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十一話 二代目楓一家~狼達のエピローグ~④~

 

 そして、出立の朝。


 白地に金糸のストライプ柄のマオカラーのスーツに身を包んだ俺達三人は、釧路港に手配していた船に乗り、一路、日本の首都。東京へと旅立つのだった。


 一方その頃東京では、妻礼子の予測どおり、彼、露木浩行さんが、美奈子さんの姉、葛城恵梨香さんとの壮絶なトラブルの末、命に関わる重傷を負い警察病院に入院中の現、警視副総監の信楽深雪に対して、彼女の息の根を完全に止めるべく、強行に及ぼうとしていたため、早朝に釧路港を出て、夕方くらいに俺達三人が東京に着いた頃には、都内全域に厳戒態勢がしかれており、警視庁に近づく陸路は完全封鎖されていた。


 しかし、俺達だってバカじゃない。


 こうなることは予測済みだった俺達三人は、北見を出るとき、美奈子さんから秘策を授かって来ていた。


 それは、俺達三人が道警捜査本部からの応援要員として、難無く東京上陸から警視庁内部に潜り込める手筈になっていたのだが、俺達三人の作戦は、警視庁上層部に在籍する一人の警察官僚によってすでに見破られており、東京上陸後すぐに俺達三人は、数人の警視庁捜査官達によって、その身柄を拘束されてしまうのだった。


「手荒な手法を取った事…許してはくれまいか?この方が…君等も手間が省けると思ったのでね……警察官僚の私が君等部外者にこんな事を頼むのは筋違いなのは百も承知のうえ…だが敢えて頼む!彼の強行を止めてくれないか……彼が今なし得ようとしている事はこの日本全土の治安を請け負う警視庁をも転覆しかねない一大事……私の娘を想い…私の娘をここまで愛してくれた男は彼をおいて他にはいないだろう……

 公務に私情が挟めるならば…彼に本懐を遂げさせてやりたいとこだよ……ただ…如何せん相手が悪すぎる……」


 半ば強制的に拘束はされたものの、手持ちの武器類はそのままに、警視庁のとある一室に連れてこられた俺達三人に対して、一脚のテーブルを挟む形で、一人の初老の警察官僚が話しはじめていたのだが、彼の語り口からは何の感慨もわかず、ただ、己の保身だけを考えているようにしか、俺達三人には思えず、一脚のテーブルを挟み、彼と俺達三人は、一触即発の睨み合いをつづけていた。


「……これでやっと謎が解けたぜぇ……ヒロさんが美奈子さんを道北に足止めした理由がよぉ!」


 彼の指示で別室に待機していた警官達が一斉に部屋になだれ込んだとき、それこそが勝負の時と睨んだ俺は、決起の狼煙とばかりに、向かって来た警官の一人を峰打ちに仕留めていた。


「……どうやら私が君等に頼んだ事は私の失策だったようだな……こいつら全員!公務執行妨害で逮捕しろ!」


 六人ほどの警官達に護られながら、初老の警察官僚、葛城隆三警視監がそう宣言した時だった。

 俺達三人に襲いくるはずの警官達は一人二人、そしてまた一人と、室外から飛んで来たゴム弾に倒されていくのだった。


「……貴方の悪巧みもここまでだ!葛城警視監!」


 そう言って、この修羅場に参入してきたのは、信楽深雪警視副総監に肩を貸し、硝煙の立ちのぼる拳銃を構えた露木浩行警視だった。


「ヒロさん…間一髪だったよ……後数秒遅かったらこいつら全員血祭りに上げてたとこだったぜぇ……」


 彼、露木浩行と信楽深雪の参入に、冷静さを装ってはいたが、臨戦態勢を崩すことはなかった。


「君等なら…無益な殺しはしないと信じてはいたが……解いてはくれないんだな……臨戦態勢を……」


 そういう彼もまた、先ほどのゴム弾を発砲した拳銃とは明らかに違う、捜査四課の刑事だけが所持の許されているアメリカ製の四十五口径の大型拳銃の鈍く光る銃口を俺達三人に向けていたのだが、このとき彼、露木浩行警視がとった行動は、俺達三人と彼、葛城隆三警視監からすれば滑稽にしか思えず、俺達四人には笑いを噛み殺すので必死だった。


「……露木浩行警視…拳銃を下ろしたまえ!この勝負君等二人の負けだ!君等二人には正直言うなら失望したよ……お三方に改めてお願いしたい!この警視庁内部のゴミ掃除をな……」


 彼、葛城隆三警視監がそう言って、俺達三人の前、彼の命令を聞かず拳銃を下ろそうとしない、露木浩行の前にその無防備なまま、近寄っていき、その彼に対して、露木浩行さんが拳銃のトリガーに指をかけたときだった。


「……いい加減銃を下ろしなよヒロさん……これでやっとわかったぜぇ以前俺達が東京に来たとき…良次さんの言ってた意味がよぉ……あんたぁ刑事としちゃあ優秀かもしれねぇがよぉ…男としちゃあクズ以下だなぁ!」


 長い膠着状態を続ける俺達四人と、露木浩行、信楽深雪の二人。


 そう言ってしびれを切らせたように、拳銃を構える彼、露木浩行の両手首を俺は、持っていた日本刀で斬り飛ばしていた。


「……三代目ぇこのクソ外道ぉの始末ぁ俺に任せちゃもらえませんか?こいつにゃあ…いいや…こいつら二人にゃあ話してもらいてぇことが山ほどあるんだぁ……」


 彼の両手首を斬り飛ばして尚、彼に対する臨戦態勢を崩さない俺に、良次さんはそう言うと、俺と彼との間に割って入るのだった。


「……わかったよぉ……そっちの外道二人ぁあんたに任せたぜぇカシラぁ……」


 俺はそう言うと、刃に残った血痕を払い、刃を収めた日本刀を右手に持ち変え戦意の無い事を示して彼、葛城隆三警視監に深く頭を下げるのだった。

「葛城さんよぉ…あんたにもこのままおとなしく俺等と道北に来てもらうぜぇ?あんたも父親ならよぉ事の真相ってやつをたった一人生き残った娘さんによぉ話してやるべきじゃねぇのかい?」


 俺はそう言うと、眼前に仁王立ちになる彼、葛城隆三さんと同じ目線で、彼の目をしっかりと見据えて言った。


「カシラぁ!あんたもその二人…殺すんじゃないよ?あんた達二人にも道警本部であの子…葛城美奈子ちゃんに事のからくりぃきっちり話してもらうんだからねぇ……」


 あわや、露木浩行と信楽深雪の両名を殺害しかねない勢いで責めたてる、三代目若頭、朝倉良次事、海原良次に、あたしはそう声をかけた。


「あなた達!あたし達警察幹部職員にこの許し難い屈辱と狼藉!どうなるかわかっててやってるでしょうね!?」


 すでに、彼、朝倉良次に強烈な峰打ちを喰らわされ、おとなしく意識を手放した、露木浩行、に相反して彼女、信楽深雪だけはみっともなく虚勢を張るのだった。


「……ったくぅ!口の減らない女だねぇあんたぁ!」


 彼女のその、警察官僚らしからぬ虚勢は、その場に居合わせたあたし達三人全員の逆鱗に触れており、あたしの放った強烈な峰打ちによっておとなしくなっていたはずだった。


 しかしここで彼女は、とんでもない暴挙に出ていたのである。


 何と彼女は、事もあろうか、上官である彼、葛城隆三さんに向けて彼、露木浩行の落とした拳銃を拾い、それを発砲していたのである。


「……貴方が…貴方が全部悪いのよ……自分の黒い噂を実の娘の恵梨香さんに観ずかれたとふむやいなやあたし達二人を手駒にして…恵梨香さんの殺害を画策して…手始めにあたしの義理の弟である凌矢を毒殺…跡は…あたしと恵梨香さんを争わせて願わくばあたし達二人も殺すつもりだったのよね……けど…おあいにく様よね……貴方の計画は後少しのとこでロス帰りのもう一人の娘さん…美奈子ちゃんに観ずかれちゃったのよね……貴方の敗因を教えましょうか?それは二つあるわ!まず一つは妹の美奈子ちゃんをロスに送り出して殺人機械のような人間にしたこともう一つはあたしと貴方の長女…葛城恵梨香さんが親友以上の関係だったことよ!」


 彼女はそういうと、先ほど彼に発砲した拳銃を自分の下顎あたりに押し当て、そのトリガーに力を入れようとした刹那だった。


 彼女の手にした拳銃は、あたしの投げた一本のスローイングナイフが弾き飛ばしていた。


「……そういうからくりだったんだなぁ?手荒な真似してすまなかったな…信楽深雪警視副総監……露木浩行警視……」


 あたしの夫、楓海人という漢は、常に今は徐々に薄れつつある任侠道をまい進しつづけ、任侠道をこよなく愛する。今どきの若者にはまずいないタイプの本物の侠客だ。


 そんな彼だからこそ、親子ほども歳が離れてはいたが、そんな彼だからこそ、あたしは彼と生涯を伴にしたいと思った。


「……深雪ちゃん…浩行くん……今の事…あたし等三人と一緒に道北に来てもらってあたし等の帰りを道北で待つ美奈子ちゃんやあたし等の父親達に全て話してくれないかえ?」


 あたしに拳銃を弾き飛ばされて、呆然と座り込む彼女、信楽深雪とあたしの夫、楓海人によって意識を回復した彼、露木浩行に対してあたしは、二人と同じ目線でそういうと、二人に深く頭を下げるのだった。


「待て待てぃ!貴様等!ここまでの騒ぎを起こしといてこの警視庁を外に出れると思ってかぁ!貴様等はどれだけ私の計画をぶち壊せば気が済むと言うのだぁ!私は決して今の官位に満足などしていないのだぁ!ゆくゆくはこの日本全土の警察機関を束ねる警察庁長官が私の最終目的……その目的を打ち砕くばかりかこの後に及んで私を裏切るのかね?信楽深雪警視副総監……露木浩行警視!私が罰せられるという事は君等も同罪なのだよ!」


 今の今まで、しおらしく神妙にあたしの夫の言う事を聞いていたはずの、葛城隆三警視監。


 けれどこの瞬間彼は、化けの皮でも剥がれかのように、国家権力に取り憑かれた金と権力の亡者となり、さらにはこの騒ぎを聞きつけてこの部屋に集まって来た警官隊と、事もあろうか、現、警視総監の信楽敬三さんまでもを巻き込み、その部屋からの脱出を試みるあたし等の、足止めを指示したのだが、そこに集まった警官隊と、警視総監の信楽敬三さんの反応は、彼、葛城隆三警視監の想像をはるかに裏切る物だった。


「……葛城隆三警視監……貴方にははっきり言って失望した……貴方のような金と権力の亡者が警察庁長官などという役職になど就いたらそれこそお国の一大事だ!葛城隆三警視監!彼等をこのままおとなしく北海道に帰して…警察庁の裁きを受けるか?それともこの場で彼等に伐たれるか?貴方の選べる選択肢はこの二択しか残っていませんよ!」


 彼、信楽敬三警視総監は静かにそういうと、俺達三人に深く頭を下げた。


「信楽さん…一つだけ教えてくれねぇか?あんたにとっても俺達三人はお宅の娘さんを道警本部から追い出しちまった人間だぁ……恨む事こそあれ…

 助けてもらう言われは無いはずだが?」

 あたし等三人の前、未だ頭を下げ続ける彼に、三代目若頭の彼、朝倉良次事海原良次が、そう問いかけた。

「……君の本当の父親…海原浩介さんは…私の道警本部時代の最高のバディだった……その親父さんを私は義理の息子の凌矢を守りたいが一心で絶体絶命の窮地にあった彼を見殺しにしてしまった……正直相棒失格の私を君の親父さんは笑って許してくれたんだ……私も娘もあの時の事は一日たりとも忘れた事はなかった……良次君…あえて私達親子を許してくれとは言わん……今回の事案は一切不問にする……娘の事…浩行君の事…よろしく頼む」


 彼、信楽敬三警視総監は静かにそういうと、再びあたし等三人に深く頭を下げた。


「信楽さん…頭ぁ上げなよ……あんたの娘さんと浩行のこたぁ俺等の三代目に任しときゃよあんたの悪いようにゃあしねぇよ……そのかわり…この腐れ外道の所業きっちりと頼んます……」


 彼、朝倉良次事海原良次はそういうと、信楽敬三警視総監をそっと立たせ、未だに何か文句を言いたげにする葛城隆三警視監の延髄に強烈な峰打ちをくらわせるのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言]  浩行さん、腕切り落とされ損のような気が···。(*´Д`*)  浩行さん、病院連れて行かないと出血多量で死んだりしませんか。  誰が味方なのか敵なのかが少し解りずらかったです。  浩行さ…
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