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21.正しい騎士の救い方


 騎士は歩き出した。


 私には放っておけなかった。この人はきっとレオナルドにとって、とても大切な人だから。


 このまま行かせちゃいけない。


「待ってギャレットさん」

「……?」

「え、ええと、このままドレイク領に戻ったら騎士をクビになるのですよね?」

「クビ……か。そうですね。つながったままではないでしょう」

「なら、次の仕事が必要よね」

「は?」


 どこか間の抜けた声をあげて、人の姿をした壁が振り返った。


「当家は今、優秀な人材を求めています。そこで私の騎士になりませんか?」

「なっ!?」

「正確にはシルバーベルク家ですけど。ね? いかがかしら?」


 私と騎士の間にレオナルドが割って入った。


「き、君は正気かリリア?」

「もったいないじゃないですか」

「ギャレットは命を賭けた。その覚悟と騎士の誇りは軽んじられるものではないのだよ」

「え? 命を……って」

「決闘に負けておめおめ帰ってきた騎士を、父上は許さないだろう。その命をもってあがなわせる」

「そういうものなのですか?」

「そうだとも」

「ならレオナルド様は、どうしてギャレットさんの利き腕を傷つけなかったのですか?」


 青い瞳がハッと丸くなる。


「それは……」

「決まりです。ギャレットさん……いいえ、騎士ギャレット。死ぬ覚悟があるなら、生き恥をさらしてでも守るべきものを自身の手で守りなさい」


 騎士は首を左右に振る。


「ドレイク閣下が黙ってはおりますまい」

「貴男はどうなさりたいのですか?」

「……自分は……」

「心に従いなさい」


 私はくるりとレオナルドに向き直った。


「何か良い方法はありませんかレオナルド様」

「肝心なところで私に頼るというのか? 言い出したのは君だというのに」

「私が言わなければ、そのままギャレットを死に続く帰路へ向かわせたのでしょう?」


 青年はあごに手を当て。


「わかった。なんとかなれ……だ。考えよう」


 すぐに騎士が声を上げた。


「なりません若! 自分のような人間のために、お立場を悪くすることがあっては……」

「父上が私をドレイク領に戻す理由は、勉強が十分だと判断したからだ。まだ、学ぶべきことがあると解らせればいい」

「ですが……説明するにしても……」

「資料が肝心になりそうだな」


 さすがの黒獅子様も、腕を組み唸ってしまった。ドレイク公。ひいてはその裏に見え隠れするエドワード王を納得させる材料が必要……なのよね。


 そんなところに――


 アッシュグレイの髪を揺らしてメガネの青年が姿を現した。


「おはようございます! あれ? みなさんお庭にお揃いで。それにずいぶんと大きな人! 鎧もすごいですし! 騎士の方ですか?」


 無邪気なアルヴィンに空気が弛緩した。


 と、思ったら、レオナルドがメガネの青年に歩み寄る。


「そうだアルヴィン。君に事業計画書の作成を依頼するよ」

「はい! 喜んで! リースリングワインの海外輸出ですか? それとも東の荒れ地を開墾した際の収穫見込みとか? 観光業のさらなる振興についてもアイディアがあるんですよね」

「全部だ」

「はい! って、全部ですか!?」

「君の思う限り、シルバーベルク領の発展する余地のすべてを書き記してほしい」


 一瞬、息を呑んで黙り込んだアルヴィンだけど。


「本気ですか先輩?」

「ああ、本気だとも」

「わかりました。リリア先輩もいいんですね?」


 灰色の瞳が私に向く。


「え、ええ。お願いできるかしら?」

「当然です! けど、どうしてまた急に?」


 レオナルドとギャレットが黙ってしまった。

 ここは、私の出番かもしれない。


「アルヴィン君。こちらは騎士のギャレット。レオナルド様の護衛騎士だったのだけど……色々あって、このままドレイク領に戻ると命がないの」

「命が!? 大変ですね」

「どうしても救いたい。それには、レオナルド様がシルバーベルク領で、まだまだ学べることを証明しないといけなくて」


 アルヴィンはメガネのブリッジを指で押し上げた。


「そういうことでしたら……任せてください。ドレイク公爵様がぼくの書いた事業計画書に目を通すかもしれないなんて、やりがいしかありませんね!」


 言うなりアルヴィンはギャレットに握手を求めた。


「先輩方にとって大切な人なら、ぼくにも大切な人です。ええと……」

「ギャレットだ」

「ギャレットさんですね。ぼくはアルヴィン・メルカート。その命、ペンで預かります」

「……すまない。いや……」


 大男は両手でアルヴィンの手を包むように握ると、私やレオナルドに頭を下げた。


「ありがとう……ございます」


 なんだか流れでこうなっちゃったけど、これで良かったのよね……うん。


 いつの間にか、レオナルドが私のそばにきて小声で囁いた。


「金の卵を産むニワトリと父上が思えばしめたものだ」

「どういうことですか?」

「エドワードはバカだからね。父上を通じて事業計画を知れば、果実が熟すまで待つ公算が高いよ。こちらは時間をかけて体制を整えさせてもらおう」


 なるほど。アルヴィンの書類の出来映えをもってして、シルバーベルク領の伸び代を見せつけるって

感じね。


 黒獅子様はみんなに気づかれないように、口元だけ腹黒く微笑んでみせた。

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