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50.魔女からの解放

本日正午(12:00)最終話をアップロード予定です

 シャーロットは鬼の形相を浮かべた。


「あたしを誰だかわかっていないの?」


 審問官は静かな口ぶりで返す。


「解っているさ。破滅の魔女よ」

「な、なにかしら? それ」

「破滅の魔女とは教会の異端審問官の間でつけられた名だ。貴殿が王妃であれば、その名を口にすることは考えられない。が、この法廷内で、口にしたのだ。さすがに自分がどう呼ばれているか、知っていたらしい。そして、その汚名をリリア・シルバーベルクですすごうとしたのだろう」


 私で? すすぐって……なに? どういうこと?


 シャーロット王妃(?)は首を傾げる。


「さ、さあ、なんのことかしら?」

「しらばっくれるな。我が母に乗り移り国を滅ぼしたのち、人を伝ってついにガーディアナの王女に移って、セリア王国にやってきたのだろう」

「の、乗り移る? 意味がわからないわ」

「不老不死なのも肉体を乗り換えてきたからだ。そして国の中枢に入り込み、自分の手足のように動かす組織を裏で作って暗躍させる。貴殿こそ幻影貿易連合の首魁だ」

「いい加減にして! さっきから無茶苦茶よ! しょ、証拠はあるのかしら?」

「今から見せてやる。故郷亡き小生に失うモノなどこれ以上無いのだから」


 瞬間、目の前が暗くなった。

 温かい手のひらが私の視界を覆った。


「リリアは見ない方がいい」


 ヒュンと空を切る音。そして――


 傍聴席で悲鳴がいくつも上がった。


 何かがゴトリと落ちる音。まさか、首をねたの!?


 どさっと倒れた気配を感じた。


 なのにシャーロットの声が響く。


「あら、正解。ついにバレちゃったかぁ。もう少しでリリアの身体を乗っ取って、今度はレオナルドと遊びたかったのに」


 ヴィクトルの声が返した。


「首を落としてまだ喋るとはな……化け物め」

「ねえ? 何が決め手だったのよ? あたしのこと知ってたみたいだけど。そもそも、あなた誰?」

「小生はヴィクトル・ブラックモア。魔女狩りの異端審問官……だが、最後に教えてやろう。貴殿が滅ぼし、今やガーディアナ王国領となったエクリプスティア小王国の最後の生き残り……ユエン・エクリプスティアだ」

「あらあらぁ。あの時、殺し損ねたクソガキ王子じゃない。お母さんを手に掛けようとするなんて、悪い子ね。やっぱり滅ぼしておいてよかったわ、あの国」

「思い出したようだな」

「ねえ、あたしに協力しない? 魔女の力はよく知ってるでしょ? あなたをどこかの国の王様にしてあげてもいいわよ」

「この期に及んで……聖なる炎よ。魔女に終焉をもたらせ……」

「いや、やめて! なにこの炎ッ!! 身体がッ! 燃える!? どうして!? あたしは不滅の魔女なのよ!!」

「貴殿を滅するために研究を重ね、レオナルド・ドレイク卿の助力を得て完成させた破魔の術だ。存分に味わうがいい」

「ぎぃいヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


 二人のやりとりはそこで終わり、私の視界を遮るものがスッと外されると、王妃シャーロットが倒れていた場所に真っ白い灰の山だけが残っていた。



 国王は聖教会から破門された。

 玉座は空位となった。


 王妃の正体が罪深い滅びの魔女と知れ渡り、傍聴席の人々は悪夢から目覚めた。


 ええと、手のひらを返した傍聴人たちにアルヴィンが「みなさんもっと反省してください。リリア先輩に謝って」ときつく詰め、フェイリスも「そーよそーよ! これから一生涯かけて、お姉様を敬いなさい!」って、もう、二人とも暴走しすぎよ。


 それにしても――


 異端審問官のヴィクトルが亡国の王子様だったなんて、ちょっとびっくり。


 それ以上に、シャーロットが魔女だったのにも驚いたけど。


 審問官が私とレオナルドに一礼する。


「このたびは、小生の復讐に利用してしまったことを心より謝罪する」

「顔を上げてください。ヴィクト……ええと、ユエン様とお呼びした方がいいのかしら?」

「昔の名だ。忘れてほしい」


 頭をあげたヴィクトルが目を開く。暗く澱んだ色の黒い瞳に……わずかながら光が戻っていた。


 エドワードはこれから本格的な取り調べが行われ、流刑は確定という。王が国を追放されるというのは、皮肉よね。


 大司教猊下が木槌を奏でた。


「さて、今回の大法廷はセリア王国史に残る大事件でした。解決できたことはそれぞれの尽力あってのこと。恐るべき魔女を退けたその勇気と叡智を、私は讃えたい……のだが」


 レオナルドが代表して訊く。


「なにかまだ、解決していないことがあるのでしょうか大司教猊下?」

「うむ。王を廃したことで空位になってしまった。セリア王国聖教会としては、速やかに王選をしなければならない」

「なるほど、そうですね」


 黒獅子様に護衛騎士ギャレットがひざまずいて声を上げる。


「若こそが救国の英雄にして王たる器に相応しい御方です」


 異端審問官ヴィクトルも膝を突いた。


「レオナルド・ドレイク卿は王家の傍系ながら資質能力ともに素晴らしい」


 これにアルヴィンまで乗っかった。


「ぼくもレオナルド先輩が王様になるのは賛成です! 幻影貿易連合の解体にはメルカート商会が力を貸します!」


 傍聴席も情けないエドワード前王と化け物だったシャーロット王妃を目の当たりにし、無実の地方領主の少女……まあ、私のことだけど。それを颯爽と駆けつけて救ったレオナルドは、新しい国のリーダーに相応しいと思ったみたい。


 拍手喝采だった。


 大司教も満足そうに目を細める。


「ドレイク公爵家であれば血筋も十分。相応しいですね」


 トドメは……フェイリス。


「では、お姉様とご結婚されてはいかがでしょう!?」


 瞬間――


 アルヴィンとギャレットと、ヴィクトルまで私を見つめた。


 ええ、なにその……なに? 急に……いきなり……そんなことを言われても。


 助けを求めるようにレオナルドを見つめると。


「猊下、少し……考えさせてほしい」


 意外だった。てっきりレオナルドのことだから王に即位するのかと思っていたけど。

 大司教が小さく息を吐く。


「ふむ。ドレイク家には貴男の兄のフィリップ・ドレイクがいる。それを差し置いて王になるわけにはいかないと?」

「無論……ですが……」


 あのレオナルドが外面も捨てて、素直に困り顔になった。大司教は息を吐く。


「そうですか。きっと貴男には貴男の考えがあるのでしょう。ここでとは言いません」


 それから、猊下は私に向き直った。


「貴女にも謝らせてください。この木槌で命を奪う寸前でした」

「いえ、猊下。もし私が同じ立場であれば、きっと惑わされていたと思います」

「本当に優しいのですねリリア。ありがとう」


 こうして――


 セリア王国にかかった深い霧は、この日を最後に消え去ったのでした。


 私、何もしてないけど。

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