修練の成果はなんか虚しい その4
どうぞよろしくお願いします。
脇差よりも長い刀でも修行の日々は続く。
俺がヘマをすれば、いつも的確にアドバイスをくれる。
「相手を斬る時は、肩口からの袈裟か横なぎの胴が良いわよ。それから刀で斬るときは、刃筋をたてること。刃がブレると刃こぼれするし奇麗に斬れないわ」
と言うわけで、俺は刃がブレずに、真っ直ぐ斬り込むための修行にも精を出す。
川に入って、刃筋を真っ直ぐに立てるために行う水切りの修練では、脇差を水面に叩きつけるように切り込む。刃筋が狂うと水中で脇差が思うように真っ直ぐには進まない。
色んな角度での斬り込み。水中からの斬り上げ。それを両手、右手、左手で気が遠くなるほど、毎日毎日繰り返し行った。
お蝶との色んな武器を使用した戦闘訓練では、毎度の事ながら俺は何度も殺された。
実戦で何よりも大切な身体能力を高めるための筋トレも、毎日欠かさず行い、俺の体は日毎に鍛え抜かれて行く。なんだか戦闘猿になった気分だ。
「対戦しに行くわよ」
頃合いを見てお蝶が、俺を実戦に連れ出した。
二人で手を取り合い、お蝶が対戦相手をイメージして転移すると、目の前に屈強な男が三人立っていた。
三人とも七、八十センチ程もありそうなブッシュナイフのような武器を構えている。
今回の俺の武器は脇差ではなく六十三センチほどの刀だ。突きより斬るタイプの俺の刀は反りが深い。
「おやおや最近噂のお蝶と、その色か」
「色って俺のことかよ」
「こりゃ良いや。俺も絶倫王を見てみたかったんだ」
「やっぱり俺の通り名は絶倫王ですか」
「底無しなんだってな」
「何がですか?」
真ん中に立つ男が裕介の目の前に進み出る。
「手練手管のお蝶を骨抜きにして、なお休むところを知らず、漆黒に光り輝く暴れん坊将軍、絶倫丸こと、その逸物は鬼神のそれを上回り、精を放つこと止むところを知らずと、歌にも歌われた。絶倫王祐介殿か」
酷くなってない? やめてよぉ歌にも歌われてるのぉ? 暴れん坊将軍の絶倫丸? 俺のナニまで通り名で呼ばれているの? 漆黒ぅ? そんなに黒く無いよ? 光り輝くってナニが? 鬼神を上回る? ジャパニーズの平均くらいだよ?
「まぁ詳しい話は対戦の後だ」
真ん中の首領らしい男が身構えた。
「あんたら、うちの旦那を鍛えておくれ。あたしらは、そのうちに獄卒を殺りに行くからさ」
お蝶は少し離れた所から崩した口調でけしかける。
「マジかよ。任された。ただでさえ絶倫王と手合わせできるんだ。本気も本気で掛からせて貰うぜ。野郎ども、手加減すんじゃねぇぞ。みんなで一気だ」
「おう、やらいでか。その代わり後で暴れん坊将軍を拝ませてくれ」
「俺も絶倫丸と記念撮影してぇ。頼むぜ絶倫王」
お願いです。もう死にたいです。勘弁してください。
俺は刀を正眼で構えて対峙する。それから、ゆっくり左肩の方へ高く刀を引きつける。
「うりゃ」
俺の動きに釣られるように、俺から見て右側の男が気合いと共に突っ込んで来た。その動きに合わせるように左前方にいた男が、俺の後ろへ回り込む。
俺は刀を交えずに身を躱して、軽く牽制を入れる。
「そりゃ」
後方に回った男が俺の作った隙を見て、斬り掛かり、それに合わせて他の二人も動きを見せる。
「頂きぃ」
俺は深く踏み込んで目の前の相手に斬り込み、体を捻りながら二人目へと刀を薙ぐ。
「ふん」
攻撃は躱された。
俺は腹に力を入れて更に剣を振るう。
互いに手傷を負いながらも刃を交える。
首領が大きく踏み込んで放つ頭上への一撃を躱し、俺は、その右手を斬り落とした。
留めは後回しにして、手下の一人を袈裟に斬り落とす。
「参った」
首領が負けを認めて、勝負は一分も経たないうちに終わってしまった。
「あなた、危なかったわね」
「おう、また殺られると思ったよ。神様に感謝だな」
俺は冷や汗を拭いながら答えた。
ナル・ア・ナル神様、ありがとうございます。
「馬鹿野郎。相手が左利きなのに右利き相手と同じ動きをしてどうするよ」
首領が手下を叱りつける。
「つい癖で・・・左構えとは最近やってなかったもんで」
実は一瞬右構えになったりして、フェイントを入れて誘っていたんですがね。
「あれで、こっちの流れが出来たよ。逆に来られてたら、受け流して凌ぎながら隙を窺うつもりだったけどね」
俺たちはお互いの反省点や、良い所を大いに語り合い、再戦を約束して別れた。
ナニの約束は・・・。また変な噂が立つのかな。
「しかし、みんな良い奴だな。極悪人だと思っていたから、最初の頃はすごく怖かったけどなぁ。でも、あいつらも何だかんだ言ってアドバイスくれたり、励ましてくれてたなぁ」
「みんな、ここに来てすぐは酷いものだったわよ。残忍極まりなく手がつけられない。でもねぇ、ここに長いこといる亡者たちは戦闘の達人ばかりだから、普通の新人は殺されまくるのよ。それで鼻っ柱も折られて、段々アクが抜けて行くの」
「お蝶も酷かったのか?」
「私も御庭番で随分人も殺したし、残忍な拷問もして来たわ。腕に自信もあったから、数えきれない程の亡者を徹底的に殺しまくったわね。その頃に徒党も組んでたのよ」
その話は、以前聞いた覚えがある。
何でも、その頃の通り名が〈首刈りお蝶〉本人は、その呼び名が嫌いで、その呼び名を口にした者は、必ず残忍な方法で殺していたとか。
俺も調子こいて、お蝶を怒らせないようにしよう。
「あなた、今度はもっと強い相手を念じようね」
お蝶が俺に抱きついて来る。
こうしていると、とても可愛らしい姉さん女房なんだけどね。
俺はつい、ニマニマしてしまう。
「あたな何を、にやけているの?」
暑くも寒くもないが、囲炉裏に火を焚いて寛ぐ俺たち。いつ強者が現れるかもわからない状況で束の間の安息を得る。
安息って、ここは地獄だよ?
「しかし地獄って便利だな。怪我もすぐ治るし、死なないし、クソも小便もしなくて良いし。肉は食ってるのにどうなってんの?」
「そうね幾らエッチしても眠くならないし」
その割には、生きている時の習慣のせいか、良く寝ている二人であった。やっぱり睡眠は地獄での精神安定剤的なものなのだろうか。
「そう言えば、お蝶に会う前は寝てると、よく極上の毛皮に包まれる夢を見ていたなぁ」
「ふふふ、今は私が包んであげているから、見なくなったのよ」
そう言って俺の顎を撫でてくれる。
そんな事されたら催しちゃうんですけど。
「さあて、次行きましょうか」
「よっしゃ〜、行くかぁ」
俺たちは立ち上がって、瞬間移動する。
どうもありがとうございました。




