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12.恋は進展しなくとも

※「青年」多用していたので少し手直ししました。

 夜――

 食事を終えた席で、金貨の件をお父様に報告した。

 レオナルドの申し出に最初は驚いて言葉も出なかったお父様だけど。


「リリアはいいのかい?」

「はい。王都からの人口流入が止まらない以上、シルバーベルク領内に新たな雇用を生まねばなりません。金貨は天の恵みです。王都に献上している場合ではないと思います」

「そうか……わかった。領主の決断を支持しよう。なにより私だってあの王は嫌いだ。おまえを傷つけたのだからね。家臣である前に、私はおまえの父親だ。迷わず信じた道を進みなさい。おまえの決めたことならば、私は従うし後悔しないよ」


 口ぶりは優しいけど、お父様の瞳に覚悟を感じた。


「ではお父様にお願いがあります」

「なんだい?」

「政務に復帰なさってください。せっかく隠居していただいたばかりなので申し上げにくいのですが……手が回りませんから」

「おまえは本当に優しいね。母さんに似た良い娘だ。休暇は十分。というか、私も時間を持て余していたのでね。このまま老け込むには早いと思っていたところだ。すべて任せなさい」


 古代の金貨を溶かして金に変え、それを資金に東の荒れ地の開墾などの事業に充てる。

 お父様には農地改革に専任してもらうことになった。



 金貨と農地の件はお父様が進めてくれる。安心してお任せするとして。


 今朝も書類、書類、書類と格闘。

 レオナルドと二人でコツコツ処理していった。


 一段落ついたところで。


 彼が椅子の背もたれに体重を預けて、ぐいっと背筋を伸ばす。


「午後はどうするんだいリリア?」

「あの、もし時間があれば……」

「デートのお誘いかな?」

「ち、違います!」

「それは残念だ。で? 私にお願いというのは?」

「乗馬を教えていただきたいのです」


 私の申し出に、美男子はあくびをかみ殺してボソリ。


「だめだ」

「即答ですねレオナルド様」

「当たり前だろう。そんなことをすれば、君が私の馬の鞍の後ろに乗ってくれなくなってしまうじゃないか」

「それは……そうかも」

「ほら。君が馬に一人で乗れるようになったら、きっと王国のあちこちに飛び回って外交に精を出すに違いない。護衛も無しでね」

「しません! ちゃんと身の丈にあった行動を心がけますから」


 冗談っぽく青年は笑う。


「はっはっは。からかうつもりはないんだ。すまない。けど、どうして馬に乗ろうなんて思ったんだい?」

「貴男がいない時に、馬を走らせることができればすぐに会いにいけるでしょ」

「私に会えないのがつらいのかな?」

「だから、ち、違いますって。今後は、馬車を呼ぶ時間さえ惜しい緊急事態があるかもしれないし」


 彼はあごに手を当てる。考え事をする時は、決まってこの仕草だ。


「わかったよ。今日から私が屋敷にいる時は、午後の一時間を乗馬のトレーニングにあてよう」

「え!? いいんですか?」

「君のたっての願いだからね」

「約束ですよ」

「ああ、約束だ。今日からレオナルド先生と呼びなさい」

「それはちょっと嫌です」

「つれないね」


 青い瞳が寂しげだ。ため息交じりに肩を小さく上下に揺らした。


 先生って呼ばれたかったのかな。


「レオナルド先生?」

「なんだいリリア生徒」

「やっぱりやめませんか。なんだか変な感じがします」

「そ、そうだねリリア。ええと、乗馬技術については、私なりにきちんと教えるから安心してほしい」

「よかった。ありがとうございます」


 断られるかもって思ったけど、教えてくれるんだ。


 と、レオナルドが胸元で手を打つ。


「そうだ。その代わりというわけではないが、君にもお願いがあるんだよリリア」

「私にできることでしたら、なんなりと」

「今後、私は領地軍の練兵も見ることになってね。書類整理を手伝えない日もあるかもしれない」

「でしたらこれまで通り、私が一日かけて書類整理を行いますから」


 事務作業は私でもできるけど、兵の訓練は武家の名門ドレイク家の彼が適任だ。まさしく適材適所っていうやつね。


 青年はスッと表情を引き締めた。


「君は領主だ。一つの仕事にかかりきりではいけない。幸い、資金に余裕もできるからね。事務職に適した人材を登用するんだ」

「ええ!? 登用……ですか?」

「年契約で1000万までの条件だ。君が探してくるといい」

「そんなこと言われても……」

「人を統べるのが領主の仕事だよ」

「有能な人材なんて、そうそういるものではありません」

「だからこそ腕の見せ所じゃないか」


 正直、人脈ならレオナルドの方が桁違いだと思う。


「レオナルド様のお知り合いに、良い方はいらっしゃいませんか?」

「いいね。初動は満点だ。まず私の人脈を探るのは、実に理にかなっている。だが、私の関係者を入れるのはよくないよ。シルバーベルク家がドレイク家にのっとられてしまうかもしれない」

「もう半分のっとられています」

「上手いことを言うね。リリアは聡明だ。その当意即妙さは外交で強みになる。やはり君は事務仕事ばかりしていてはいけない人だよ」


 絶対この人、からかってるでしょ。「私に頼るな」の一言で済む話なのに。

 

 はぁ……困った。事務方の有能な人材なんて。


 けど、これから領内の経済規模が大きくなってくれば、今のままではいられないわよね。


 都合良く内政に強い人物が見つかればいいのだけれど。


 私自身に刺繍の幸運は訪れないから、偶然には頼れないし。


 あれ?


 そういえば。


「どうしたんだいリリア? 満月みたいに目をまん丸くして」

「いるかもしれません。優秀な人材」

「そうか。心当たりがあるなら是非、その人物に話を持ちかけてみてほしい。まあ、私ほどの仕事はできなくとも、ある程度の穴埋めができるくらいで十分だけどね」


 外面の時は謙虚なのに、私と二人きりになるとちょっとドヤっとした感じになる。


 褒めて欲しいのかしら。有能な人でも、そういう気持ちになったりするのかも。


「レオナルド様はなんでもできますからね。すごいです」


 気の利いた褒め方ができない自分に絶望した。

 けど――


 彼は満面の笑顔だ。嬉しいみたい。


「ああ、そうだとも。これからも私をたくさん頼るといい。ただし、君の前でだけはだらっとさせてもらうよ」

「執務室で寝ないでくださいね」

「手厳しいね。まったく」


 軽口を言い合えるくらいに気易い関係が、レオナルドと作れているの……かな?

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