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一話~二代目楓一家結成~0~

 俺の名は、楓海人。


 俺が産声を上げたのは1965年代の北の大地、北海道の北見市だった。俺の生家は、この北見に本拠を構え、道民一体型の任侠一家、北見黒狼会の二次団体。楓組初代で父親の楓隼人。


 その父親を助けるためにと、カタギではあったけど、渡世の門を叩いた母親、楓瑞樹との間に生まれた俺は、母親に似たのか容姿淡麗で、一見すると女性に間違われるほどの美人顔だったのだが、性格は父親譲りで無類の喧嘩好きな俺だったけど、これは常々父親に言われてきた事で、何があっても男たる者、女を泣かせるべからずの信念を切々と語られた事があったため、母親を悲しませる事だけは一切しなかった。

 俺の産声を上げた昭和四十年代の北見市は、戦後から今日に至るまで、この地に根付いていた義理人情と言った昔の考えが徐々に薄れ始め、経済界は言うに及ばず、政界にまで暴力団に品格を下げた輩が横行していたのである。

 この、任侠仁義に唾吐く輩の跋扈により、北見市民だけでなく、全ての道民の生活が脅かされる事を懸念した俺の父親が率いる楓組は、自分達の上部団体でもある、北見黒狼会に掛け合ったのだが、代変わりをしたばかりの二代目北見黒狼会には増えつづける輩と化した外道者達を止める力はまだ無く、廃れゆく道北任侠界を見守るしかできなかったのである。


「オヤジぃ朝倉さんとこの良次だったら俺に任せてくれねぇか?あいつたぁガキの頃から五分義兄弟の間柄だぁオヤジは母さんを頼む!この交渉上手くいくかなんて俺にもわからねぇ……けどよぉ誰かがやらなきゃよぉ親父や朝倉さん達の築き上げてきたモンがよぉ台無しになっちまう!親父の息子としてそれだけは断じて我慢ならねぇ……」

 はっきり言って、場違いなのは充分理解していたつもりだった。親父の組関係の人間でもない当時の俺が、親父達の組のいざこざに首を突っ込むなど、お門違いも甚だしいのも理解しているつもりだった。けどその当時の俺には、親父達の苦労が手に取るように解り、黙って見過ごす事はできなかったのである。


「……海人よぉ…おめぇそれ本気で言ってんのか?おめぇはまだカタギの人間だ…けど…この交渉事に首を突っ込んだら二度とカタギにゃあ戻れねぇんだぞ……それでもいいのか?可笑しな話しだが俺等大の大人が頭ぁ突き合わせて話し合ってもラチがあかねぇ正直言やぁ俺等から頭ぁ下げて頼みてぇのはやまやまだがよぉ…何処の世界にいんだよ!実の息子にヤクザな人生歩きたがらせる親がよぉ…!」

 北見黒狼会系楓組初代組長であり、俺の実父でもある楓隼人。彼の俺の人生を配慮してのその言葉、鋭利な刃物のように俺の胸に突き刺った。されど当時の俺はすでに、渡世の門をくぐる覚悟を決めていたため、逆に父親に問い返していた。


「……親父…俺は親父の跡取りにもなれねぇのか?渡世に入る覚悟ぁとうに括ってる……この交渉事…俺にやらせてもらえませんか?組長!」


 俺はそう言って姿勢を正すと、楓組本家大広間に集まった楓組幹部組員の前、上座に座る自身の父親でもある楓組初代組長楓隼人に深く頭を下げるのだった。


 そしてこの時、俺、楓海人。十八歳と二ヶ月。渡世の門を叩き、正式に楓組の一員となったのだが、そこに集まった幹部組員満場一致の後押しもあり俺は、入門僅か数時間で、若頭のポストに就任することになるのだったが、俺の若頭就任に異を唱える者は一人もいなかったのである。


 しかし、俺の初代楓組若頭襲名披露からの二年間は、疾風怒濤の二年間で、ヤクザ渡世の厳しい現実を痛いほどに知らされることになったのである。


 極道から外道に品格を下げた輩の跋扈を止めるべく臨んだ、自分達の上部団体でもある北見黒狼会との話し合い交渉だったが、結論から言えば交渉は決裂。加えて言うなら、自分達上部団体である黒狼会に対し何の話しも無しに俺を組の若頭に推した親父達が咎められ、結果、楓組は黒狼会から絶縁処分を受け、組を潰しかねない窮地へと追いやられたのであった。


「……海人よぉ…おめぇはしっかりとカシラとしての役目を全うしてくれたぁ……ありがとよぉ…けど…上部団体から絶縁状が出たんじゃ仕方がねぇ……初代楓組ぁ今日で解散だ……けど安心しなぁおめぇらの行く末はちゃあんと考えてある……東京の西新宿に本拠を構える関東龍神会系二代目龍神一家がこれからの…二代目楓組の活動の場だぁ……跡の始末ぁ全てこの俺が…初代組長であるこの俺が全責任をもって請け負う!以上!散会!」


 若頭襲名からの初仕事と意気込んで出かけたはいいが、残念な結果しか持ち帰なかった俺、けれど、父親を始めとする初代楓組幹部連は優しく、次代を俺に託し、初代組長であり、俺の父親でもある楓隼人は静かに初代楓組の解散を宣言するのだった。


「ちょいと邪魔するよ!?解散なんてはやまるんじゃないよぉ隼人さん……この絶縁状にゃあウラがあんだよ……しいてゆうなら…今回の決裂した交渉事にもねぇ……」


 そう言って、親父の解散宣言直後、楓組本家事務所玄関前に姿を見せたのは、第二代北見白狼会会長の神楽礼子さんだった。


「……礼子お嬢さん…ウラがあるたぁどう言ったご了見で?」


 突然の彼女の来訪に、ざわめく楓組幹部連を制して、父親、楓隼人は静かに彼女に問い返した。


 彼女の話しによればこれは、今正に俺達が送り込まれようとしてた関東龍神会と、その後ろ盾を得た自分達楓組の上部団体北見黒狼会との間に交わされた極秘事項だというものだった。


「……なんですって?じゃあ俺達の絶縁はぁもともと仕組まれていたと?関東龍神会のような大所帯の組織がなんでまた…うちみてぇな小規模組織を警戒するんだ……」


 礼子さんの話しを聞いた後、当然といえば当然の疑問を、親父が口にした。


「……それはおそらく…このわずか二年の間に破竹の勢いそのままメキメキと頭角を現し始めた海人君を恐れていると…あたしは睨んでる……この道北侵攻の足がかりにと抱き込んだあんたがたの上部団体…北見黒狼会を皮切りに関東系のヤクザを次々送り込みいずれはこの道北全土を手中に収めるのが奴等の狙い…それを阻止するかのように振る舞う存在は奴等にとってはっきり言って邪魔……

 おそらく…龍神会側はあんたがた親子を獲れって言ったはず…けどそれはあまりにも無慈悲だってことで朝倉さん親子が絶縁処分に留めてくれたんだろうね……隼人さん!楓海人二代目!朝倉の叔父貴から連絡は受けてます……これからはあたし共北見白狼会の直参組織として参賀して頂きます!」


 彼女、北見白狼会二代目。神楽礼子はそう言うと着物そのままに、玄関前に座り込むと俺達親子に、深く頭を下げるのだった。


「お嬢さん…お話しはよぉくわかりやしたぁ……とにかく頭をお上げ下さいやし……そう言うことでしたら…海人をうちの二代目をよろしくお頼み申しやす……あっしぁ朝倉の叔父貴に最後の仁義を通してから参賀させて頂きやす……」


 父親、楓隼人はそう言うと、事務所玄関前で頭を下げる北見白狼会二代目、神楽礼子を立たせ、事務所大広間の上座に座らせて、彼女の前に傅いた。


「……隼人の叔父貴ぃそれから二代目ぇあんたがた親子ぁ本物の侠客…万が一に備えてその最後の御奉公…あたし共北見白狼会…神楽親子も御一緒させて頂いても構いませんか?」


 女に生まれながら、義侠心一つで二代目に上り詰めたと伝え聞く彼女の言葉は、この時の俺達親子には、反論の余地のない、説得力のある、慈愛に満ちた言葉だった。


 しかしこの時、俺達が行動に出る以前に、関東龍神会は着々と侵攻速度を上げ、気がつけば、俺達の事務所はすでに、関東龍神会から派生した関東系のヤクザ者達によって事務所周りを完全に包囲されていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点]   [一言]  楓海人くん、美形なんですね❗❗( ☆∀☆)  しかも喧嘩も強そうだし❗  嬉しいですう。゜+。:.゜(*゜Д゜*)゜.:。+゜  私、美少年に生まれたかったので、もうめちゃ…
[良い点]  極道と外道。道を極めたものと外れたもの。  こういった話はあまり詳しくはないのですが、何となくこの言葉に当人たちの心根や覚悟の違いのようなものを感じました。 [一言]  新連載ですね! …
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