こんな責め苦があってたまるか その1
どうぞよろしくお願いします。
俺は、いつものように目の前の敵に立ち向かっていた。
このふざけた服のせいか小汚く血に汚れているせいか、俺を見た亡者共は皆不快感を顕わにして襲い掛かって来る。
俺は相変わらず何度も殺され続けたが、神様の御導きを聞いてからは、それを励みに自分を奮い立たせて戦い続けて来た。
「小僧、そんなに弱いのに何故ブレスレットを使わない。俺を舐めているのか?」
「知るか! 使えないんだよ」
「まぁ良い。ホームレスの王、最弱の祐介。存分に殺させてもらうぞ」
何とも情けない通り名である。それにもめげず、俺は敵の攻撃を必死で避ける。
ここ暫くは攻撃を捨てて、躱す事だけに集中していた。お陰で相手の攻撃を躱すだけだったら、大分上達していると思う。
相手の構えや僅かな動き、視線などを読んで反射的に攻撃を躱す。
しかし今度の相手は強すぎる。これまでの、ただの極悪人とは違うようだ。
最近、対戦相手のレベルが上がってねぇか?
「最弱祐介殿、避けるのは上手いが、まだまだだな。俺は武術の免許皆伝者だ。お前の実力では、俺の攻撃を躱しきれるものではない。攻撃は防御ともなる。死中に活を求めよ」
戦闘が終わると、そう言い残して姿を消していった。
俺は目を閉じて今の戦闘を振り返り、イメージトレーニングを繰り返す。
思いついた動きを、その場で試してみたりもした。
しかし、その後も勝つことが出来ない。
「クッソー、素手じゃ無理だぁ。もう少しのところまでは行くんだがなぁ〜」
俺は思わず赤黒い空に、そう叫んでいた。
「俺、人生で一番努力しているんじゃないのか?」
いやいや、もう人生終わってますから。
生きてるうちに、これほど必死に努力していたら、とも思うが今更後悔しても仕方がない。
「よう最弱の。また来たぜ」
「まぁた、お前かよ。その面は良い加減、飽き飽きだ」
「まぁ、そう言うなよ。俺は意外とお前のことを気に入っているんだぜ」
俺は慌てて神様の宿るケツを隠す。
「違うわ! お前は俺の趣味じゃねぇ・・・んっ? その全身の汚れを落とせば・・・満更でもねぇかもなぁ。やらないか?」
「何だよ!本物かよ! やらねえよ!」
俺は先手を取って飛び掛かる。
「おっと、危ねぇ」
俺の前蹴りが相手の鳩尾に浅く入った。更にこめかみを狙って、引っ掛けるように左拳を打ち込む。
−浅い!−
相手が蹴りで反撃して来たが、それをすくい上げて相手の軸足を払い馬乗りになるが、防御が硬くて上手く攻められない。
折角マウントポジションを取ったのに、とても悔しい。
俺は相手の右小指を掴んで、思い切り逆に折り曲げた。骨が折れる音が響く。
相手も歯を食いしばって、左手の親指を立てて、俺の右こめかみを横から何度も叩く。
俺は相手の右手を押さえつけたまま、思い切り頭突きをかませた。
暫く揉み合う俺たち。やはり勝つ事は叶わないようだ。
「面白くねぇ。今日は止めだ」
相手は俺を見下ろして、面白くなさそうにしている。
俺は頭突きを食らわせた後、お互いに殴り合い、相手が怯んでいる隙に首を締め上げたが、脇腹をナイフで刺されて呆気なく負けてしまっていた。
「お前、強くなったな。武器無しじゃ結構いけてるんじゃないか? もう素手じゃ、お前の方が強いかもな」
男はそう言い残して、寂しそうに消えて行った。
ナル・ア・ナル神様、今日は頑張れました。本当にありがとう。
「おやぁ、近くで見ると余計に汚いし、ふざけた格好だねぇ」
男が去った直後、艶のある色っぽい声が聞こえて来た。いつの間に現れたのか初めての女性対戦者だ。しかも、とびっきり美人。
「美人さんなら、殺されても本望」
「おや、嬉しいわねぇ。美人と言ってくれるのかい」
長い髪を後ろで束ねた美人さんが、無造作に近付いて来る。
「素手で戦う最弱の亡者が居ると聞いて、さっきから見てたけど、本当にずっと素手だったわね。得物は出さないの? 幾ら何でも素手じゃ勝てないわよ?」
美人さんが優しく尋ねてくれる。
蹲っている俺に向かって前屈みになり、話しかけて来るお姉さんの程よい大きさの胸元が、とても眩しいです。
「出ねぇんだよ。壊れてるの!」
「おかしいわねぇ。ちょっと見せてみなさいな」
そう言ってブレスレットを覗き込む。
「おやおや、スイッチが入ってないじゃない。おバカな子だねぇ。だからホームレスみたいに汚いのね」
な、なんですとぉ。
どうもありがとうございました。