地獄がこれで本当に良いのか? その4
どうぞよろしくお願いします。
小地獄の中と外では時間の進み方が違うので、ここレベル16内では作戦決行まで二ヶ月半程の猶予がある。俺たちは既に始まっているレベル16最強亡者決定戦を予定通りに行う事にした。
もちろん俺たちは一人も負けることなく、大会は終盤戦へ突入していた。俺にしてみれば、くじ運に恵まれたとはいえ上出来過ぎである。
「おコン、やっと団体戦がベスト16で、個人戦がベスト32まで来たな」
「そうなのでしゅ。団体戦は三日後が決勝で、個人戦は四日後が決勝なの」
今日の試合が終わり、俺たちは全員勝ち残っていたが、明日からは個人戦での仲間同士の対戦が始まる。
「明日は俺と橋姫か」
「絶倫王、よろしくね」
橋姫が俺の後ろから胸元に手を伸ばして、体を絡めて来た。
橋姫の胸が背中に当たって・・・当たるわけないけど、なんかムラムラ来るぅ〜。
隣に座るお蝶が橋姫を押しのけようとするが、余計に橋姫が密着して来る。
そんな所に手を伸ばさないで、あぁ〜。
「あなたも感じてないの!」
俺はいつものように、後頭部を引っ叩たかれる。
お蝶に引っ叩かれた後頭部も痛いが、正面に座っている外道丸のいじけた視線も痛いです。
翌日、試合は団体戦から始まる。
『第三試合、〈絶倫王と愉快な仲間たち〉対するに〈戦国の覇者〉の対戦です』
臨時に雇った女性の亡者が、大声を張り上げて対戦を紹介する。
事前の情報では信玄公と武田家家臣団の猛者のチームらしい。
『では両チーム、頃合いを見て適当に試合を開始してください』
うーん、何たる良い加減。しかし、このやり方が、ここで戦い慣れた、いつものスタイルなのであった。
観客は戦闘場の竹矢来の外から、固唾を飲んで見守っている。
俺たちは五人。相手は団体戦人数上限の七人だ。
横一線に並ぶ相手に対する俺たちは、俺を真ん中にして左に外道丸、右に橋姫を配し、俺の左後ろにお蝶、右後ろにおコンを配していた。
相手は全員が二メートルほどの槍を持っており、腰にも刀を差している。明らかに戦場慣れした戦闘スタイルに見える。
〈信玄公チームと絶倫王チームか〉
〈楽しみな一戦だな〉
何ですとぉ。じゃあの真ん中の髭を生やした豆狸が、かの有名な信玄公か? しかし囚人服が似合わねぇなぁ。
相手は信玄公を中心に、俺たちを包み込むようにジワジワと、両翼から押し出してくる。
「信玄は戦国の覇者じゃないじゃん」
俺の一言に、ピクリと頬を引きつらせる対戦相手たち。
こちらも俺と外道丸、橋姫がジリジリと前に出る。と見せかけて俊速のおコンが一気に飛び出し、豆狸の首をあっという間に掻き斬った。
「呆気なく倒れる信玄公。なんて思った? バーカ、それは影武者。本物はこっちだよ〜ん。ゲフ」
向かって右端の痩せたおっさんが、はしゃぐがアッという間に、お蝶の苦無が額に刺さり息絶えていた。
戦闘に無駄話は禁物という見本の様な、見事な最期であった。
これで五人対五人、俺は迷わずに左へ飛ぶように突っ込み、お蝶と橋姫は右へ同じように突っ込んで、お互いに一番端の一人を斬り倒した。俺を見失って一瞬動きが鈍くなった中央へ外道丸が斬り込み、おコンと一緒に斬りまくっている。
勝負は二分も掛からずに終わってしまった。
「おっさん、何やってんだよう。よえぇ〜クセによぉ」
あらあら本物の信玄公が足蹴にされていますね。
「まったくよぉ。生前のよしみで、仕方なく仲間にしてやってるんだから、ちょっとは控えてろよなぁ」
信玄公、仲間に散々悪態つかれ足蹴にされて可哀想だ。しかし地獄の亡者に身分は無いしな。
団体戦が一通り終わり、いよいよ個人戦。俺と橋姫の登場だ。
俺は団体戦と同じく一刀を構え、橋姫も反りが浅めの太刀を構えている。
橋姫は俺が一刀のままである事を、不審に思っているようだ。
『レベル16が誇る〈世界の絶倫王、果てなき種馬〉対するに』
「ちょぉぉっと待てやぁぁ。種馬で終わんなよ。せめて名前くらい入れろやぁ!」
『〈可憐な男の娘、バイセクシャル橋姫〉の対戦です』
「いやん」
橋姫が頬を赤らめるが、俺は激しく言いたい。それで良いのか! と。
〈いよいよ、決着の時か〉
〈いや、泥沼の三角・・・四角関係に終止符を打つためには、絶倫王と菊門の外道丸が対戦するしかなかろう〉
何だか良からぬ会話が耳に入ってくる。しかし、とうとう外道丸にも面白気な通り名がついた事に、俺は感無量であった。
そう思っている間に橋姫が摺り足で間合いを詰めて来た。
お互い手の内を知り尽くした間柄だ。
「ん」
俺は間合いが開いている間に、刀の柄と一緒に握り込んでいた右手の小柄を、橋姫の眉間を狙って投げつけた。
「っ」
首を右に傾げて避ける橋姫の右手に向かって素早く飛び込み、橋姫の右籠手に小さく斬りこむ。
「ふん」
右籠手を撃たれた橋姫だが傷は浅く、すぐさま籠手を返してくる。
「頂きぃ」
俺は、その籠手を外して橋姫を袈裟斬りに両断した。
〈すげぇ。種馬すげぇよ〉
〈今の勝負は五秒掛ってないんじゃないか?〉
観客から感嘆の声が聞こえる。
気持ち良いなぁ〜。もっと褒めてぇ。
〈おコンちゃんより早えんじゃねぇか?〉
〈それは無いだろう。我らがアイドル、おコン嬢を上回るなど断じて認められん〉
〈確かに技も早いが、あっちも早いらしい。まるでファランクス並みの速さで連射できるそうだ〉
〈何と、まことか? そのような化け物に、おコン嬢までもが夜な夜な・・・クッ〉
もう良いです。黙っててください。
男たちが涙を蓄えた目で天を仰いだ。
どうもありがとうございました。




