ここにも、そこにもバカがいる その1
どうぞよろしくお願いします。
厳つい顔に四本角、色付き眼鏡、白スーツ・・・いかにも本職的な鬼神が、とても庶民的な家の居間に正座をさせられていた。
「まったく、この子と来たら、不甲斐ないんだから。逆玉になって私たちの生活も、やっと豊かになると思っていたのに、問題を起こしてばかり」
「この役立たずが。とっとと出世して、豪勢な生活をさせろや。官給品の質が、いつまで経っても上がらんだろうが」
割烹着を着て眉間に皺を寄せた、下町のおばちゃんみたいな鬼と、浴衣姿で胡坐をかいた、おっさん鬼が、ぶつぶつと小言を続けている。
「ママんもパパんも、もう勘弁してほしいのぉ。僕も努力はしてるんだよぉ。でも部下の働きも悪く、運にも恵まれず」
「人のせいにしないの。ひろ君が、だらしないからでしょうが。本当に、親子そろって鼻糞なんだから」
「お、おいおい、このババァ。言うに事欠いて、自分の亭主を鼻糞だとぬかしやがったな」
「おうよ。あんたが特大の鼻糞だから、息子も鼻糞になるんだよ」
「なにおう。誰が鼻毛交じりの鼻糞だってぇ? この皺くちゃババァ。狸にでも食われてしまえ」
「カチカチ山じゃあるまいし、ふざけんじゃないよ」
目の前で始まった夫婦げんかに、オロオロするばかりのひろみちゃん。
それにしても下品な夫婦だ。
「ママん、落ち着いて。パパんも、もう少し冷静に」
「けっ、婿入り先から追い出されて、出戻ってきた恥知らずが、偉そうじゃねぇか」
そう、ひろみちゃんは、ついに早乙女家から追い出されてしまったのであった。
「本当に、婿入り当初は、入獄管理局の局長に抜擢されて、我が家も豪邸に移って喜んでいたら、あっという間に、不祥事を起こして豪邸も取り上げられ、官給品も格下げされて、元の庶民暮らし。とっとと跡取りでも作ればよかったのに、あちこちの女に発射しまくるもんだから、未だに孫の顔も見られない」
「まったく、俺と爺様の血を引いていながら、なんて不甲斐ないバカ息子なんだ」
「あら、鈴木家に有能な人物なんていたかしら?」
「爺様なんて、若いころに大王様に声を掛けてもらったり」
「ああ『鬼神たるもの下級職員でも、身だしなみには気をつけなさい』でしたっけ。真面目だけが取り柄の甲斐性無しだって、婆さんも嘆いていたものよね」
「この俺様も大臣に『見事な提出資料だ』と褒められるほどの男だ」
「始末書がね」
「お前、いちいちケチを付けないでくれるかな」
「ゴホゲホッ、ゴホゴホ」
隣の和室から咳き込む声が聞こえる。
「あら、相変わらず、自分の悪口になると聞こえるようね。等の奴」
「幾ら何でも義理の父に、その口の利き方はないんじゃないの?」
「フン、若いころに梅と一緒になって、私を、いたぶっていた癖に。あの爺ぃに、どれ程セクハラされたことか。等も宏も、とっとと召されれば良いのに」
「おいおい、穏やかじゃねぇなぁ、クソアマが。どさくさに紛れて、亭主までも亡き者にしようってか? ジジィだけならまだしも」
いやいや。爺さんも亡き者にしちゃダメですよ。
「あらあら、地獄で天国に召される事の何が、穏やかじゃないんですか? 喜ばしい事でしょう?」
「クッ、口ばっかり達者な」
「実力で決着付けますか?」
「ケッ、今日のところは勘弁してやる」
ひろみちゃんは、夫婦喧嘩の隙を見て、コソコソと這い、リビングから逃げ出そうとしている。
「お待ち」
ビクリと動きを止めて硬直する。
「ふぅ、いつまで言ってても、話にならないわね。こうなった以上、一族郎党、力を合わせて問題を解決するしかないわね」
「おっ? 斎藤家も力を貸してくれるのか?」
「鈴木家の力なんて鼻糞でしょう。うちも大した力はないけど、鼻糞よりはマシですから」
ギリギリと青筋を立てるが、支援して貰える手前、ぐっと我慢する宏であった。
「もう、久正さんに討伐隊の編成を、お願いしていますから」
「おい、ひろ子。お前、久正の話になると目が潤むのはなんでだ? ていうか久正は、お前ぇの甥っ子だろうが。なに色気づいてんだよ!」
ひろ子さん、なんだか顔付きまでキラキラ輝いているんですが。綺麗になってるんですが。
「久正さんに隊長を引き受けてもらって、鈴木家からも雑兵、三十人くらいは出せるでしょ」
「まぁ、掻き集めれば三十人くらいなら何とか・・・雑兵とはなんだ!」
「ママん、久正に隊長を頼めるなら、僕チンも頼もしいよ」
ひろみちゃんが笑顔に変わる。
どうもありがとうございました。




