９ワルツで踊る・・・話
王妃を殺した女性は、俺の方を見て笑いかけてくる。
「お久しぶりですを、王。」
王の記憶の奥深くにこの女性はいた。
王が王子だった時の前妻、そして白雪姫の母。13年前離婚したその人だ。
「ど、どうしてお前が。」
王が聞く。
復讐か？心臓の鼓動が早くなる。
まさか王をも殺そうと・・・。
「ぷっ、はははは。そんなに青くならないでください。私はあなたを殺しに来たのではないのです。ただ歴史を正しくするために行動しているだけです。」
「それはどういうことだ。」
「私は真実の鏡から全てを聞いたのです、この世界の全てを。王に宿るものなら知っているはずです。」
鼓動が激しく動く。
お、俺を知ってるというのか。
「私は宿る者がどんな目的か知りませんが、とりあえず鏡に従って行動してるだけです。」話を続ける。
「私の娘、白雪を邪魔する王妃を殺す。そして私の娘が王子と結婚して・・・。この流れを止めないために私はいる。だから、王は何食わぬ顔をしとけばよかったのです。知らぬふりをしていれば良かったんです。」
『俺は・・・。』 『我は・・・。』
俺たちの言葉がかぶる。
「もう私の仕事は終わったのです。後は」
そうなのか？本当に終わったのか？
いや、話は終わってないはず。
何しろ奴がまだいないのだから。
前妻の言葉を待たず、走り出す。
近くの草むらから出てきた刃物よけるようにしてカ庇った。
「チッ。」
盛大な舌打ちをする襲撃者。
そこにいたのは小さな人。そう、8人目の小人だ。
「やはりお前だったか。」
王は剣を抜き、一気に詰めより、剣を振りかざす。
避けようとする小人だが、剣の方が早かった。
「ギャーーーーー！！！ワ・・タシ・・ノ・・・。」
そのまま血しぶきを上げ、崩れる小人。
「ど、どうして・・・分かったの・・・？」
驚いたように俺を見る前妻。
にっこりと笑い、俺は言う。
「多分この世界の異物である俺がいるのは、こいつがいるからだ。本来は言ってはいけないやつを倒すためにいる。」
ポカンとする前妻。
「あ、ありがとうございます。」
どこかぎこちない。
まあ〜無理もない。突然言われてもわからないだろう。
この世界の真実それを俺はやっとわかった。
この世界は白雪姫物語が繰り返されている。
ただ普通とは違う。
殺されかける白雪姫を救うのは小人ではなく、本当の母。今回は（多分）転生者が8人目の小人となり、白雪姫を殺そうとした。小人が帰れないように森に火をかけたのもそいつだ。前妻はそれを知らない。それを防ぐために俺がいるのだ。それが試練・・。
いや？ひとつだけわからない。最後に鉄のサンダルを履く王妃は一体誰なんだ？それだけがわからん。
俺が考えていると、目の前で突然前妻が小瓶を取り出した。
「それはいったい・・・。」
王の質問には答えず、まっすぐ見つめてくる。
「私には使命があるの。まだやらなくてはいけないことが。我が子を守るために。」
話を続ける。
「あなたと初めて出会ったあの日は、私は忘れたくない。あの日のワルツでまたあなたと踊りたかったわ。」
「・・・どういうことだ？」
王は前にいる女性を見つめる。
「私の人生はもう、役目が終わったの。生きてる意味はないの。」
悲しそうな目で王を見つめる。
俺は体も感覚がななり、2人の男女を眺めていた。
女性は小瓶の中の物を飲んだ。
すると、みるみるうちに顔はしわだらけ。髪は白に、背は縮んでしまった。
「こ、これは・・・。」
「私が殺されるしかないの。ごめんなさいね。」
弱々しい声を出して涙を流す老婆。
王は老婆を抱き寄せ、うつむくことしかできなかった。
その後は物語通り、白雪は助かり、王子と結婚することになった。
その結婚式 当日。
関係者、そして主役二人の前に1人の老婆が連れ出された。
醜いその老婆の罪状が読まれた時、会場の皆が怒り、石を投げつけた。
全員の前で刑が執行されることとなった。
熱々の鉄のサンダルを前にしても老婆は泣き言ひとつ言わなかった。
ただ前を向き、一点を見つめていた。
その人に向かい、口パクで何かを伝えた。
見えなかったのに、なぜか俺は理解できた。
「あいしてる」
会場にワルツが流れ始める。
それと共に老婆はサンダルを履いた。
決して叫ばず、その痛みに耐えた。足からは大量の血が流れ出すが、それでも叫ばなかった。
その顔は何かをやりきった時のもの。
1人悲しく踊り、息絶えた。
その夜、赤くなった目をこすり、一人自室に帰った。
彼女が託してくれたのだと繋げなければならない。
王子宛に短く手紙を出した。
『 過去は繰り返され、君は自分の過ちを知るだろう。 』
送られた手紙は十数年間、王子の部屋に貼られるであろう。
俺は涙が止まらず何度も泣く。
ー 何で君が泣くんだ。 ー
だって悲しすぎるだろ。俺から見たらバッドエンドだよ。
ー 1つの話には色々な見方ができるからね〜。 ー
あーもうやる気ない。
ー やんなきゃいけないんだぞ。・・・あ！そうか。言い忘れたことがあった。 ー
何だ？
ー あまり他人の体に転生すると、2つの魂が混じり合い、一つになってしまう。そうなるとその人間に君はなってしまう。だから君は感情移入してしまったんだ。気をつけておいて ね！ ー
もっと早く言え！感情移入してしまったじゃねえか。
ー ごめん、ごめ〜ん。でもまぁ〜そういうこと。
てきとうだな。まあいい。で、次はどこだ？
ー 切り替え早い！次は人魚姫の世界だ。頑張ってね！ ー
俺の意識はそこでなくなった。
平凡な男の旅は長かった・・・。
