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39.真贋を見抜く眼差し

 妹ちゃんは、私が守ってあげないと。


 下を向くフェイリスに代わって前に出る。


「ところでノーマン。その権利書にある鉱山から、どれくらいの富が得られるか試算はできているのかしら?」

「んなもの必要ない! ともかくすごいんだぞ! 北方三領のトップはノースゲート家だ!」

「けっこうお高かったんじゃないの? すぐに利益を出さないと領地経営の資金が尽きてしまうかも。そうしたら結婚どころではないでしょう?」

「うるさいブス」


 男を殴りたいと思ったのはこれが初めて。エドワードに対しては愛想が尽きて、もうなんの感情も抱かないけどノーマンはシンプルに不快で仕方ない。


 狸男が出っ張った自身のお腹をパンと叩いた。


「ともかくオマエらはひれ伏せばいいんだよ! すぐに鉱山が金を生んで、ボクチンはパパに褒められてエドワード王にも見直されて、北方三領の連合領主になるんだ!」


 錦の御旗みはたと言いたげに、ノーマンは権利書を私に突きつけた。


「ちょっと失礼しますね、リリア先輩」


 すっと音も立てず、まるで暗殺者みたいにメガネ君が権利書をのぞき込む。


 あっ……この流れって。


 アルヴィンのメガネが窓から差し込む陽光に白んだ。


「なるほど。鉱山一つでシルバーベルク領とフロストヴェール領の合計を上回りますね。加えて元のノースゲート領の利権と合わせれば、併呑できる額です」


 ノーマンが嬉しそうに目を細めてアルヴィンの肩を叩いた。


「おー! わかってるじゃあないか! オマエは見込みがあるな。うちで雇ってやろう」

「いえ、遠慮しておきます。ぼくはリリア先輩一筋ですから」

「はぁ? なんだ惚れてるのか? こんなちんちくりんのどこがいいんだ?」


 アルヴィンの背筋が一瞬、ぶるっと震えた。


 ノーマンが私をどう思うが、口汚く罵ろうが豚の鳴き声だと思えば気にもならない。


 けど、アルヴィンは違った。


「リリア先輩の魅力がわからないなんて、どうかしてると思います」


 加えて。


「そうですわ! 先輩の奥ゆかしい人柄や剥き出しの優しさに気づかないなんて、目が曇って鼻が詰まって耳が遠すぎますわよ!」


 フェイリスまで乗っかってきた。もうやめて二人とも。私の羞恥心の残りライフはゼロよ。


 ノーマンは不機嫌になりながらも。


「バカはどっちだ。ともかくオマエらの負けだからな。金鉱で均衡が崩れたってな! ぎゃっはっは! うちの金庫を空っぽにして現金一括金貨払いした甲斐があったってもんだ」


 それって、その日からの領地運営資金をどうするのかしら?


 すぐに取り返せる見込みや信用取引でどうにかできるものなの?


 けど、全部が全部ノーマンの言う通りだとしたら……。


 経済規模で天秤が一気にノースゲート家に傾いて、こちらは成長戦略があるのに実行前に呑み込まれてしまう。


 もうだめかもしれない。


 諦めかけたその時――


「あれれぇおっかしいなぁ?」


 メガネの青年がノーマンの見せびらかした権利書に疑問符を投げかけた。


 狸男がほっぺたを膨らませる。可愛さゼロ。醜さ倍だ。


「な、なにがおかしいって? 難癖かオマエ!?」


 アルヴィンはメガネのブリッジを中指で押し上げた。


「だっておかしいんですよ。このマグノリア鉱山って確か、所有権は別の方の名義で動きようがないんですよ。100%偽物です」

「はあ? しょ、所有権はノースゲート家だぞ! こ、ここに書いてあるだろう! 鑑定済みの本物の権利書だぞ!!」

「鑑定士も騙す精巧な偽物なのに、お粗末ですよこれ。ただの綺麗な紙切れです。もしくはその鑑定士もグルですね。ご自身で内容を精査すれば、一発であり得ない権利書だってわかるとおもいます」

「はああああ!? イチャモンつけるなああああ!」


 短い手足をジタバタさせるノーマンに、アルヴィンはビシッと指をつきつけた。


「マグノリア鉱山はセリア王国の隣国、ガーディアナ王国にあります。たしか鉱山はガーディアナ王家の管理下にあったはず。すごいですね。王家から譲り受けるなんて」

「ば、ばばばバカな!? そんなはず……」

「だから偽物だって、ちょっと知っていれば一発でバレるんですけどね。ただ偽造のレベルは本当に高いです。筆跡。サイン。紙のウォーターマークまで、すべてガーディアナ王家のものなんですから」

「じゃあ本物だ! 本物だろ? な? そうだよな?」


 不安になったみたいで、ノーマンは膝をガクガク笑わせて両手で落ち気味な頬を支えるように覆った。


「これほどのものを用意できるのは、恐らく……幻影貿易連合シャドートレードユニオンですね。本物と見まごうばかりの芸術的な贋作です。もしかして、あなた自身が偽造依頼を?」

「するわけないだろう!」

「ですよね。それくらい頭が回るなら、こんな見え見えの偽物を掴まされていないでしょうし」

「ウヒイイイアアアアアアアッ!? あれだけの金を積んだのに! 十倍にも二十倍にもなるって言ってたのにぃ! おしまいだぁ! ノースゲート家は破産だああああ!」


 ノーマンが興奮したお猿さんみたいな声を上げる。

 アルヴィンは締めくくった。


「ずいぶん高い買い物をなさったみたいですけど、今ならメルカート家でご融資しますよ」

「ふ、ふざ、ふざけるなああああ!」

「信じない! ボクチンは絶対に信じないぞ!」

「そろそろ仕事に戻りたいので、帰ってくれませんか?」

「生意気だぞ平民が!」

「すみません。出過ぎたことばかり言って」


 アルヴィンは気にする素振りもみせない。

 ノーマンはすっかり勢いを失った。


 私、何もしてないんですけど。

いつもお読みいただき、誠にありがとうございます。物語の世界に足を踏み入れていただけたことを大変嬉しく思います。


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原雷火 拝

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