四話 二代目楓一家~激突~
そして、先陣切って突っ込みかけた康太、里緖、リーファンの三名が、奴の新たに呼び寄せた組員達の銃弾の雨に消えた時、俺と礼子さんの怒りの感情は一気に爆発した。
最初は現存の組員達数名と、新たに呼び寄せた組員達数名の、合わせて十数人の手勢に守られ意気揚々と指示を出していた奴、川島洋平だったが、修羅さながらに覚醒した俺と二代目の前に、自分を守る手勢を次々に斬り斃され、このわずかな時間の間に彼を守る組員はたった四人にまで、その数を減らしており、奴の様相にも焦りの色が濃くなっていた。
「てめぇ等…たった二人で俺等ぁここまで追い詰めたなぁ褒めてやんぜ……けど…これで終わりだぁ!今また更に援軍を頼んだからよぉ……」
自分達がピンチなのは火を見るより明らかなのにも関わらず、更に人数に物を言わせて強がる奴が、俺等二人は元より、この場に居合わせた俺等道北のヤクザ者には滑稽にしか思えず、全員笑いをこらえるのに必死だった。
「……坊ぉ…わりぃこた言わねぇこのまま黙って東京お帰りなせぇよ?このままやり合ったところで…無駄に犠牲者増やすなぁそっちですぜぇ……あんたぁ俺等ぁ道北ヤクザをナメ過ぎだぁ!それからもう一つ…あんたのさっき言ってた援軍ぁ来ねぇよぉ……今しがたお宅の会長さんから連絡があってねぇウチのバカ息子の処遇はそちらさんにお任せしますとね……」
更に何か、暴言を吐こうとした奴だったが、それに対して、俺等楓一家の元上部組織で、今は北見白狼会系列の同じく直参組織になった北見黒狼会先代の朝倉源治会長だったのだが、次に奴自身の携帯端末に送られて来た、自身の父親からのメッセージを見た瞬間、奴は青ざめてその場に座り込むのだった。
「……人望のねぇ奴ぁつれぇよなぁ?実の親にまで見限られちまうんだからなぁ……哀れなもんだぜ……」
そう言って、更にみっともなく足掻こうとする奴の両足を撃ち抜いたのは、現、朝倉一家二代目の朝倉良治総長だった。
「……てめぇ等弱小風情がぁ次期四代目になろうかってぇ俺にぃここまで恥じぃかかしといてぇただで済むと思うなよぉ!」
この男、本当にバカじゃなかろうかと思うほどに、自分のおかれている現状を全く理解していなかった。
「ったく…てめぇの親父さんも苦労するよなぁ……次期四代目になろうってのがてめぇのおかれた現状も理解できないおおバカ野郎じゃあよぉ!!」
この男、川島洋平は殺す価値も無い奴だと判断した俺は、そう言うと、立ち上がる事すらままならない奴の両腕を、肘から下、一刀両断に斬り落とすのだった。
そして更に、激痛にのたうちまわる奴に、留めの一言を投げつけた。
「てめぇなんざぁ殺す価値もねぇよ……東京帰って親父さんにきつくお叱りを受けなぁ……って俺が言いてぇのはそれだけだけどよぉ…どれもこれもてめぇの態度しだいだしよぉウチの姐さんしだいだな……」
俺はそう言うと、段平の刃を鞘に収めてその場から一歩下がるのだった。
「……そうさねぇ…あたしの旦那になって…次期白狼会三代目になってもらおうあんたの決め事にあたしゃ何の異論もありゃしないよ……ただ一つ…あるとすりゃあ康太達三人を殺めた事だきゃあ詫びてもらいたいねぇ……」
彼女は静かな声音でそう言うと、着流しの帯に挟んでいた康太さんの使っていた拳銃を抜き、静かにスライドを引いた。
『ガシャッ』
っと渇いた金属音とともに、撃鉄が起こされ、装填されていたカートリッジから弾丸が薬室に送り込まれる音とともにそれは奴の眉間に突きつけられていた。
「姐さん!そいつを弾いちゃだめだぁ!危うくこいつのクソ親父の策略に嵌まるとこだったぜぇ……こいつのクソ親父ぁこの道北侵攻のためならじつの息子ですらその道具にしようって魂胆らしいぃやな……けど…そんなんなったら道外からの侵略者をみすみす増やすようなもんだぁ……そうなる前に…このバカ生かしたまま東京連れてってその場で一気に伐って出る!!」
俺はそう言うと、元北見黒狼会の朝倉源治、良治親子に目で合図をするのだった。
「……鬼と出るか蛇と出るか?イチかバチかのちっとばっかし無謀にも思えるが…今ぁそれしか策がねぇ……やるしかなさそうだな……しかしこの作戦…東京へは俺と海人の二人で伐って出る!親父と隼人の叔父貴ぁこの道北を北見を頼んます!」
俺のアイコンタクトに応えるように、朝倉一家二代目の、朝倉良治総長が決起してくれた。
「ちょいとお待ちよぉ……誰か一人忘れちゃないかえ?良治ぃ……あたしゃ置いてきぼりかい?」
そう言って、彼の決起に意義を唱えたのは、白狼会二代目の神楽礼子さんだった。
「……姐さん…いぃや…礼子ぉ……こかぁ俺と良治に任せてくんねぇか?ちゃんとした祝言はまだぁ上げちゃいねぇが…あんたたぁ許嫁の契りぁ交わしてんだぁ……必ず…良治と二人…生きて帰る……俺等を信じて…この北見でおやっさん達と待っていてもらえませんか?姐さん!」
俺はそう言うと、泣いて縋る礼子さんの肩をがっしりと抱きしめた。
「……礼子ぉ…彼を信じてやれぇ……海人君は決しておまえとの約束を不義にするような男じゃない……それにだぁ…黙って愛しい人を待つのも極道の女の務めじゃねぇのかぁ?おめぇが一階の女極道なら俺もこんな野暮は言わねぇよぉ……けど…今のおめぇはそうじゃねぇだろ?亭主になってくれる彼が帰って来るまでにきっちり地固めしてやんのがぁ今のおめぇの務めじゃねぇのかい?」
そう、彼女を諭すようになだめてくれたのは、北見白狼会、初代でもあり、今は愛娘の礼子さんに代を譲り、二代目北見白狼会、最高顧問に就任した神楽竜二さんだった。
「……わかった…そうだよね……愛しいあの人が帰って来る場所守るのが…今のあたしの最重要課題って訳だぁ……白銀の雪のように真っ白で…真っ新になった北見白狼会をきっとあんたに渡すからね……だからあんたも…必ず生きて帰っといでぇ!勝手にくたばったりしたらぁあたしぃ…許さないからぁ!」
自身の実の父親に諭されて、涙にくもっていた彼女の瞳が、再び輝きを取り戻した時、俺に肩を抱かれて震えていた彼女が、俺を真正面から見据えて、俺の唇に口づけた。
一方そのころ、東京に本拠を構える関東龍神会内部でも、川島派と反川島派で内部分裂の火種がプスプスと燻っていた。
「おぉ…川島ぁ……この喧嘩ぁどう足掻こうがてめぇの負けだぁ……おめぇは俺と義兄弟の康太で築き上げてきた道北との絆を壊したばかりか道北最強のヤクザ者を二人もいっぺんに怒らしちまったんだぁ……楓海人…朝倉良治……この二人ぁ道北最強の極道よぉ……おめぇがどれだけ手勢を揃えようがぁ…あの二人にゃあ万に一つも勝てねぇってこったぁ……」
俺等二人の道北出立の情報を聞き、俺等二人を迎え伐つべく、着々と迎撃対策を推し進めるる第四代関東龍神会、会長。川島良悟にそう苦言を呈したのは、奴等親子が共謀して、薬漬けにしたはずの里中浩二さんだった。
「……てめぇ…シャブ漬けになったんじゃなかったのか?まぁいい……道北最強かなんか知らねぇが…奴等ぁ…はっきり言って俺等の組織力をナメ過ぎだぁ!それともう一つ…今回のこの一連の騒動……全部てめぇの仕業だって
でっち上げちまやぁそれで万事休すよぉ……」
奴、川島良悟は不適にそう笑うと、サイレンサーを着けた拳銃を彼、里中浩二さんに向け、発砲しようとした刹那、間一髪にその現場に飛び込んだ
俺の段平の刃が奴の拳銃の銃弾を弾き返し、俺の後に控えていた良治さんが奴のバカ息子に拳銃を突きつけて言った。
「てめぇがその人弾きゃあよぉ……てめぇのバカ息子も頭吹っ飛ぶぜぇ」
良治さんの低く威圧感のある声が、俺等二人が参入によって俄に騒がしくなった関東龍神会本部事務所内に響いた。
この二人のやり取りに、今度は俄に静まりかえる関東龍神会本部事務所内。
だが奴だけは、顔色一つ変えず、動揺した様子も無く、何の躊躇いも無く、良治さんに抑えつけられている自身の息子の眉間を一発で撃ち抜くのだった。
だがしかし、奴もまた、瞬時に斬り込んだ俺の段平の刃によって、両腕を斬り落とされ、血の海をのたうちまわっていた。
しかし、その場に居合わせた組員達の反応は真っ二つに分かれていた。
反川島派の組員達は、俺等二人を守ると言うよりは、彼等の大将、里中浩二さんをガードする体型を取り、また、反里中派の組員達は一斉に俺等二人と浩二さんをも伐ちとらん勢いで牙を剥き、襲いかかってきた。
「浩二さん!ご無事で何よりです!この騒動が治まったら…俺等二人と一緒に道北帰りましょう!」
激闘の渦にその身を踊らせよう刹那、俺は浩二さんと短い会話を交わした。