ああ勘違い その3
どうぞよろしくお願いします。
「剥け」
「ひぃやぇ?」
俺の口から思わずヘンテコな声が漏れた。
この状況はひょっとして、刑務所で新入りが受ける伝説の洗練・・・。
鬼のごつい手が俺のベルトを器用に手早く外し、ジーンズとパンツが膝下まで一気に引き下げられた。
「いや〜ん、やみて〜。見ないでぇ〜」
掘られるのか? 俺、初めて掘られちゃうのか? 初体験なのに。もっとムーディーなら良かったのに。
って良くねぇよ。
パニクって心の中で一人漫才をしてしまう俺。
「おいおい、にーちゃん。可愛いケツを、もじもじ揺するんじゃねぇーよ」
命令を出していたイケメン鬼が、スーツの右ポケットから、何やら銀色に輝く、金属製のケースらしきものを取り出す。
ケースの中からは、でかい針のついた注射器が。
ちょっと待て、薬か? 薬なのか? 薬漬けにされて犯されるのか?
でかい注射針が俺のケツに向けられる。
「それにしてもデカすぎだろ。何だよ、そのでかい針わよぉ」
直径5ミリはありそうだ。
この後にもっとでかい注射針が、何本も俺を貫くんだ。きっとそうだ。行きずりの男たちが、獣になって私の上を通り過ぎて行くのよ。
「すぐ済むからじっとしてろや。いい子だからよぉ」
情け容赦なくブスリと俺のケツに突き刺さる注射針。
「いって〜〜」
絶叫する俺。次はいよいよ・・・。
絶望の闇が俺を包み込む。
「はいIDチップの注入終わり」
どうやらでかい注射針から、管理用のIDチップが注入され、俺のケツの皮下に埋め込まれたらしい。
「はぁ〜? IDチップだとぉ〜? ビビらせてんじゃねぇ〜よぉ、クソ鬼がぁ。変な想像して覚悟決めちまったじゃねぇか」
「おぉ。スゲー威勢の良い兄ちゃんだな。ボス、こいつ鬼にしちゃいましょうぜ」
「うわははは。愉快な奴だなぁ、君はぁ」
極道鬼が豪快に笑った。笑い声で部屋が震えているようである。
「気に入った。次に来た時には飯でも喰わせてやろう。たらふく喰って、たらふく飲もうじゃぁないかぁ。活きが良いのが、あちこちにウヨウヨ居るし、新鮮な肉が選び放題だよぉ」
ゾクリっと俺の背中に悪寒が走る。
何の肉だよ。嫌だよ、二度と会いたくない。
俺は心底そう思った。
俺たちは、ようやく極道鬼から解放され一階へ戻り、外の空気を吸って、ようやく気持ちが落ち着いて来た。
「何なんだよ。あの極道モンわよぉ。メチャクチャ怖かったよぉ」
「入獄管理局の局長様だよ」
「獄卒のお偉いさんか?」
「バカ、俺ら獄卒と一緒にするんじゃねぇ。あのお方は鬼神様だ」
確かに本人も局長って挨拶してたけど、極道モンが高級官僚で良いのかよ。しかも鬼神って偉そうじゃないか。
俺たちは、足早に入獄管理局の建物から遠ざかる。
「これで、お前も立派な亡者の仲間入りだな。どれカルテを見せてみろよ」
亡者が立派とは思えないのだが。
「勝手に見るなよぉ」
俺のピンクのカルテには、表には小地獄への大雑把な道案内と、そこで受けるべき責め苦と期間が記載され、その責め苦に対する罪状が裏面にまで細かい文字で、びっしりと記載されている。
この表裏に記載されている内容は、この責め苦が終われば、次の責め苦の内容に書き変わるらしい。
俺は必死でカルテを取り戻そうとするが、次郎丸に軽くあしらわれてしまう。
「ピンクだから色欲の清算かぁ。あははは、この小悪党」
俺のカルテを見て大笑いする次郎丸。俺は何も言い返すことが出来ないじゃないか。
「お前も大概だなぁ。エロ本パクった以外にも色々やってるな。これなんてそんな傑作だぞ」
勘弁してほしい。俺の黒歴史の数々が公にされるなんて。
真面目に生きてりゃ良かった。俺は地獄に来て初めて、心底後悔した。
「タイトルが〈視姦と悪癖〉か。電車で対面の娘のパンツをガン見。それだけなら大した事はないが、家に帰ってノートに写生、ついでに射精ってかぁ。ぎゃはははは二十歳で、この体たらくかよ」
「漫画を描きたくて、絵の勉強してたんだよぉ」
それから散々、俺の罪状で楽しむ次郎丸。顔を隠して、しゃがみ込んでいる俺。
地獄、いやだぁぁぁ。お家うちに帰してぇぇぇ。
「はぁはぁはぁ、まずは等活地獄からだな」
笑いすぎで荒い息を吐く次郎丸を殴りたい。
「もう良いよ。俺、真面目に罪を清算するよ。だから等活地獄って、どんな所なんだよ」
俺は、恥ずかしさと悔しさで泣きながら聞いた。
「泣くなよ、みっともねぇなぁ。笑って悪かったよ」
俺は手の甲で涙を拭う。
どうもありがとうございました。