修練の成果はなんか虚しい その6
どうぞよろしくお願いします。
「勝てねぇ〜。ってか全く歯が立たねぇ」
何度やっても勝てない。十回に一回くらいは、手傷を負わせることはできるが、毎回斬り殺されてしまう。相手を橋姫に変えても、それは変わらなかった。
お蝶の方は、俺よりマシなようで対戦する二人も、明らかに本気度が違う。
それにしても俺の方は酷すぎる。
右から攻めても左から攻めても、上下左右、卑怯な手、あらゆる組み合わせを駆使しても、上手くあしらわれて浅傷がせいぜいであった。
「なぁ、教えてくれよ。何が悪いんだよ」
「力量の差だな。うん」
にべも無い一言。
「一に修行、二に修行。斬り合いの感覚と、タイミングやら間合いやらを磨くと良いよ。でも肝心な打ち込むスピードや膂力が足りないけどね」
「結局、全部ダメってことかよ。俺が貧弱君ってことか。気持ちじゃ負けてないのに」
「我々レベルの戦闘で、今の君に一番足りないものは技や精神じゃなく身体能力だよ」
「まぁ滝に打たれたり座禅したりで、あんた達に勝てるとは思ってないけど、体を鍛えただけで勝てるとも思えねぇよ」
「尤もだ。俺の考えでは『体』『技』の順で鍛えるべきだと思う。修行に打ち込めば『心』は、意識せずとも自ずと鍛え上げられるものだ」
「それに、私たちには何となく絶倫王の動きが分かっちゃうから、楽に対応できるのよ。だから私らの反応を超える攻撃が必要ってことなの」
さらりと難しい事を言ってくれる童子組。
その後も俺たちは幾度か戦い、俺もお蝶も一度も勝つ事なく戦闘を終えた。
「絶倫王は接近戦が向いているね。相手から離れ過ぎず。手元で戦えれば良いかもね」
外道丸は、ちょっと言葉を切って何事かを考えている。
「最後に一手如何かな? 恐らく何かの切っ掛けになると思うよ」
俺は外道丸に誘われるがままに、立ち合う事にした。
その構えは、テレビか何かで見た事がある。
示現流、蜻蛉の構え。
ビンビンと気迫が伝わって来る。
俺は正眼に構え初太刀に備えていた。
外道丸が太刀を高く掲げた蜻蛉の構えのままに、一気に間合いを詰めて。
「キェーィ」
裂帛の気合いと共に体ごと俺に飛び込んで来た。
“うおぉこの勢い!!”
外道丸は勢い込んで深く踏み込み、踏み込んだ足で急ブレーキを掛けるように踏ん張り、その勢いを太刀に乗せて撃ち下ろして来る。太刀を撃ち下ろした時には、外道丸の踏み込み足は俺の股倉に入り込んでいた。
まさしく真っ二つ。体当たりをかまされたと思ったら死んでいた。
「もう一丁!!」
再生した俺は、更に勝負を挑む。
今度は様子見をやめて、俺も全身に気迫を込めて外道丸に突っ込んで行く。
「キェーィ」
「リャャー」
互いに躱すことも受ける事もせず、初太刀を撃ち合わせた。
一瞬ではない。明らかに俺の打ち込みの方が遅い。
斬り込みの速さも、重さも外道丸に及ばない。
更に勝負を望み、外道丸も快く応じる。
「来いやぁ!」
俺は満身に気合いを込める。
外道丸が蜻蛉の構えで突っ込んで来た。
最初から初太刀を交わすことに集中していた俺は、俺の両脚の間に外道丸の足が飛び込む前に、後ろへ身を引いて初太刀を躱すことが出来た。
“よし”
次の瞬間、目の前に左膝が地面につく程、深く斬り込んでいた外道丸が、マリが弾むような勢いで斬り上げて来た。
俺はなす術もなく逆袈裟に斬られてしまった。
「嘘だろぉ! 示現流は初太刀を外せばいいんじゃ無いのかよ」
「一般的には、そう言われているな。しかし連続技の無い流派なんて、この世に存在しないし、まことの強者は弱点を放っておかない」
なるほど、そう言えばそうだな。
「下手とやる時は初太刀を外せば良い。もし上手とやる事が有れば、返し技、連続技にも気をつけることだ。それと、これが身体能力の差だ。実戦では技よりも力と速度を上げる事だ。と言っても苦しい修行は精神論で乗り切るしかないがね」
「御教授、ありがとうございます」
「俺たちは、ここに居るからいつでもおいで」
「あっざす」
外道丸との戦闘経験は、今までの戦闘や修練以上に俺のためになった。
身体能力の大事さ。その身体能力を活かすための精神力。その上に相手を斬り殺す技がある。それを、身をもって知ることが出来た。
どうもありがとうございました。




