地獄に神は居ないのでしょうか その2
どうぞよろしくお願いします。
「・・・そう言われても、変わった事と言えば一人で戦っていた頃に、俺の肛門から神様の声が聞こえた事くらいかなぁ」
「はぁいぃ〜?」
外道丸が素っ頓狂な声をあげて、
「無残な」
橋姫が目頭を押さえ、
「・・・」
お蝶は言葉なく俺に縋りつき、
「ああ、あの時の」
おコンは労わるように、俺の頭を撫でている。
「ちょっと待てぇ!! 本当だって。本当にケツの穴が喋ったんだよ。ギョウ虫が痒くて、肛門を覗いたら〈戦え、戦って勝てば救われる〉みたいな内容でさぁ。きっとナル・ア・ナル神様が、俺の肛門を使って喋ったんだ。俺の口と肛門で、俺と神様が会話出来るようにさぁ・・・だから哀れむような目はやめてくれぇ。俺、本当に聞こえたんだよ。本当にケツの穴と会話・・・したんだよ? あれ? ナル・ア・ナル神様が・・・ケツの穴で? 俺、何を言ってんだろう。壊れてる?」
「ナル・ア・ナル神様て何だ?」
外道丸は首を傾げて、
「ナル・ア・ナル神様なんて知らないわ」
橋姫は腕を組み、
「ナル・ア・ナル神様は、ダーリンが作り出した妄想の神様よ」
お蝶は涙で濡れる顔を両手で覆って、
「ナル・ア・ナル神様は、おにぃたんの心の支え」
おコンは俺を哀れむような目をしている。
俺は段々、自分の正気が信じられなくなって来た。
「うんうん、私は信じるわ。だから大丈夫。落ち着いて」
お蝶が優しく俺を抱きしめて、慰めてくれる。
「ヒック、ウ、ウゥ。ヒク・・・ありがとう、お蝶。俺、きっと地獄の生活が辛くて心の風邪に罹っているんだ」
「もう良いのよ。もう大丈夫だから」
しゃくり上げるように泣きじゃくる俺を抱く手に力が入る。
「あの時は、おコンもとても悲しかったの。人が壊れていく様とは、こんなにも無残なものなのかと・・・それ以来、定期的にズボンを下ろして、肛門様を拝むのでしゅ。可哀想な、おにぃたん」
おコンが怒ったように唇を噛んでいる。その目からは、大粒の涙が溢れ頬を濡らしていた。
やはり見られていた。おコンには、あの光景を見られていたんだ。
「穴がち・・・失礼。強ち間違えでもないかもしれないよ」
おいおい、言葉で言っても漢字間違いの洒落はわからないって。
「勘弁してよ。外道丸まで壊れちゃったの?」
「落ち着け橋姫。絶倫王は、その時期は素手で戦っていたのだろう?」
「うん」
俺は上目遣いに外道丸を見て、小さく頷く。
「もしブレスが機能していなかったのであれば、尻のIDチップに音声を送ったのではないだろうか」
「そんなことが出来るの?」
お蝶が聞き返す。
「俺が玉を潰され、チップを埋め込まれた時に、そのような緊急用の機能がある、と聞いた覚えがある」
「それです!」
お蝶の顔に光が差した。
「お、俺、大丈夫なの? 壊れてないの?」
「あなた大丈夫よ。きっと、その声の主は次郎丸だわ」
「おにぃたんは、あんまり壊れてないのでしゅ。少しだけなの」
「えっ!?」
また涙目になる俺。
「おコン!! 大丈夫よ。あなたは肛門様から次郎丸の声を聞いたのよ」
「ナル・ア・ナル神様は次郎丸だったのか?」
「そうよ、あなた。だから安心して」
お蝶の優しい言葉も、ショックを受けた俺の耳には届かない。
「何てこった。次郎丸がナル・ア・ナル神様だったなんて」
俺は生前も死後も含めて、最大の衝撃を受けていた。
あの紅白鬼の軽薄そうな、とても尊敬に値しない次郎丸が、ナル・ア・ナル神様だったなんて!
「あれ? このバカ、何か激しく勘違いしてない?」
自分の亭主を、このバカって。
「本物のバカが居たのでしゅ。あの言い伝えは間違っていたのでしゅ。死んでも治らない本物が、此処に居たのでしゅ」
おコンまで酷くない?
「いいかい。よく聞いてね種馬君。あの声はナル・ア・ナル神様ではなくて、次郎丸がチップを通して君に話し掛けていたんだよ」
「あなた、よく考えて。神様がケツの穴から話し掛けるより、次郎丸がケツの穴を使う方が有り得る話でしょう?」
俺は外道丸やお蝶たちに説明されて、やっと状況が飲み込めて来た。
「クッソー、次郎丸め! ナル・ア・ナル神様の名を騙りやがって」
俺は怒りで目の前がクラクラして来た。
「でも、それ以降あのクソ野郎からの連絡は何もないぞ」
これは自信を持って断言出来る。
「それも変ね。外道丸、どう思う?」
「ブレスのスイッチが入れば、俺たちの居場所はモニター出来ると説明を受けたんだが。不祥事がバレるのが怖くて、大っぴらに動けないとか」
橋姫と外道丸は、顔を見合わせて考え込んでしまう。
「ウダウダ考えていても仕方がない。難しい事は後回しだ。取り敢えず仲間を増やそう。次郎丸も、そのうち思い出したように接触して来るかもしれないしな」
外道丸が、みんなにそう告げる。
「仲間を増やしながら、考えようじゃないか。ここは地獄、時間はたっぷりある」
外道丸の意見に、みんなも異論はなかった。
どうもありがとうございました。




