こんな責め苦があってたまるか その4
どうぞよろしくお願いします。
戦闘訓練以外では意外と優しく、俺の愚痴にも笑顔で付き合ってくれるし、多少のオイタをしても、死なない程度の折檻で済ませてくれる。
俺は、そんなお蝶の事をもっと知りたいと思っているのも事実であった。
「あなたは自信を持って良いわよ。格闘も強くなってるし、あなたは信じられないくらい精神がタフだわ。対戦で傷付いたり死んだりすると、激しく精神を消耗するものなのよ」
そう言ってお蝶は、俺の頭を優しく撫でてくれた。
精神が疲れている時に優しくされて、俺は思わず涙を流してしまう。
「惚れました。結婚してください」
自分でも信じられない言葉が、俺の口をついて出た。疲れているので、潜在意識で望んでいる願望が現れたのであろうか。
「な、ななな、何を言ってるの? この子ったら何を言ってるのかしら?」
急に顔を赤らめ、もじもじと身をよじるお蝶。
処女でもあるまいし・・・まてよ、こいつは元御庭番と言っていたな。きっとまともな恋愛なんて経験した事がなかったんじゃねぇの? そして任務中に命を落としたとか? で、こんな玉を潰された男しか居ない地獄では、まともに異性と付き合えるはずもなく・・・。
俺は魔が指したことに、少しからかってやろうと思ってしまった。
「お蝶さん。いや、お蝶」
俺は、お蝶の手をしっかり握って彼女の目を見つめる。
お蝶はアタフタと目を逸らす。
慌てるお蝶の顎に指を添えて、顔をクイっと俺の方へ向け直し。
「お蝶、俺の目を見ろ、俺は本気だ。お前の強さと優しさ、それにお前の美しさに惚れた。俺は本気だぜ。マイハニー」
対人恐怖症だった俺は、仕事も私生活も上手くいかず、友達も居らず、難病まで患い、奇跡的に交際に漕ぎつけていた彼女には、エッチもさせて貰えずに捨てられ、ヤケになり湯水の如くお金を使って遊びまくり、風俗界の有名人となり、その挙句に多額の借金をこさえて自殺した恥知らずだ。今更この手の芝居は造作もない。
そして、ここで決めゼリフだ。プププ。
こみ上げる笑いを必死に抑えて、俺は芝居を続ける。
「お前は俺を一生大事にしろ。一生守ってみせろ。俺を養ってくれ。俺に楽をさせろ。毎晩ヤらせろ。俺はお前のヒモになる!」
しばらく流れる沈黙の時間。
「・・・」
俺の顎先から冷たい汗が滴り落ちる。
ゴクリっと生唾を飲み込む俺・・・
・・・やり過ぎた。殺される。しかも今までにない残忍さで・・・
「・・・」
「・・・」
黙って見つめ合う俺たち。
「・・・」
「・・・」
黙って見つめ合う俺たち。
「・・・」
「・・・」
黙って見つめ合う俺たちは、非常に気不味い。
「・・・」
なんか凄く恥ずかしくなって来た。頼む、殺されても良いから沈黙を破ってくれぇ。一思いにザックリと・・・
「・・・ダーリン」
「えっ?」
なんで目が潤んでいるの?
「ダーリンは、そんなに私の強さを好いてくれるの? しかも私の容姿も好いてくれる? 私は元お庭番、汚れ仕事も数知れずこなしたわ。それでもいいの?」
「ああ、男に二言はない。それよりダーリンって、お前はいつの時代の生まれだよ」
そこじゃねぇ〜、俺、しっかりしろ。ちゃんと説明しないと大変なことに。
「ダーリンと呼ばれるのが恥ずかしいの? あ・な・た」
冗談だと告げるまもなく、お蝶が寄り添って来る。良いのか? お蝶的には、あんなデタラメなプロポーズでもOKなのか?
いや、それより、この状況だと冗談では済まされない。
近くで見ると本当に綺麗な顔立ちだ。オマケに胸、腰、足、全てが引き締まり絶妙のプロポーションである。
俺の頭が一瞬真っ白に。
「でも本当に俺で良いのか・・・お前は、とても強くて、とても綺麗で、スタイルも抜群で・・・まさか俺みたいな・・・俺、カッコ悪いし、性格も・・・そんなダメ人間と釣り合いが取れるとは思ってなくて・・・本当は何度も手を出そうと思ったけど・・・相手してもらえるなんて、そんな事、少しも思っていなかったんだ」
しまった! マジになっちまった。これは返り討ちにされるパターンだ。
キャハハハ、なに本気にしているの? ってハートブレークショットを撃ち込まれる最悪のパターン・・・
「・・・今までにも、言い寄ってくる男は沢山いたわ。任務で籠絡したヒヒ爺ィとか、上司で妻子持ちのヒヒ爺ィとか、雇い主でバイセクシャルのヒヒ爺ィとか、雇い主の家来で色ボケ猿顔のヒヒ爺ぃとか、一番まともなお付き合いが同僚のくノ一だったわ」
ヒヒ爺ィばっかりかよ。いや最後に凄い告白しなかったか? いやいや、それよりバイの雇い主って、あの方やっぱりバイだったの?
「あなたみたいな、まともな堅気の人からコクられたのは、これが初めてなのよ。ここでも言い寄る男はいたけど、ここに来るような奴らで玉無しでしょ」
恥ずかしそうに俯く姿も、どことなく艶がある。
「あなたは素敵な人よ。スケベだけど真っ直ぐで、ダメ人間でも一所懸命で。ここに居る輩とは違う。一緒に居てとても楽しいわ」
んん〜、これはこれで良いのではないだろうか。美人だし。ヒモでも良いって事だし。瓢箪から駒? いっやしかし、良心の呵責がぁ。まぁ、ここは地獄だし、ついでに償っちゃえば良いかな?
俺の葛藤を他所に、お蝶が手を肩に回して来る。
やっぱり人としてダメすぎる。ちゃんと謝ろう。
「今度は寝屋の修練よ。くノ一のテクを見せてあげるわ」
「おう! 風俗嬢さえも泣いて逃げ出す、亭主の底力を見せてやる。腰を抜かすんじゃねぇぞ。ぬわははははぁ」
ナル・ア・ナル神様ごめんなさい。俺は悪い子です。欲望に負けました。
俺はお蝶に服を剥ぎ取られ、俺も負けじとお蝶の服を剥ぎ取った・・・・・・
「・・・ふぅ」
お蝶のため息。事が終わった後の気不味い雰囲気。
「こっちも修行が必要だわねぇ」
「ごめんなさい。あっという間で、ごめんなさい。情けなくてごめんなさい」
久しぶりだったんです。お姉さん凄すぎです。恐るべき、くノ一・・・
「まぁ良いわ。そっちも私が鍛えてあげる」
お蝶が俺の太ももに手を這わせて来る。
お、二回戦行けそう。
俺はお蝶を押し倒した。
「ちょっと、もう回復したの? 幾ら地獄でも早すぎない? イクのも早いけど」
組んず解れつの肉弾戦が長々と展開される。尻上がりに調子が出て来て正攻法で、ただひたすら攻め続ける俺・・・。
「ごめんなさい。もう許して。降参だわ」
お蝶が横になったまま、気怠げに負けを認めた。
「もう降参か? 俺の暴れん坊は、まだまだビンビンだぜ」
やった、地獄へ来ての初勝利じゃね?
「あなた、テクは無いけど精力は尋常じゃないわねぇ。この私が負かされるなんて、とても信じられないわ」
お蝶が嬉しいような、情けないような、微妙な感想を漏らす。
「これでテクまで覚えたら末恐ろしいわね」
少し休んで身繕いを始める俺たち。
「さ、休憩はここまで。次はこっちの番よ」
苦無を構えるお蝶。
「んっ!?」
お蝶が何故か辺りの気配を伺うが、すぐに気を取り直したように構えを戻す。
地獄の戦闘訓練再開。
今の課題は、武器を持った相手との戦闘である。
もう勘弁してください。やっぱり殺されるのは辛いです。心折れそうです。これはこれで地獄だけど・・・だけど何か、こんな地獄は何か違〜う。こんな責め苦があってたまるか!
どうもありがとうございました。