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40/51

40.想定外の結末

空っぽの→空っぽに

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 ノーマンを言葉で刺しまくったメガネ君が、笑顔で振り返る。


「これくらいでいいですかリリア先輩?」

「ちょ、ちょっと。私がやらせたみたいな言い方になってるわよ」

「え? もう少し精神的に痛めつけた方がよかったですか?」


 わざとなの? わざと聞き返したの?


 アルヴィンって、やっぱりドSなのかしら。

 レオナルドの方がオラオラした感じがしていたけど、第一印象というか人は見た目によらないものね。


 ノーマンが膝から崩れ堕ちた。


「は、はは……嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ」


 ずっと息を潜めていたフェイリスが口を開いた。


「お姉様を侮辱したこと、謝ってくださいまし」


 なんでそうなるのかしら。


「う、うるさい! ボクチンに指図するな! ちょっと顔が良くて胸がデカいだけのバカ女のくせに!」


 なんだか哀れになってきた。情けをかける余地はないけど。

 フェイリスも狸の戯言たわごとを聞き流す。


「もしノースゲート家が没落するようなことがあれば、北方三領の安定を欠くことになりますわ。立て直しにお姉様の力を借りるのは、そちらでしてよ?」

「そんなことになるもんか! そ、そうだ!」


 何か良からぬことでも思いついたみたい。ノーマンは立ち上がって膝頭を手ではらう。


「これは詐欺事件だ! 教会に訴えれば無かったことにしてくれるはずだ! ガーディアナ王国は異教徒の国ではないからな! 同じ教会勢力の国で、エドワード王とシャーロット王妃の婚姻で両国は固い絆で結ばれているんだから!」


 それで空っぽにした金庫が元に戻るわけではないわよね。

 もし、本当に幻影貿易連合シャドートレードユニオンが関与した犯罪なら、お金はその組織に流れて、取り返しようもないでしょうし。


 私は小さく咳払いを挟むと。


「教会にいったい誰を訴えるのかしら? 詐欺師はとうに姿をくらましているではありませんか?」

「だ、だったら……オマエを訴える!」

「筋違いもはなはだしいわね。取り合ってもらえないんじゃないかしら」

「ううううううううるさあああああああいいいいいい! じゃあガーディアナ王家だ!」

「今回の件はガーディアナ王家こそ被害者だと思いますけど? 権利書の偽造をされてしまったのだし」

「うがあああああああああああああああああああああ!!」


 素直な感想を返しただけなのに、狸男は耳まで真っ赤になった。


 メガネ君と妹ちゃんがうなずき合う。


「さすがリリア先輩です。普通のリアクションで相手の心を折るところ。ぼくなんて足下にも及ばないや」

「お姉様の何気ないド正論ほど、強力なものはございませんわね。基本技が全部必殺技ですわ」


 なによ二人とも! さっきから私をなんだと思ってるの?


 ノーマンはその場で地団駄を踏んだ。


「いいか! 覚えてろよ! 教会に告発してやるからなリリア・シルバーベルク!!」


 結局、矛先が私に向いちゃったんだけど。まあ、さすがに教会もこのおバカさんの言い分なんて、まともに取り合わないわよね。


 証拠の偽の権利書を握りしめ、ノーマンはのっしのっしとフロストヴェールの屋敷を出ていった。


 やっと部屋の空気が落ち着いて、気を張りっぱなしだったフェイリスがふらふらとソファーに倒れ込む。


「一時はどうなるかと思いましたわ。お姉様……それにアルヴィン教官。ありがとうございます」


 アルヴィンがニッコリ微笑んだ。


「休んでいる時間はありません。ほら、立ってください。余計な時間を使った分、少し急ぎで仕事をしないといけないですよフェイリスさん」

「ひいいいい! オーガ! 鬼がいましてよ!!」


 ちょっとスパルタが過ぎるかも。


「ねえアルヴィン君。フェイリスの分は私ががんばるから、少し彼女を休ませてあげましょう」

「そうはいきません。フロストヴェール領を一秒でも早く安定させて、シルバーベルクに戻らないと」


 灰色の瞳はさも、当然のように言う。


 本当に無邪気な仔犬……なのかしら。


「ねえアルヴィン君」

「なんです先輩?」

「どうして鉱山権利書が偽物だってわかったの?」

「それはご説明した通り、所有者のガーディアナ王家が簡単に手放すものではないと知っていたからです」

「けど、契約書の紙や筆跡なんて、本物を見たことでもないと判別がつかないじゃない?」

「あれは口から出任せですよ。ただ、作りがあまりに精巧だったから幻影貿易連合シャドートレードユニオンじゃないかなって」


 その実体は不明で、セリア王国だけでなく各国に根を張るという犯罪組織。


「詳しいのねアルヴィン君って」

「メルカート家は商家ですから。偽金や偽の証券には詳しくなりがちで、調べると最後に行き着くのは幻影貿易連合シャドートレードユニオンなんです」


 さらりと青年は言ってのけた。


 万が一にも、こんなことは無いと思うけど。


 アルヴィン君自身が、幻影貿易連合シャドートレードユニオンの一員だったなら。


 メルカート家の裏の顔……なんてことも。ノーマンを潰すために彼に近づいて、言葉巧みに騙して偽の鉱山権利書を高く売りつけた……とか。


 やだ、妄想しすぎよね。


 灰色の瞳が心配そうに私を見つめる。


「どうかしたんですかリリア先輩?」

「いえ、なんでもないわ」


 こうして――


 私たちはノーマン・ノースゲートの撃退に成功した。


 その後の顛末てんまつはというと、ノーマンはノースゲート家のお金の使い込みが発覚して勘当。


 グロワールリュンヌ学園からも除籍となった。


 教会に訴えにも行ったみたいだけど、結果をみれば火を見るよりも明らか。


 流れてきた噂だと「魔女のせいだ! あの女さえ……リリア・シルバーベルクさえいなければ、こんなことにはならなかった! アイツは魔女だ! 魔女なんだ!」って、わめいていたみたい。


 この一件でノースゲート伯爵家は没落寸前。北方三領の盟主が今や、足手まといの最下位になった。


 今後はシルバーベルク家が主導となって、フロストヴェール家の協力を得ながら北方をまとめあげていく流れになりそう。


 あとはレオナルドが王都から戻ってくれば、比較的全部が元通り。


 に、なるはずだったのだけれど。


 フロストヴェールでの役目が終わろうかというところで――


 教会所属の聖騎士団が屋敷を取り囲んだ。


 代表っぽい黒髪糸目の痩躯の青年が、屋敷の玄関口で私に書状を突きつける。


「リリア・シルバーベルク。貴殿に魔女の疑いありとして、身柄を拘束する」


 異端審問官の男は眉一つ動かさず、そう告げた。


 反論の余地もなく、私……逮捕されちゃった。

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