼の部下達。そして()()は起こった。



 ドオオオオオオオン!!!


「ぎゃあああ!!!」

「グガアアア!!!!」



「な、何が起こったの!?」


 魔法の被弾。そしていきなりの爆発。訳が分からず唖然とするサーラにゼルキドが言う。


獣人族ゴミどもに魔法攻撃するのは分かってたんだよ!! だから仕掛けたんだよ。魔法を受けると爆発する仕掛けをな!!」


「なっ!?」


 サーラが周りを見回す。


 ドン、ドオオオン!!!


「ぎゃあああ!!!」


 獣人族の兵士と戦うサーラ隊。その多くが爆発する獣人族の巻き添いになって倒れていく。それを丘の上から見ていたレーニャが青い顔で言う。



「ひ、酷いニャ、こんなの嫌だニャ…」


 黙って腕を組んだまま戦況を見つめるリュード。この世界で獣人族は奴隷のような扱いを受けると聞いた。まさに捨て駒。最初から彼らの命など考えもしていない策略。レーニャが泣きそうな顔で言う。


「なんとかするニャ、リュード!!」


「そうだな。さすがに胸糞悪いぜ……」


 リュードが懐に手を入れてとある物を探し出した。





「てめえの相手はこの俺だ!!!!」


 サーラの前に立ちはだかったゼルキド。トレードマークの巨大な斧を片手に亜麻色の女騎士の前で挑発的な笑みを浮かべる。


(どうする!? どうすればいいの!!)


 周りの兵士は次々と獣人族の攻撃と魔法の爆発で倒れていく。幸い獣人族は頑丈な体、そしてサーラ隊は強固な鎧のおかげで致命傷にはならずに済んでいるが、皆共倒れとなっている。


(退くべきなの? それとも……)


 迷うサーラ。そんな彼女に容赦なくその強大な斧が振り下ろされる。




 ドオオオン!!!


「きゃっ!!」


 大地を割るような強烈な一撃。辛うじてかわしたサーラの体に汗が吹き出す。ゼルキドが言う。


「戦いの最中にぼうっとしてんじゃねえよ! それとも男のことでも考えていたのか? くくくっ……」


 明らかに女性と言うだけで馬鹿にした態度。だが今の彼女にそれに応える余裕はなかった。


(せめて一対一で戦えれば……)


 やはり自分には将の器などない。サーラは剣を構えながら改めてその事実を噛み締めた。





「リュード。それは一体なんだニャ??」


 倒れる同胞。きっと無理矢理戦場に連れて来られているのだろう。何とか助けたい。頼るべきは主人であるリュード。レーニャは彼が懐から取り出した見たことのない道具を見て尋ねる。リュードが答える。


「これはな、『おしゃぶり』だ」


「おしゃ……、ぶり……??」


 首を傾げるレーニャ。リュードが言う。


「そう、おしゃぶり。赤ちゃんが口に咥えて安心を得る道具」


「リュード。それもアーティファクトなのか? それでみんなが助かるのか?」


 リュードが頷いて答える。


「まあ、見てな。ノースターだが最大限まで力を込めれば、うぬぬぬ……」


 そう言いながらリュードの顔が真っ赤になっていく。そして『おしゃぶり』を天に掲げ眼下で争う皆に向かって叫ぶ。



「ここは安住の母なる大地。皆ゆるりと休むがいい!! 貪れ、極上爆眠っ!!!」


 そう言って手にしていたおしゃぶりを勢いよく口に咥える。何をしているのだ、と言った顔で見つめるレーニャだったが、直後に起こった光景に驚き唖然とする。



「ぐぅ〜」

「ぐがぁ……」


 敵味方入り乱れて争っていた戦。だがリュードがおしゃぶりを咥えた瞬間、皆が崩れるようにその場に倒れ込みいびきをかき始める。



「こ、これは……」


 驚いたのはサーラとゼルキド。

 このふたりを除いて皆気持ちよさそうに眠りに落ちてしまっている。ゼルキドが斧を地面に叩きつけて叫ぶ。


「なにをやってんだ、てめえら!! 起きろ!!!」


「ぐぅ〜」


 だがどれだけゼルキドが叫ぼうが兵士達の反応はなし。




「す、凄いニャ!!」


 泣きそうな顔だったレーニャに笑顔が戻る。リュードがおしゃぶりを咥えたまま答える。


「うおほおうほほ、ほおおほ(まあノースターだから、強者以外は皆掛かるかな。簡単には起きんぞ)」


「何言ってるのか分からないけど、さすがリュードニャ!!」


 そう言ってレーニャがリュードに抱きつく。


(サーラ……)


 リュードはじっとゼルキドと向かい合うサーラを見つめる。





「魔法か? くそっ、何だか分かんねえけど、相当強力な魔法だな。この人数を一瞬で……」


 数百名はいたはずのゼルキド軍が全て眠りに落ちている。魔法だとしても相当高度な使い手によるものである。サーラが思う。


(一体何が起きたのか分からないわ。敵の誤爆? それとも何かのイレギュラーかしら……)


 考えるサーラにゼルキドが斧を向けて言う。


「まあいい。ここで大将のてめえをぶった斬ればそれで終わり。さあ、始めるぞ!!」


 ゼルキドに対峙するサーラ。大将同士の一騎打ちがこれより始まる。

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