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10.もしかして、弱いの??

 元々身のこなしが素早い上、『隠密』行動ができるネコ耳少女。警備が厳しいとされるサイラス王城へも難なく忍び込むことができた。


(ひとまず城内を回ってみるニャ)


 影から影へと移動。足音も気配も消して少女が闇を移動する。



「!!」


 そんな少女のポケットに入れておいた小さな茶色の石。依頼主の男は『アーティファクト』だと言っていたが、その渡された石が突然光り始めた。歩みを止め周りを見回し、誰もいないことを確認してからそっと石を取り出す。


(綺麗だニャ……)


 光る石。それを手に取り壁に近付けると何か神経を揺さぶられるような音が頭に響き、突如目の前に()()が現れた。



「うそ!? なんだニャ、こりゃ……」


 突如壁に現れたドア。いきなりのことで驚きながらも少女の嗅覚がここに何かあると告げて来る。周りを確認し、ゆっくりとドアを開けて足を踏み入れる。


(部屋だ、ニャ……)


 部屋は中々豪華な作り。装飾美しいベッドに金色の刺繍が施されたカーテン。置かれた調度品も年代物ばかりである。本当に王子の部屋だと言われても違和感がない。


(めぼしい物は……、これぐらいかな?)


 ぱっと見部屋の住人を特定できそうなものはない。ただ机の上に置かれていた『diary』と書かれた分厚い本の表紙をめくると、そこには『リュード・サイラス』と言う名前が記載されていた。それ以上詮索はしない。少女は日記を懐にしまいすぐに部屋を出る。



(あっ)


 部屋を出た瞬間、ポケットに入れておいた茶色の石が小さな音を立てて割れた。そしてドアが再び壁になって見えなくなった。





(この日記はきっとあいつの言っていた第三王子のものニャ。変なドアも見つかった……)


 獣人族の少女はひとり暗い森の奥でリュードを待つ。この日記を見せればきっとその第三王子の情報も得られるだろう。少女は暗くなった森から満月が輝く夜空を見上げる。


(大丈夫、ミャーは悪くない。悪いのは……、人間ニャ)



「参ったな~、随分迷ったよ」


 待ち合わせの時間よりやや遅れて、その茶髪の依頼主であるリュードがやって来た。静かな夜の森。どこからか獣か魔獣の鳴く声が響く。少女はリュードの前に立ち小さく息を吐いてから言う。


「王城の壁の中にこれを近付けたら急にドアが現れたニャ」


 そう言って割れてしまった茶色の石のアーティファクトを見せる。


「ほお、やっぱり。封印がされていたか。つまり何者かが故意に俺の部屋を隠したって訳だな」


 それ以上は少女には分からない。その代わりに部屋で見つけた分厚い日記を懐から取り出し手渡す。リュードはそれを受け取り、表紙をめくって『リュード・サイラス』と書かれた署名を見て大きく頷く。


「これは凄い! まさに第三王子が生きた証じゃねえか! でかしたぞ、子猫ちゃん!!」


 そう言って少女の頭を撫でようとするリュード。彼女はそれをすっとかわし言う。


「他に城内にお前に関する物はなかったニャ」


 それは先に会ったサーラからも聞いている。リュードは暗闇の為これ以上読めない日記を懐にしまい、代わりにずっしりと重い小袋を取り出し少女に差し出す。



「これが報酬。ありがとな」


「……」


 少女はそれを無言で受け取り大切そうにしまう。リュードが声を掛ける。



「あのさ、もし良ければこの後も……」


 そこまで言った時、それまで静かだった辺りが急に騒がしくなる。何か木々が勢いよく折られる音。唸り声。そしてそれらはゆっくりとふたりの前に現れた。


「オーク……!?」


 深い森に棲むと言うフォレストオーク。森で迷った狩人や旅人を襲うとされる魔物。しかも群れで行動することが多い。


 ザザッ、バキバキ……


 すぐに集まる他のオーク達。その数が見る見るうちに増えて行く。少女は顔を真っ青にし震えた声で言う。


「ミャ、ミャーは悪くないニャ……」


「逃げろ!!」


 リュードが叫ぶ前よりもずっと先に少女は影を縫うようにその場から逃げ出す。

 少女が指定したこの森。ほとんど人が立ち入らない場所であり何度かこのような密会で利用したことはあるが、同時にここは魔物の棲む危険な場所。任務の成功に浮かれ彼女にほんの少し油断があった。



(殺される、殺される……)


 少女は夢中で夜の森を駆ける。力が強く凶暴なフォレストオーク。群れに捕まれば無残に殺されるのは明白。魔物が出ることは知っていた。もし出ても逃げればいい。依頼主が、()()が捕まろうがそんなことは関係ない。そんなふうに心のどこかで思っていた。



『俺の相棒が何かしたか? 謝れよ』



 そんな少女の頭にその男の言葉が蘇る。


「ミャーは……」


 少女のスピードがやや落ちる。



『綺麗な髪に似合ってるよ』



 少女が立ち止まる。震える体。リュードの言葉が何度も何度も彼女の頭で繰り返される。



「人間が悪いニャ……、ミャーは、ミャーは……」


 両手にぐっと力を入れる少女。だが何もできない。非力な自分には何もできない。



「コオオオオ……」


「!?」


 そんな少女のネコ耳に周りから響く何かの呼吸音が聞こえる。


(何かいるニャ……、!!)


 暗き森の中から現れた個体。それはフォレストオークを統率する赤き上位種『レッドフォレストオーク』とその取り巻きであった。






(子猫ちゃんは逃げられたかな? だけど急に魔物の気配が強くなった……)


 リュードは周りに現れたフォレストオーク達に剣を向けながらひとり考える。自分の退路を諦める代わりに少女を逃がした。つまり戦う以外選択肢はない。群れで行動するフォレストオーク。普通の人にとっては恐るべき魔物であるが、『勇者サックス』にとっては取るに足らない相手。だがそれが逆に油断に繋がった。



「はあっ!!」


 リュードは剣を振り上げ一直線に敵へと斬り込む。



(え?)


 ドン……


 走り出したリュードは勢いよく()()()。とても歴戦の勇者とは思えないほど無様に足がもつれ転倒する。



(え、えっ!?)


 自分の頭の中のイメージではすでにオークに肉薄し一太刀入れている。だが現実はまだ動いて数歩。足が自分のイメージについてきていない。そして思い出す。



「やべっ!! 今、この体は『第三王子リュード』だった!!」


 歴戦の中で鍛えられた勇者サックの体。下級魔物では傷すらつけられないほど鍛え上げられた体だが、今は引きニートの王子リュード。鈍った体では無論同じように動くはずがない。


「ウゴオオオオオ!!!!」


 そんな倒れたリュードにフォレストオークが容赦なく襲い掛かる。



「くそっ!! ウィンドカッター!!!!」


 シュンシュンシュン!!!!


 倒れたリュード。咄嗟に指にあった風のアーティファクトをオークに向け反撃する。


「ギャアア!!!」


 ノースターのアーティファクト。だが稀代の使い手であるリュードが使えばその威力は限界を超える。襲い掛かろうとしていた数体のオークが無残に肉片となって地面に落ちた。



 パリン……


 だが粗悪なノースターのアーティファクト。数回の使用で割れてしまう。



(やばいな……)


 リュードがゆっくりと立ち上がる。あと残っているのは『回復』のアーティファクトと、離れた場所に花を出現せる『宴会』のアーティファクト。


(何もないよりマシだが……、それより森の至る所で魔物の気配が強くなっている……)


 リュードは剣を構えつつも、先に逃げた少女のことが気になっていた。

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