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16.王城復帰だぜ!!

(緊張する……)


 宿を出て一路サイラス王城へと向かうリュードとサーラ。姿は見えないがレーニャもついて来ているはずだ。もしあの壺が媒体でなければリュードは再び追い返される。不安に駆られたサーラの目にサイラス城門が映る。


「リュード様……」


「ああ、分かってる」


 身なりは王子のものではない。一般市民のありふれた服。そんな男が堂々と城門に近付く。



「ん? あれは……」


 サーラともうひとりの男に気付いた門兵がじっとふたりを見つめる。そして敬礼して言う。



「おはようございます!! リュード()()!!」


(!!)


 敬礼するふたりの門兵。驚くサーラ。リュードは平静を装い軽く手を上げてそれに答える。


「おはよう。お勤めご苦労さん」


「はっ!!」


 兵士が大きな声で軽く会釈する。



(やった、やったわ!!)


 門兵達はリュードの普通過ぎる服装にやや戸惑いながらも門を開けふたりを中に入れる。歩きながらサーラが言う。



「良かったです、本当に良かった……」


 無事、第三王子リュードの王城復帰が成された。涙ぐむサーラをリュードが優しく()()()()()言う。


「ありがとう、サーラ。本当に感謝する」


「あ、いえ。わ、私としては当たり前のことを……」


 リュードにしては大胆すぎる行動にあたふたしながらサーラが答える。



「あ、あの、とりあえずリュード様のお部屋を確認しましょうか」


「そうだな、そうしよう」


 以前は何者かによって封印されていたリュードの部屋。それがもし現れていればこの忌々しい封印が完全に解けたことになる。




「リュード様、おはようございます……」


「おはよう」


 城内を歩くリュード。引きニートが堂々と外を歩いているのが珍しいのか、すれ違う城の者達がやや戸惑いながら挨拶をする。そしてすれ違った後に一部の者達からは悪言がささやかれる。



「引きニートが偉そうに……」

「お兄様達に比べて本当残念な人だわ」


 優秀な兄ふたり。常にそれらと比べられて来たリュードにとって王城は決して居心地の良い場所ではない。


(リュード様……)


 無論その言葉はサーラにも聞こえている。だが彼女はただの剣術指南。いわば外様。この空気を変える力はない。



「サーラ」


「あ、はい」


 突然声を掛けられたサーラが少し驚いて返事をする。前を向いたままリュードが言う。


「気にしなくていい。俺は大丈夫」


「はい……」


 何と言葉をかければよいか分からないサーラ。リュードが言う。



「俺には見えるんだ」


「何が、ですか……?」


 前を向いたまま話すリュード。まるで別人。自分のよく知っている弱気な第三王子ではない。リュードが言う。



「俺には見えるんだ、平和な世の中が」


「平和な、世……」


 リュードが立ち止まり、サーラを見つめて言う。


「約束したんだ、この国を守るってね」


「ど、どなたとですか……??」


 話が大きすぎて戸惑うサーラ。剣術もダメで引きこもってばかりの彼の言葉とは到底思えない。リュードが苦笑して答える。


「それは秘密」


「はあ……」


 本当に雲のように掴みどころがない今のリュード。再び歩き出そうとしたふたりに大きな声が響く。




「サーラ様!!」


 やって来たのは長兄ベルベット隊の小隊長。真っ青な顔で小走りに駆けて来る。あまり面識はない。サーラが尋ねる。


「どうしましたか?」


 小隊長が肩で息をしながら答える。



「は、はい。実はベルベット様が侵攻して来たセフィア王国軍を撃退しまして……、ええっとそこまでは良かったんですが、逃げる敵を追撃中、伏兵の反撃に遭い退路を断たれまして……」


 同じティルゼール王国の属国であるセフィア王国。ここ最近何度もサイラス侵攻を行っておりその度に対処していたのだが、さすがに業を煮やしたベルベットが初めての追撃を行った。だがこれは敵の罠。瞬く間に退路を断たれ、敵地で孤立無援となっているとのことだった。サーラが言う。



「早く救援部隊を編成して助けに行かないと……」


 一刻の猶予もない。そう話すサーラに小隊長が困った顔で答える。


「はい、救援部隊の準備をしてはいるのですが、ベルベット様の後方を襲ったのがゼルキド将軍でして……」


「ゼルキド将軍……」


 セフィア王国ゼルキド将軍。周辺国の中でもトップクラスの猛将でベルベットと互角の実力を持つと言われる男。並の将では歯が立たない。小隊長が言う。



「そこでお願いです。サーラ様、救援ルート確保のためゼルキド将軍討伐をお願いできませんでしょうか!!」


 いくらサーラと言えどもかなり無謀なお願い。だがこれは既に決定事項。彼女に拒否権はない。


「わ、分かりました。すぐに向かいます!!」


 そう答えるサーラに小隊長が詳しい説明を行い、準備の為慌てて兵舎に駆けて行く。



「サーラ」


 不安げな顔のサーラの肩に手を乗せリュードが言う。


「心配するな、俺も行く」


「いえ、それは……」


 自分より遥かに弱い第三王子。引きニートである彼を連れて行けばそれだけ負担が増す。サーラが言う。



「危険な任務です。リュード様は城で待機を……」


「大丈夫」


 リュードが笑顔で言う。


「俺はお前を守ると決めたんだ。これは俺の約束」


「え? いえ、でも……」


 意味の分からない言葉。不思議なリュードの自信。ゼルキド将軍は恐ろしいが自分がやらなければならない。何かを口にしようとしたサーラにリュードが言う。



「それにさ、そんな不安そうな顔をした君をひとりで行かせる訳にはいかないよ」


 これまでのリュードを考えればあり得ない言葉。だがそんな冗談みたいな言葉を聞いて逆にサーラの緊張が解けていく。


「分かりました、一緒に参りましょう。でも約束してください。危なくなったらすぐに逃げること。いいですか?」


「了解~」


 そう答える呑気そうなリュードにサーラが小さくため息をつく。相手は猛将ゼルキド。王城復帰早々、リュードに新たな試練が与えられた。

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