こんな責め苦があってたまるか その2
どうぞよろしくお願いします。
「スイッチって、どういう事?」
「説明は聞いてないの? これがスイッチになっていて、これを押さなければ使えないのよ」
あのアマぁ。肝心な事を教えもしないで。て、おっぱい揉んだら怒って行っちゃったしな。
「じゃあ、これ使えるの?」
ポチッとな。
「これで使えるわよ。でも今まで武器を使わずに戦ってきて、それでまだ心が壊れてないの? 大したものね」
俺、ひょっとしたら褒められているのかもしれない。
「俺の肛門様には、ギョウ虫に代わってナル・ア・ナル神様が宿っていらっしゃるからな。でも、あれから幾ら呼びかけても、出て来て下さらないんだ」
「何を言ってるのか、よく分からないけどブレスを使わずに掛かって来てみて。私もブレスを使わないし、手加減するから思い切りおいで」
俺は前屈みになっているお姉さんの足を、迷わず素早く払う・・・はずが俺の左足は見事に空を切った。
さっき見られていたためか、動きを読まれたようだ。
“合わせ技が来る!”
殺され続けた本能が足払いを掛けたと同時に、反射的に俺を身構えさせる。
お姉さんの裏拳を鼻先で躱す。
“躱すだけじゃダメだ”
お姉さんは左足からの蹴りで顎先を狙って来た。
“後ろに避けたら殺られる”
俺は体を沈め蹴りを躱しながら左足でカウンターの蹴りを入れる。
そのお姉さんの右足が、すごい勢いで俺の顎先へ伸びて来た。
目の前が真っ暗になり意識が遠のく。
攻防は三、四秒くらいだろうか。
俺は何をされたんだ?
お姉さんの見事な二段蹴りだ。
残念ながら俺の右足への蹴りは、僅かに届かなかったようだ。
「ごめんね坊や。思ったよりやるもんだから、つい力が入っちゃった。本当は左の蹴りで終わると思ったんだけどね。あなたが反撃までして来たから、右の蹴りを入れちゃった」
なんだか頭の下が柔らかい、目を開けると。
膝枕!!
「あっざす」
思わず、お礼を言う俺。
「いきなり、なぁに?」
ああ素晴らしき哉、この感触。生まれて初めての膝枕が、こんな美人さんとは。
ナル・ア・ナル神様、本当にありがとうございます。
「ここへ来て、どれくらい経つの?」
「時間は良く分からないけど、確か五百戦くらいかな。二百まで数えて、バカらしくて数えるのをやめたから、よく分からん」
「へぇ〜、武器無しで五百戦かぁ。坊や、本当に凄いわねぇ。でも、私みたいに野次馬根性の者も居ると思うけど絶対カモられてるわよ」
お姉さんは俺を見下ろして少し小首を傾げた。
「確かに戦績から言えば最弱だけど・・・あんたの事が気に入ったわ。ちょっと一緒に行動してみる? お姉さんが鍛えてあげるわよ?」
気に入られてる? なら少しくらいじゃ怒られないかも。と俺は思ってしまった。
ガシ。俺のテンプルが見事に打ち抜かれた。が、しかし俺の左手には、お姉さんのお尻の感触が、しっかりと残っている。
俺は膝枕を外されたので仕方なく胡座をかいて座った。
うん、非常に残念です。
「それにしても汚いわね。ちょっと綺麗にしましょうか」
お姉さんが俺に近付き、左手を握って来る。
「こう構えて〈洗浄〉て念じるの」
お姉さんの手を握り返すと、その左手を胸に当てて俺は心の中で〈洗浄〉と強く念じた。すると、あっという間に血痕だけではなく、全身の汚れまでもが全て綺麗に消えていた。
「それで良し」
「すっげ〜。ここに来て始めて風呂に入ったような気がするよ。お姉さん、ありがとうございます」
「うんうん。分かったから、この手はもう離そうか」
「嫌です。こんな綺麗な手は、この先いつ握れるか分からないので当分離しません」
「・・・」
おやおや、お姉さん意外と初心。赤くなって黙っちゃった。
プス。
「いってぇ〜」
そんな事は有りませんでした。
俺は苦無で手を刺されて、お姉さんの手を離してしまいました。
「綺麗になってみると意外と良い男・・・じゃないねぇ」
おいおい、ひでぇ感想だな。
「一緒に行動って、どういう事? 出会った者とは殺し合うのがルール、とか言われたけど」
「ルールだけど罰はない。どうせ試験官を倒さないと抜け出せないから、細かい事はどうでも良いのよ」
お姉さんの説明では団体で行動している連中は、他に何組もあるらしい。
「紹介が、まだだったわねぇ。私は信長公の元御庭番、お蝶と呼んでね。あなたは?」
「俺は吉田祐介。しがない元サラリーマンだ」
「祐介ね。それで何をしでかしたの? 仕事のストレスが溜まって、大量に通り魔殺人でもやらかしてワイドショーで晒されたの?」
織田信長公と言えば確か安土桃山時代のはず。お姉さんは安土桃山時代の人間で良いんですよね?
「エロ本パクった、要するに春画泥棒」
「あはは、冗談はやめてよ・・・本当に? えっ、本当にぃ⁉︎」
口元を押さえてビックリするお蝶。
「それと写生で射精」
「何それ」
罪状を吐露する俺。
情けねぇなぁ俺。
「あはははは。もう勘弁して、笑い死んじゃう。ここで笑い殺されたんじゃ洒落にならないわ」
俺の罪状の数々に、一通り笑い転げて頂けました。美人さんから笑いが取れて、はい。俺は満足です。グスッ。
どうもありがとうございました。