毛根に根性さえあれば、いや想像力の問題でしょう その1
どうぞよろしくお願いします。
「そっち、危ないぞ」
「誰だ!」
俺は転移した先が不気味な場所で、不安に駆られてオロオロしていたところに声を掛けられ、咄嗟に身構えて振り返り、目を凝らして、声のする暗がりを見据えた。
「お、河童じゃん」
そこには、素っ裸の河童が立っていた。
「河童の妖怪が居るということは、異世界にでも飛ばされたのか?」
「河童じゃないし。俺、河童じゃないしぃ。俺様は伝説の」
なんとも間の抜けた顔に、少しだけホッとした俺は、この妖怪を弄る事にした。
いやいや、あなたは、そんな事やっている場合じゃないのではないかな。
「伝説の血の池地獄の主、河童の河太郎か」
「河太郎だけど、河童じゃねぇよ!」
「あ、やっぱ河太郎なんだ。名前はどうでも良いが、甲羅や水掻き、見事に光る頭の皿に、その嘴・・・じゃなくて可愛いアヒル口だなぁ、おい」
「おうよ、この可愛らしいアヒル口が、俺様のチャームポイントさ」
うーん、なんか憎たらしい。次郎丸的な匂いがする。
俺の胸中に黒い闇が広がる。
「で、河童の河太郎が、俺に何の用だ?」
「だから河童じゃないって」
「いやいやいや、アヒル口はともかく、その甲羅と、見事に手入れされて光り輝く、その頭の皿は、どう見ても河童でしょ」
「これは皿じゃねぇよ。禿げてんだよ! そうだよハゲだよ。文句あるか!」
「いや、文句はねぇけど・・・河童のアルシン」
「ダメ! 個人名はダメ。それに今時の人に、その人は分からんでしょう」
随分前にJリーグで活躍されて、結構人気のあった方ですね。分かります。
「じゃ、ザビエル禿げ」
「うーん、微妙だな・・・歴史上の人物でも、やっぱ個人名はダメなんじゃねぇ? それに宗教が絡むと、色々面倒臭そうだし」
「そうかぁ? 今更だと思うが・・・面倒な話しだな。じゃバテレン禿げでいいや。でバテレンさんは、俺に何の用だ?」
「それも、特定の宗教を差別する発言にならないか?」
俺は内心、ムカつきながらも社会的見せしめにされるのが嫌なので、発言を訂正する事にした。
「じゃ略して、バテハゲ」
「おい! 返って人権派を怒らせちまうぞ」
「これくらいなら偏狭な奴らも、笑って見逃して下さるだろうよ。それより何の用なんだよ。さっさと本題を言えよ。バテレンさん」
「いや、そっちは時空の狭間だから行ったら危ないよ。ってバテレンじゃねぇ、河太郎だ。ていうか、おまえ、初対面なのに異様に態度でかいな」
闇に溶け込むような黒いTシャツとジーパンの祐介は、軽くお辞儀をして挨拶をする。
「はじめまして、よろしくお願いします。取り敢えず河童の河太郎さんは、親切な妖怪なんですね」
「あ、こちらこそ、挨拶が遅れましてすみません。だ・か・ら、河童じゃないの。アルシンドでもザビエルでもバテレンさんでもねぇ。バテレンヘアの河太郎だ。って違〜う。馬鹿野郎バテレンヘアじゃねぇよ。良いか? よく聞いとけよ? 畜生道に何度も落とされた伝説の咎人、河太郎とは俺様の事だ」
バテレンさんは胸を張って、自己紹介を続ける。
「亀に堕とされた俺様を、思う様いたぶってくれた浦島を、楽園とだまして無人島に連れて行き、置き去りにしてくれたり、この俺様を、足が遅いとバカにして、笑いものにしてくれたウサ公を、言葉巧みに挑発して徒競走に誘い出し、レース前に差し入れと称して贈った、毒人参でヘロヘロにして勝利を収めた、伝説の咎人、河太郎とは俺様のことだ。どうだビビったかぁ!」
「なんか・・・ちいせぇなぁ」
祐介は、胸を張る素っ裸のバテレンさんをマジマジと観察してみる。
「チンコは露出してないのな」
「露出狂じゃあるまいし、ちゃんと収納してあるんだよ。尻尾の中にな」
ゴツゴツした感じの暗く狭い一本道、両脇は恐怖アニメに出てきそうな不気味な森、そんな中で危機感の欠如した祐介とバテレンさんは、実に下らない会話を続けている。
「でバテレンは、ここに住んでるのか? ちょっと、道案内を頼みたいんだけどさ」
「別に住んでるわけじゃねぇよ。俺も追われる身だ。ここは尻チップの発信が探知され難いから、潜伏場所にしているだけだ」
なんだ、バテレンさんも逃亡者か。
「俺も、ちょっとやばい連中に追われているんだ。ここは逃亡者同士、助け合ってだな」
「ちょっと待て・・・腰に刀・・・お前の左手、そのブレスは獄卒か?」
バテレンさんは、とっさに飛び退き身構える。
「獄卒じゃねぇよ。等活地獄レベル16からの逃亡者だ」
「ほー、それは豪勢な肩書だな。とても信用できねぇ」
バテレンさんは、じりじりと後退り闇の中に消えようとしている。
「ちょっと待て、本当だ。俺は等レ16を出されて、入獄管理局に連行された後に、ひろみちゃんの別荘に監禁されたが、なんやかやで、そこを逃げ出した者だ。それに、もし俺が獄卒だとして、お前を捕らえるつもりなら、四の五の言わずに黙って襲い掛かっているさ」
バテレンさんは足を止めて、考え込んでいるようだ。
どうもありがとうございました。




