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死んだらみんな地獄へ転生  作者: 一無
第一章 地獄転生編
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こんな責め苦があってたまるか その4

どうぞよろしくお願いします。

 戦闘訓練以外では意外と優しく、俺の愚痴にも笑顔で付き合ってくれるし、多少のオイタをしても、死なない程度の折檻(せっかん)で済ませてくれる。

 俺は、そんなお蝶の事をもっと知りたいと思っているのも事実であった。

 「あなたは自信を持って良いわよ。格闘も強くなってるし、あなたは信じられないくらい精神がタフだわ。対戦で傷付いたり死んだりすると、激しく精神を消耗するものなのよ」

 そう言ってお蝶は、俺の頭を優しく撫でてくれた。

 精神が疲れている時に優しくされて、俺は思わず涙を流してしまう。

 「惚れました。結婚してください」

 自分でも信じられない言葉が、俺の口をついて出た。疲れているので、潜在意識で望んでいる願望が現れたのであろうか。

 「な、ななな、何を言ってるの? この子ったら何を言ってるのかしら?」

 急に顔を赤らめ、もじもじと身をよじるお蝶。

 処女でもあるまいし・・・まてよ、こいつは元御庭番と言っていたな。きっとまともな恋愛なんて経験した事がなかったんじゃねぇの? そして任務中に命を落としたとか? で、こんな玉を潰された男しか居ない地獄では、まともに異性と付き合えるはずもなく・・・。

 俺は魔が指したことに、少しからかってやろうと思ってしまった。

 「お蝶さん。いや、お蝶」

 俺は、お蝶の手をしっかり握って彼女の目を見つめる。

 お蝶はアタフタと目を()らす。

 慌てるお蝶の顎に指を添えて、顔をクイっと俺の方へ向け直し。

 「お蝶、俺の目を見ろ、俺は本気だ。お前の強さと優しさ、それにお前の美しさに惚れた。俺は本気だぜ。マイハニー」

 対人恐怖症だった俺は、仕事も私生活も上手くいかず、友達も居らず、難病まで患い、奇跡的に交際に漕ぎつけていた彼女には、エッチもさせて貰えずに捨てられ、ヤケになり湯水の如くお金を使って遊びまくり、風俗界の有名人となり、その挙句に多額の借金をこさえて自殺した恥知らずだ。今更この手の芝居は造作もない。

 そして、ここで決めゼリフだ。プププ。

 こみ上げる笑いを必死に抑えて、俺は芝居を続ける。

 「お前は俺を一生大事にしろ。一生守ってみせろ。俺を養ってくれ。俺に楽をさせろ。毎晩ヤらせろ。俺はお前のヒモになる!」

 しばらく流れる沈黙の時間。

 「・・・」

 俺の顎先から冷たい汗が滴り落ちる。

 ゴクリっと生唾を飲み込む俺・・・

 ・・・やり過ぎた。殺される。しかも今までにない残忍さで・・・

 「・・・」

 「・・・」

 黙って見つめ合う俺たち。

 「・・・」

 「・・・」

 黙って見つめ合う俺たち。

 「・・・」

 「・・・」

 黙って見つめ合う俺たちは、非常に気不味い。

 「・・・」

 なんか凄く恥ずかしくなって来た。頼む、殺されても良いから沈黙を破ってくれぇ。一思いにザックリと・・・

 「・・・ダーリン」

 「えっ?」

 なんで目が(うる)んでいるの?

 「ダーリンは、そんなに私の強さを好いてくれるの? しかも私の容姿も好いてくれる? 私は元お庭番、汚れ仕事も数知れずこなしたわ。それでもいいの?」

 「ああ、男に二言はない。それよりダーリンって、お前はいつの時代の生まれだよ」

 そこじゃねぇ〜、俺、しっかりしろ。ちゃんと説明しないと大変なことに。

 「ダーリンと呼ばれるのが恥ずかしいの? あ・な・た」

 冗談だと告げるまもなく、お蝶が寄り添って来る。良いのか? お蝶的には、あんなデタラメなプロポーズでもOKなのか?

 いや、それより、この状況だと冗談では済まされない。

 近くで見ると本当に綺麗な顔立ちだ。オマケに胸、腰、足、全てが引き締まり絶妙のプロポーションである。

 俺の頭が一瞬真っ白に。

 「でも本当に俺で良いのか・・・お前は、とても強くて、とても綺麗で、スタイルも抜群で・・・まさか俺みたいな・・・俺、カッコ悪いし、性格も・・・そんなダメ人間と釣り合いが取れるとは思ってなくて・・・本当は何度も手を出そうと思ったけど・・・相手してもらえるなんて、そんな事、少しも思っていなかったんだ」

 しまった! マジになっちまった。これは返り討ちにされるパターンだ。

 キャハハハ、なに本気にしているの? ってハートブレークショットを撃ち込まれる最悪のパターン・・・

 「・・・今までにも、言い寄ってくる男は沢山いたわ。任務で籠絡(ろうらく)したヒヒ爺ィとか、上司で妻子持ちのヒヒ爺ィとか、雇い主でバイセクシャルのヒヒ爺ィとか、雇い主の家来で色ボケ猿顔のヒヒ爺ぃとか、一番まともなお付き合いが同僚のくノ一だったわ」

 ヒヒ爺ィばっかりかよ。いや最後に凄い告白しなかったか? いやいや、それよりバイの雇い主って、あの方やっぱりバイだったの?

 「あなたみたいな、まともな堅気の人からコクられたのは、これが初めてなのよ。ここでも言い寄る男はいたけど、ここに来るような奴らで玉無しでしょ」

 恥ずかしそうに(うつむ)く姿も、どことなく(つや)がある。

「あなたは素敵な人よ。スケベだけど真っ直ぐで、ダメ人間でも一所懸命で。ここに居る輩とは違う。一緒に居てとても楽しいわ」

 んん〜、これはこれで良いのではないだろうか。美人だし。ヒモでも良いって事だし。瓢箪(ひょうたん)から(こま)? いっやしかし、良心の呵責(かしゃく)がぁ。まぁ、ここは地獄だし、ついでに(つぐな)っちゃえば良いかな?

 俺の葛藤を他所に、お蝶が手を肩に回して来る。

 やっぱり人としてダメすぎる。ちゃんと謝ろう。

 「今度は寝屋の修練よ。くノ一のテクを見せてあげるわ」

 「おう! 風俗嬢さえも泣いて逃げ出す、亭主の底力を見せてやる。腰を抜かすんじゃねぇぞ。ぬわははははぁ」

 ナル・ア・ナル神様ごめんなさい。俺は悪い子です。欲望に負けました。

 俺はお蝶に服を()ぎ取られ、俺も負けじとお蝶の服を剥ぎ取った・・・・・・


 「・・・ふぅ」

 お蝶のため息。事が終わった後の気不味い雰囲気。

 「こっちも修行が必要だわねぇ」

 「ごめんなさい。あっという間で、ごめんなさい。情けなくてごめんなさい」

 久しぶりだったんです。お姉さん凄すぎです。恐るべき、くノ一・・・

 「まぁ良いわ。そっちも私が鍛えてあげる」

 お蝶が俺の太ももに手を這わせて来る。

 お、二回戦行けそう。

 俺はお蝶を押し倒した。

 「ちょっと、もう回復したの? 幾ら地獄でも早すぎない? イクのも早いけど」

 組んず解れつの肉弾戦が長々と展開される。尻上がりに調子が出て来て正攻法で、ただひたすら攻め続ける俺・・・。

 「ごめんなさい。もう許して。降参だわ」

 お蝶が横になったまま、気怠(けだる)げに負けを認めた。

 「もう降参か? 俺の暴れん坊は、まだまだビンビンだぜ」

 やった、地獄へ来ての初勝利じゃね?

 「あなた、テクは無いけど精力は尋常じゃないわねぇ。この私が負かされるなんて、とても信じられないわ」

 お蝶が嬉しいような、情けないような、微妙な感想を漏らす。

 「これでテクまで覚えたら末恐ろしいわね」

 少し休んで身繕(みづくろ)いを始める俺たち。

 「さ、休憩はここまで。次はこっちの番よ」

 苦無を構えるお蝶。

 「んっ!?」

 お蝶が(なぜ)故か辺りの気配を(うかが)うが、すぐに気を取り直したように構えを戻す。

 地獄の戦闘訓練再開。

 今の課題は、武器を持った相手との戦闘である。


 もう勘弁してください。やっぱり殺されるのは辛いです。心折れそうです。これはこれで地獄だけど・・・だけど何か、こんな地獄は何か違〜う。こんな責め苦があってたまるか!

どうもありがとうございました。

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