亡者を嬲るのはやめてください その5
どうぞよろしくお願いします。
「ちょっと質問だが良いか?」
仕方がないので、俺は今後の鬼との付き合いを考えて、とても大事な質問をする事にする。
「へい。何なりと」
「鬼って数える時は一匹二匹で良いんだよな」
『バキボグ』
またしても殴られる俺。
「失礼な奴め。俺たちゃ元人間だ」
「えぇ〜? お前ら人間だったのぉ?」
「あぁ、悪さが過ぎて鬼にさせられちまったんだよ」
鬼たちは目に涙を溜めている。
「今は鬼なんだな。じゃ一匹、二匹」
『バキボグ』
「お前ら良い加減にしろよ。本当にチェンジしちゃうぞ」
「そんな事より、さっさとどっちかに決めろよ」
チェンジすると言っているのに無視しやがって。まぁ良いだろう。選べと言うんだから選んであげましょう。
「んじゃ、紅白鬼で」
「毎度あり〜」
「何でだよ」
「だってお前、角一本だし。何だか下っ端ぽくて、弱っちく見えるしぃ?」
「ぶっ殺す‼︎」
「死んでるしぃ?」
「語尾上げすんな。何かすんげぇ〜ムカつくぅぅ」
金ピカ鬼が歯軋りして悔しがる。
「でもまぁ、あんたも悪い鬼じゃなさそうだ。こっちの紅白鬼が気に入らないときは、あんたにチェンジするよ」
「よ、よろしくお願いします! しかし何たる強かさ」
金ピカ鬼は立ち上がり、そう言いながら上着のポケットから、金色に輝く何かを取り出して、俺に手渡して来た。
「御用の際には、その笛を吹いてください。わたくしめが飛んで参りますです」
金色に輝く笛を口に当てて吹いてみる。
〈ピロロピー、ピロロピー〉
笛の形はオリジナルとは違うが・・・
「これを吹いたら、お前の手足が引っ込んで、ロケットになって飛んで来るのか?」
「何の事か分かんねぇが、まぁそんなところだ。しっかし古い事知ってるなぁ」
「あ、パクリを認めた」
「認めてね」
「いいや、認めた」
「認めてねぇ。さぁ俺も忙しい身だ。では、さらば」
「待てよ。待ってて。虎パン鬼っ娘と言い、お前と言い。パクリセンスなさすぎだ。新しい情報を仕入れろよ」
金ピカ鬼の足が不自然に早まり、門の中に消えて行く。
「さあ、邪魔者も消えた事だし」
「はい、そこに並んで笑って。はいチーズ」
紅白鬼を遮り、俺たちを地獄門の前に並べカメラを構えるベレー鬼。
俺たちは、つい釣られて笑顔を作ってしまった。
「お前もどっか行けよ」
俺は落ちている石を拾って、投げつける真似をする。
「まぁまぁ落ち着いて。取り敢えず中へ入るぞ」
紅白鬼が、俺の背中を押して促す。
「おっと、その前に自己紹介が、まだだったな。おほん、俺様が貴様を世話する次郎丸だ。これでも知る人ぞ知る剛の者で」
「へぇ〜、痔瘻かぁ。そりゃ辛いな。座薬要るか?」
「そうそう、痔の痛みには座薬が一番、肛門に押し込む時の、あの感覚がまた何とも言えず・・・って違うわ‼︎」
俺の胸を手の甲で叩き、見事なツッコミを見せる紅白鬼。
「貴様はまったく」
「俺の名前は」
「吉田祐介、シロウト童貞、二十二歳。プロフィールは見たよ。えーっと、確かお前の罪は自殺に、友人の姉ちゃんの下着と、エロ本の」
「わぁぁぁ〜、言うなぁぁ〜。お前らは、寄ってたかって亡者を嬲るんじゃねぇよ」
「いや、ここ地獄だし。亡者は嬲られてナンボだし」
大勢の亡者たちが見ている前で、とんでもない事を暴露しやがる次郎丸を大声で遮り、大騒ぎをする俺たち。しかし、亡者たちは無表情な顔をして列に並んだまま、関心なさそうである。
「何だか気味悪いな」
「五十年以上も列に並ばされたんじゃ、感情も退化するさ」
「五十年? 地獄に入るだけで五十年掛かるのか?」
「地獄の門は他にも三つあるが、どこも大渋滞だ」
次郎丸が肩をすくめてみせる。
「最後尾はもっと悲惨だぞ。でかい戦争が何度もあった上に人口増加で、死人の数は増えるばかり。おかげで地獄は大混雑で大忙し、生き返りの待機場所である天国はガラガラさ。急ピッチで地獄の拡張工事をやってたんだが、ちょっとトラブって、この有様だ。しかし、地獄と現世とでは時間の進み方も違うし、今のところ、挽回可能では、あるそうだけどな」
現世の少子化の原因は、そのせいじゃ無いのか?
「そういや、みんな日本人ばかりのように見えるな。ここは日本人専用か??
どうもありがとうございました。