やはり亡者には情け容赦ないのです その1
どうぞよろしくお願いします。
「それにしても、あいつ等、どれだけ強いんだよ。全く歯が立たなかったじゃないか」
「仕方ないわよ。彼らは古参の亡者、私でも彼らに比べれば、ひよっ子ですものね」
俺は童子組に負けてから、お蝶を相手に接近戦のスピードを上げる練習を繰り返していた。
「小地獄は責め苦の効率化から、時間の進み方が外の時間より早くなってるのよ。童子組は小地獄体感時間で、一万年くらい居るからスキルが桁違いなのよ」
「マジか‼︎ すげぇな」
一万年もここで過ごして精神が壊れていないのは、時間の感覚がリセットされる事もあるのだろうが、人並みはずれた精神力の賜物ではないだろうか。
「俺、追いつけるのか?」
「追いつくのは無理かもね。でも一万年いたからと言って、ずっと強くなり続けるものでもないわ。心身ともに到達点の限界があるのよ」
「なるほど。納得だ。俺は指導者に恵まれて急速に成長できた。しかし、俺の到達点って、とても低そう・・・」
序破急の感じも何となく掴めてきている。無我の境地ともちょっと違う、意図した行動を無意識に行う、意識と無意識の間と言うか、自分を自分で眺めるような感覚とでも言えば良いのであろうか。
そして、ある程度修行に納得が行くと、対戦相手との戦闘で成果を試し、実戦経験を積んで行く。
近頃では負ける事も少なくなり、連戦連勝の俺たちであった。
「あなた、頼もしいわ」
そんな俺を惚れ直すお蝶。
「がははは。任せとけ、お蝶は俺が守ってやる」
俺って才能あるんじゃないのか? 千年もここにいれば最強なんじゃね?
童子組に負けた事などすっかり忘れ、逆上せ上がる俺。そんな俺に、お蝶は優しく微笑んでくれる。
調子づいた俺は、それからも何度か挑戦するが外道丸、橋姫の童子組には、まったく歯が立たない。確かに歯が立たないのだが、俺はしっかりと手応えは感じていた。
お蝶も俺との修練で更に強くなっているようだが、俺に打ち込まれることも多くなっている。
「俺は宮本武蔵で行く。両刀使いだ」
「彼、弱かったわよ」
「えっ?」
「一回戦ったけど瞬殺だったわ。みんなからも〈口だけの武蔵〉だとか、〈ハッタリ武蔵〉とか言われていたわ」
「ちょっと待てぇ。あの吉岡一門を撃破して」
「撃破してないし、吉岡兄弟も殺されていないし」
「佐々木小次郎をやっつけて」
「弟子たちが寄ってたかってボコったの」
「二刀流の剣聖とまで言われた」
「宣伝上手ね」
あらあら身も蓋もない。
「そ、そなの?」
衝撃の真実を聞かされ驚きを隠せない俺。
「バカねぇ。あの頃の決闘なんて、どんな手を使っても勝てば良かったの。たとえば決闘までの間に、相手の家の井戸に毒を投げ込んだり、大勢で嬲り殺したり、嘘だって平気で吐くわよ。負けても勝ったと言い続ければ、みんなが信じて、真実と思われるようになるからね」
「マジかよぉ。本当に、そこまで酷かったのか?」
「地獄で誤魔化しは出来ないもの。獄卒も、武芸者たちの売名の手口に、舌を巻いていたそうよ」
地獄に堕ちたら、身も蓋もねぇな。
「ここではハッタリ武蔵と言われていた武蔵も、死後随分経ってから現世で自分の評価が高くなっている事に、酷く驚いていたそうよ」
「ちょっと気になったんだが〈言われていた〉とか〈いたそうよ〉とか、過去形なんですけど」
「だって彼は、もうここには居ないもの」
「獄卒に勝った?」
「ハッタリ武蔵が勝てるわけないじゃない。彼は精神を病んじゃって、試験を受ける事なく落第したわ。今はどこかの小地獄で獄卒をしてるはずよ」
「落第?」
俺は、訳が分からず首を傾げる。
どうやら獄卒に勝つ以外にも魂が消耗して消える前に救済措置として、ここから出してもらえるらしい。
「そうかぁ。あなたはレベル16の詳しい説明を聞いていなかったのよね」
そう言って、お蝶がレベル16について説明を始めた。
「何ですとぉ〜。そんなのアリかよぉ」
「アリなのよ。昔から地獄では亡者の反乱が絶えないの。ちょっと考えればわかるでしょう? 我々は死んでも生き返り、絶え間なく責め苦を受け続けるだけのアンデッドなのよ」
確かに。反乱を起こして殺されたとしても生き返るし、どんな大怪我も再生するし、魂が消滅するのは輪廻転生の仕組み上、あまり良くないらしいので救済措置もあるしで、素直に地獄の責め苦を受けるくらいなら、戦った方がマシと考える奴も出てくるのは当然か。
「だから、地獄では対反乱亡者用の軍隊が必要なの」
「それで兵隊候補の訓練を兼ねた徴兵施設が、ここなのか。で、武蔵は不合格と」
「そうよ。だから私たちが試験官に勝てば、晴れて地獄の番犬と言うわけよ」
「何だか嫌だなぁ」
「でしょう? だから私や童子組など、結構な数の亡者が試験を受けず敢えて、ここに留まっているの」
俺はそんな理由があるとは、つゆ知らず、能天気に此処を出たいと言っていたのか。
「でもさぁ、いつまでも留まっていられるものなのか?」
「さあねぇ。でも童子組のような強い者たちを、ここから出して反乱側につかれるよりは、ここで飼い殺しにした方が良いとは思わない?」
「じゃ、ここを卒業して軍を裏切って抜け出せばどうよ」
「そこが問題なのよ。地獄側もバカじゃ無いわ。軍を裏切られないように、何をされるか分かったものじゃないでしょう? それが怖くて、私たちも動くに動けないのよ」
「洗脳とかか。確かに、不気味だな」
「噂では絶対に逆らえない方法があるらしいの。だから私たちは、どっちつかずで、ここに留まっているわけ。長年居れば知り合いも増えるし、意外と楽しい事も多いしね。転生は出来ないけど」
「う〜ん」
俺は考え込んでしまった。
ここは兵隊選抜、戦闘訓練、更に危険分子隔離のための施設という事か。
「あら。悩むことないわよ。私はあなたと一緒なら、反乱亡者でも地獄の番犬でも構わないわ。元々、御庭番と言う犬みたいな稼業をしていたんだしね」
「それもそうだな。俺もお蝶がいれば何でも良いや。どうせここは地獄だしな」
という事で俺たちは、とっとと此処から出る方を選択したのであった。
どうもありがとうございました。




