獄卒も所詮亡者だな その9
どうぞよろしくお願いします。
「祐介、離さないよ」
それでも俺に優しく語りかけて来る。
これまでも、何度も何度も何度も、俺を抱える左腕を狙われるが、美紗子は俺の体を手放すことになる左腕への一撃は、武器を持つ右手と引き換えにしようとも、頭を差し出そうとも避け続けていたのである。
「お前は、それ程までに子供が欲しいのか?」
美紗子の肩からずり落ちるように離れた俺は、息も絶え絶えの美紗子に問うた。
それでも美紗子の左手は、俺の右手を掴んでいる。
「当たり前じゃないか。大王家だの跡取りだのは、今ではどうでも良い。あたしゃ惚れた男の、子供が欲しいのさ」
そう言うと、体を大きく痙攣させる。
「みんな、ちょっと待ってくれ」
初めて地に倒れた美紗子に、とどめを刺しに来るみんなを制して、俺は美紗子を膝の上に抱き寄せる。
「ひろみちゃんとは、親の言いつけで一緒になったのさ。ひろみちゃんは、大王家の縁者でいる事が何より大事なのさ。ゴフッ」
大量の血を吐いた美紗子の顔を、服の袖で優しく綺麗にする。
「鬼神なんて、みんな勝手なもので、地獄に似合った愛情の薄い哀れな生き物だよ」
美紗子は少し間を取り、呼吸を整える。
「そんな鬼神でも人を愛する事が出来る。それが分かっただけでも私は幸せ者なんだろうねぇ」
美紗子の目が優しく澄んで美しい。
「・・・私はあんたを愛してしまったのさ」
こんなに綺麗な瞳を見るのは初めてだった。しかし・・・
「すまないな。俺には仲間がいる。惚れた女たちもいる。お前と一緒に居てあげる事は出来ないよ」
そう言って、美紗子の体を冷たい土の上に横たえ、美紗子の手を優しく離す。
俺は立ち上がり、そのまま背を向けて一度も振り返らずに歩き去る・・・
「あなた! 惚れた女たち、とはどういう事? 惚れた女、じゃなくて〈たち〉が付くのは何故かしら?」
・・・ハズだった。カッコよくね。
「お、お蝶、言葉の綾だよ。それより空気読めよ。今、最高にカッコよかっただろう? 今のシーンで絶対、何人か泣いてるんだぞ? 良いか? お前は、それをぶち壊しちまったんだからな。折角のエンディングに水を差しちまったんだぞ。EDソングとEDロールをどうしてくれるんだよ」
「えっ⁉︎ そうなの? 私の方が悪い子ちゃんなの?」
「そうだ!」
「お蝶、心配ないの。こんなシーンで泣く人は居ないのでしゅ」
「ふぅ、死ぬかと思った。今まで一度も殺されるなんて感じた事はなかったのに、今初めて死ぬかと思ったわよ」
いつの間にか、美紗子が再生を終わって、色っぽい横坐りになっていた。
俺は、その姿についついムラムラと。
「そういえば美紗子は、俺を愛してるって言ったよな」
「何だい、今更言わなくても良いだろう。恥ずかしいじゃないかい」
マジかよ。俺って地獄ではイケメンなのか?
「顔は人並み程度で、いや、やや劣るかな? 性格は人としてアレなレベルだけど・・・本当にアレなレベルだよねぇ」
そんなにしみじみと言わなくても・・・
「・・・でもさぁ。それでも、あんたは光り輝いているよ。光り輝いているんだよ絶倫丸は。それに持久力は常軌を逸脱してる。まさに止む事を知らぬ、漆黒に光り輝く絶倫丸だよ」
だから絶倫丸は俺の一部分で、俺自身じゃないって。
「さいですかぁ。やっぱ下半身ですかぁ」
「当たり前じゃないか。セックスは最高の愛情表現だよ。そこに惚れて何が悪いってんだい?」
「まぁ、どうでも良いけど、俺は出て行くぜ」
「分かったわ。好きにするが良いさ。私も好きにさせてもらうよ」
俺は、みんなを従えて、早乙女家の別荘を後にした。
振り返りもせず、みんなを従えて。
「何でお前までついて来てるの? 今のシーンも最高にカッコ良かったでしょう? そこで別れたはずの女が、ノコノコついて来てたらカッコ悪いでしょう? なんでお前らはエンディングを綺麗に決めさせてくれないんだよ!」
「カッコいい? どこが? それに誰が別れたって?」
美紗子は小首を傾げた。その瞬間、美紗子が激しく嘔吐き、堪えきれずに両手を地面につけ、顔を上げて・・・
「うぅ・・・パパ、出来ちゃったみたい」
一瞬にして、その場の空気が凍りつく。
そういえば美紗子は、さっきも気分を悪くして、しゃがみ込んでいた。
千人狩りと恐れられた美紗子が、あの程度の戦闘で気分を悪くしたとは思えない。
本当に出来たのか? 出来ちまったのか? きっと、おめでたい事なのだろうが。
「俺の子か?」
ザクっと長巻で両断されてしまう俺。誰も庇ってくれない。
「クズなのでしゅ」
「クズだわ」
「最低のエンディングなのでしゅ」
おコンと橋姫がヒソヒソと語り合う。
「馬鹿か? 本当に死んでも治らない程に馬鹿なのか?」
美紗子が血相を変えて迫って来る。
「あれ程、ヤリまくっておいて、今更何を言うか。私はこの千年間、ひろみちゃんと、あんた以外とは子作りして無いんだよ。ここ百年では、あんただけだよ」
美紗子に迫られる俺の視界に、涙目のお蝶が肩を小刻みに震わせているのが見える。
ヤバイ、これは、ひじょーにヤバイです。
「逃げろ!」
「あっ! 逃げやがった!」
俺は、一目散に逃げ出した。
「パパァ〜。こら待てぇ〜。一緒に名前考えましょう。パパァ〜」
「あなた逃げるなぁ」
「腐れ種馬を逃すんじゃなかばい」
全力で追いかける美紗子にお蝶。面白そうに追いかけて来る徹斎。
おコンと、外道丸、橋姫は呆れ顔で後を追って来る。
牛頭馬頭の姿は、いつの間にか見当たらない。
「俺たち仲間だよなぁ。俺を置いていかないよなぁ。なぁ祐介。そういや、お前の元カノも地獄で迷子になってたぞぉ」
次郎丸まで追いかけて来る。って余計な事を言って、これ以上面倒を大きくするなよ。
これから軍隊にも追われ、ひろみちゃんにも追われる事になるはずなのに、これで良いのか? これからどうなるの? 収拾つかねぇよ。
「ナル・ア・ナル神様、どうかお助けを‼︎」
終わり。
終わり? 好き勝手にエンディングだとか言ってるけど、こんなチンケな終わり方なのか?
ですよね〜。そんなわけはありません。更にお下品さパワーアップして・・・
野望編へ つ づ く !
どうもありがとうございました。




